第2話:治世者~prince-elector of the seven with god~
「ふむ、なんじゃ。気になるの」
アスタルテは俺が出した紅茶を興味深そうに飲みつつ聞いてきた。
「それ、けっこう高いんだからな。ありがたがって飲めよ」
「人間の価値は神にはわからんしどうでもいいことじゃ。ほれ、はよ話さんか」
「はあ……まったく」
神様に人間の価値観を求めてもしょうがないか。逆に神様の価値観求められても俺だってわかんないしな……やっすいお茶でも出せばよかったよ。さてどこから話したもんか……やっぱり最初の最初っからだよな。
「ナポレッタが討伐されたとき、無理な内政もあったし戦争で疲弊した財政を戦争で買って取り戻そうとする変な循環も生まれつつあって討たれた当初は国民も納得、新しい上層部に大部分が従った。また選帝侯という地位をつくり力がある大貴族7家系を選びその中から一定期間ごとに貴族諸侯の選挙で皇帝を選ぶという制度を採ったことでナポレッタ政治では疎まれ、政治の中心には限られた貴族しか関われなかったので大部分の貴族はこれを喜んだんだ。だけど、こんなの貴族どうしの争いしか生まないわけだ」
「なぜじゃ?知もあり金も権力もある貴族が選挙で選ぶなら間違いはおこらんだろう」
「知もあり金も権力あるからいけなかった。この選挙は貴族一人に一票が与えられた。どれだけ土地が小さくとも大きくとも一票だ。その一票に価値は変わりない。これがまずかった。皇帝となれば莫大な権力と金が己の思うとおりに扱える。自分の土地に流用することだって可能だ。誰にもわからないからな。そんなわけで皇帝になりたい7人はどうすると思う?イズ」
「票の買収……ですか?」
「そう。小貴族へは武力行使で。大貴族へは取引で。そんなわけで地方には紛争が絶えず経済は困窮している」
「それはおかしいではないか。財政がおかしくなってきたからあの小僧は追い出されたんじゃぞ? 一緒ではないか」
「そうではない。実際金は溜め込むのではなく使われるから帝都や大貴族の土地など中心部ではかなり発展しているし財政状況もいい。地方だって戦争のための武器や防衛のために使わざるをえないから持ってるところは持ってるがそいつらは使わず小出しにしてるから市民は貧しいし元々財力がそんなにない貴族が金を使っているからその貴族も困窮する」
「なるほど……でも記録を見てみると初代皇帝の時代の方が経済は全体的に見てもいいですよ?」
「ああ、そうなんだ。でも国と国の戦争ではこちらだって少なくない被害は受けるし負けた時のリスクも大きい。何より大貴族から徴兵されるのが嫌だったんだろうな。だからそんなやり方の経済をした初代はその座を追われたんだ」
「ふむ……流れはわかったがそれがどうして神様を信じる、というか知ってるという話になるのだ?」
「こっから話すから」
今まではその伏線。つまりこの流れを知らないとわけがわからなくなる。
「こんなこと長続きするわけがなく市民、特に地方の市民は不満が爆発した。つまり反乱が各地で勃発したのさ。しかしこの流れは長くは続かなかった。表舞台に現れた神のせいだ」
「各地で起こった反乱はその上位貴族、つまり7選帝侯が直々に叩き潰したと聞いています。たった一人で、神の力を使って」
とイズが引き継ぐ。
「そう。そうすることで神の力を市民ならず不満を持っていた貴族にも実感させた。反乱騒動がひと段落したあと帝都に7選帝侯が全員集まり、後ろには契約した神を従え演説を行った。その声はザナドゥ全体に響き渡ったと言い伝えられている」
「その演説で都市部にいた市民・貴族は神を実際に見て恐れおののき、地方に市民・貴族は帝都にいるはずの声が聞こえたことに圧倒的な力の差を見せつけられ再び反乱を起こす気を失った。それが100年前でしたよね?」
「そう。そしてその演説では我々7選帝侯はこのとおり神に選ばれ神を従えし者であるから我々は正しく我々が下々の上に立たなくてはならない。と仰せられ正当性を私たち下劣な民に教えてくださったのだー。とも併せて書いてある書物が多いよな」
「なるほど。それがこの国に神の存在が知られている理由か……ふむ。解せぬな」
「何がだよ?」
「神は必要以上に人に知られるのを嫌うのが一般的なのじゃ。だから姿を見せても神だとは言わん。その七柱がどこのどいつか知らんがまともとは思えんな」
あのー。アスタルテさん?アンタも俺の前に至極当然のように神だって言ってきたじゃありませんか。
「それは、シャルが今の契約者であるから当然であろう。イズは問題なさそうだしの」
そんなもんか。決まりではないらしいからそこまで問題視するほどではないのだろう。
「ふむ……。この国の今の状況はわかった!はよぉ国を頂きに参るぞ」
「何を聞いてた!?」
「うん? じゃから今の国に不満があるのが多い。なら革命を起こしやすいではないか!」
こんの……幼女神様は!!
