第1話:シャルル=ジョゼフ~guess who is the true emperor~
さて、アスタルテをどうイズーナに説明したものか。
「おかわりを所望するぞ!」
「はいはい」
この……大食らいのちびっ子神様を……。
「して、イズーナ。お主はいつからここにおるのか?」
「5年くらい前からですわ。シャルのところに来たのは」
「ふむ……ならジョゼフ家の説明から始めた方がよいのではないか?」
それもそうか……。
「あー、改まって話すのは初めてだな。ジョゼフ、つまり俺の家系の話を」
「妾がするのだ!」
「お前がするのかよ! てめー食べるか喋るかどっちかにしろよ!」
「神様だからどちらでもできるのじゃよ」
横暴な論理だ……。
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そもそもジョゼフ家とは一人の英雄から始まる家系である。
「そやつの名はナポレッタ=ボナパーテ。この国を作った、初代皇帝じゃな」
この国―ザナドゥ―を作ったのは俺の祖先にあたる。何を思ってこの名前を付けたのか今となっては知らないが彼にとって桃源郷になるはずだった土地は牙を剥くことになる。
「その後、色々あって皇帝を追い出されるがその話は今は空の向こう側まで蹴っ飛ばしてじゃな、お前はそれまで全く歴史に名前が上がらなかった家系の者がそう簡単に既存の国家を侵略し新しい国を作れると思うか?」
そう、貴族ではあった。魔法も扱えた。しかしそれだけであったのだ。
「そんな輩がなぜ国を滅ぼし国を作れたのか。そこには人ならざる力、つまり妾がいたのじゃ。あの小僧は神の力を欲した。これからのあやつの家系を妾が好きにしてよいということを代償に」
その代償のせいで今、俺のもとに先祖の願いを叶えたアスタルテが顕現し、国を獲れと言っているというわけだ。
「待ってください。しかし、今はシャルはしがない孤児院の院長で半ばニートですよ?」
「ふむ、そのようじゃな」
ニートじゃないしっ!ちゃんと仕事してるしっ!
「何でですか?」
「神に人間が勝つことはできん。しかし小僧がそうしたように人間の祈りが神に届き力を借りることはできる。なんじゃ……その、言いにくいが少しはっちゃけすぎてしまってのぉ。内政など何にもしとらんかったのじゃよ。この国をもっと大きくしたいと戦争ばかりにかまけておったのじゃ」
「それで今の7選帝侯の家系が神と契約してナポレッタを討って親族全員から貴族の地位を取り上げ地方に島流し。直系は家名の改変を余儀なくされ罪状不明の罪人扱いでこの森に軟禁ってとこだな」
「それでも妾との契約は切れんかったがの」
はっはっはと高笑いのアスタルテ。
「これでも妾は神界の主権を争う神様だからの!」
「そんな神様が蹴落とされてマヌケにも人間界に迷い込んだ、と。コントだな」
「言うでないわい。もー怒ったぞ。イズーナに秘密を洗いざらいぶちまけてやる」
どーぞご勝手にと言いおいて流し場へ。後片付けは俺の役目だ。
「えーと、じゃあじゃあ! シャルの太刀は何で黒色なんですか?あと模様!シャルの腕にある紋様のことも教えてください! シャルったら何にも教えてくれないんですもの」
なんじゃそんなことか、つまらんのう。と本当につまらなさそうにため息を吐いた。
イズーナは超がつくほど善人なのでヒトの嫌がることはしない、というか考えることすらできないのだ。
「凬切のことじゃな。あれは妾が神界にある鉄を神界の炎で叩いたのをくれてやったのじゃ。だから風すら切れる。刀身が漆黒なのは神界で叩いた証拠じゃ。故に刃が欠けたりせんのよ。模様は魔術と言って今となっては失われた魔法じゃ。それを発動するための術式といったところかの。この魔術は古代魔法と呼ばれておるそうじゃの」
「はあ……。「魔」……ですか」
アスタルテはふふと笑みを浮かべるだけで詳しく話そうとはしなかった。
現代の魔法の仕組みも知らないイズーナは何を言っているかわからないだろう。現代の魔法とは対象者の「魔」を術式に込めて現象として放射する。ということを行う。しかしこの過程はかなり時間がかかるし魔法の規模によるが体力を消耗する。加えて大きなデメリットとして一人につき、例外もあるにはあるが、大体はひとつの事象に関してのみ干渉が可能なのだ。