「それでも今まで革命が起きなかったのはバックに神様という強大な存在がいるからだ。万が一革命を起こそうとしても誰も見方につかず密告される可能性の方が高い。さらに万が一の万が一革命に成功したとして神という強大な力を盾に不満を抑えていた。その枷が外れることになる。混乱が起こることは確実だ。いや、混乱で済めばいいほうだ。戦乱の世になるぞ」
「そうならぬように強力なリーダーシップでこの国を導いてやるのが革命者の役割じゃろうて。万民が万民納得する政治などありやせんぞ。ただこの国が行くべき路を示してやればいいのじゃ。それに納得しついてくるものだっているじゃろ。付いてこん者は力でねじ伏せればいい。」
それじゃあ今と一緒じゃないか。俺は頭を抱えた。
「付いてきた人たちだっていずれ考えの相違が出てきて衝突するかもしれないだろ。その時はどうするんだ」
「そんなのは人間が決めることで妾が関与するところではないな。それにそういうことを防ぐために一番に全権力を集め口出しさせぬようにしてるのじゃろ?それは利口ではないか。力あるものが他の人間を服従させる。まあ見てると妾は退屈しのぎにはなっていたぞ?」
はあ。まるで話が通じない。神様の退屈しのぎなんかに生きていないのだ。
「そんなに国を獲りたいなら一人……いや一柱?で獲ってこいよ」
「それは無理な相談じゃな。妾たち神は人間界では己の力を使えんのじゃよ。身体の頑丈さにおいてはよほどのことがない限り死にはせんがな。せいぜいシャルに古代魔術の発動を手助けするくらいじゃな」
だからシャルに獲ってもらう他ないのじゃ。とアスタルテ。
そう言われても俺にその気はないしそもそも誰も国を混乱に落とすことは誰も、市民ですら望んでいない。現在の統治は力でねじ伏せてるだけだ。それは認めるが押さえつける力がなくなった時、国民全員が暴動を起こすことはないだろうが大部分の国民は貴族の排除に乗り出すことは想像に難くない。
そうなれば金と知識を持っている貴族は他国へ逃げるだろう。この国は金も知識もない国民のみになり国の運営など無理だ。今のままだったら革命を成功させたとしても行くすえは滅亡以外にありえない。
「そもそも何でそんなに獲れ獲れ言うんだよ。さっきは性分とか言ってたけど人間がどうなろうと神様には関係ないだろう」
「それこそお主らには関係ないの。人間界を憂いているとでも思っておけ」
「そんな殊勝なやつじゃないだろ……」
「はあ……。どこから話したもんかの。お代わりを持ってきてくれたら話そうかの」
そうしてふざけた口調でアスタルテは紅茶のお代わりを要求してきた。