「それに比べ古代魔法と呼ばれる魔術はは発動が早い。なんせもう術式はあるのじゃ。それにの、廃れた理由のひとつじゃが「魔」を取り込む必要はない。本人の生命力を「魔」としそのまま術式に流し込むのじゃ。加えてその術式の解釈を変えることで異なる魔法の発動が可能じゃ。まあこれは難しく同じ術式での複数の魔法は歴史を遡っても数例しかないがな」
「つまりシャルの腕の模様はその……こだいまほー? を発動させるためのキーだったのですね……。はぁ、なんでそんな大事なこと教えてくれなかったんですか!それに生命力ってかなり危険な匂いがしますよ!? そんなことを隠して三本も持ってるなんてお姉さん、怒っちゃいます」
ぷりぷりと頬を膨らませこちらを睨んでくるイズーナ。しかしどう見ても迫力はなくすねているようにしか見えない。それに、大事なことだが俺のほうが年上なのだ。
「三本……じゃと?妾は凬切の大太刀しか渡しとらんぞ」
「ああ、残りの二本は小刀でウチの家宝だ。「凬切」にならって「雷切」「火切」。300年もあったんだ。研究して解読して新しく使えるようになったって不思議はないだろ?か弱く、常に知識を求め変革していく人間様だぜ?」
実際には解読できるものはかなり少なかったらしく扱えることができたのは俺が初めてという有様だったが・・・。元々の刀としての出来もいいらしく家宝とされてきたのだ。
「なるほど……。いや、しかし……。」
「出来るまでに術式が合わず犠牲があったりしたみたいだけどな。腕の模様は子孫も変わらない。300年そこにお手本があるんだ。出来てもおかしくはないだろ?」
「これは……驚いたの。昔皇帝だった家系が今となってはクーデターを起こすために必死に研究か……。人間とは面白いのぉ。興味が尽きん」
無関心になってくれ。それではやく神界に帰ってくれ。
ちなみに小刀の二本ができたのは50年前のことで当時はかなり本気で国を取り返そうとしていたらしい。アスタルテのやつ、完全に顕現する時期を間違えたな。
「話を流さないでくださいっ! そんな危険なことお姉さんは認めませんよ!?」
「嗚呼、最初はその話じゃったな。それについては大丈夫じゃ。妾が魔術の発動を許可すれば術者の「魔」の代わりに神界の力を代替とできる。故に妾が人間界にいる時はシャルは気兼ねなく使えるのじゃよ」
「それなら安心しました! でもすごいですね、シャル。神様の力があって、元皇帝で、世の中がおかしくなったらそれを治すために頑張らなきゃならないなんて! この世界の支配者みたいじゃないですか!」
「待て。これは詐欺師の手法だ。この世界はこの国だけじゃないし、何よりこいつの言い分しか汲んでない! 現治世者からするとただの訳のわからんことを主張する悪人だし何より俺にその気はない!」
「ねえ、シャル? その、古代魔術? を使ったら私より強かったりするんですか?」
「ん?そうでなくても女子よりは強かろうて。さっきの肉じゃてシャルが狩ったのじゃろ?」
首を傾げるアスタルテ。そういう仕草はとても人間臭く外見年齢相応に可愛らしい。
「それ、私が狩ってきたんです。熊2頭まとめて」
「は……?」
「何にも武器持ってなかったからあの時は焦りましたよ」
「素手……じゃと」
「というワケで模擬戦でイズに勝ったことはない」
「なんじゃと……」
驚きに目を丸めるアスタルテ。神様をこんなに驚かせるとは小気味いい。
俺はイズより弱いという事実から目を逸らし笑った。
「しかし……うむ……。妾は、シャルはともかく普通の暮らしをしてきたイズーナが神様として妾をすんなり受け入れたことに驚いたぞ」
5分ほどしてようやく立ち直ったアスタルテが問う。
「あー。まあ性格もあるんだろうけど、何よりこの国の人たちは神様の存在を知っちゃってるからねぇ。とても嫌な知り方で」
「ふむ、なんじゃ。気になるの」
そして皿洗いを終えた俺は二人と自分に飲み物を出して椅子に座り直し語りだす。神様を後ろ盾に政治を行う7選帝侯の現在を。
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