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望まれない英雄  作者: 夢猫狐
第1章:運命の従者~he seek the simple reason~
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第13話:レアの行方~the biginning of the war at Iris~

「整理をしよう」


 食事どころではなくなった部屋の中心でシャルルが声をあげる。


「そのレアって子はユリアとカレンがフレイに呼ばれて厨に籠るまでいたんだな?」


「うん。それからアスタルテと遊んでたけどアスタルテも向こうに行っちゃって自分の部屋に戻るって言ってから消えちゃったんだ」


 少年の応答を聞いてシャルルがアスタルテの方を見やるもアスタルテは首を横に激しく振り、己の無関係を主張。


「では、どこに行ったか見当は?」


「わかんないよ。そもそもここの屋敷から出るにはロべスさんから魔鉱石を貰わないと出れないんだ」


「しかし居るはずの屋敷内には全く姿が見当たらない……と」


 隈なく探した、と先ほど報告したフレイを筆頭にハナとユリア、カレンが力なく頷く。


「じゃあ考えられることの一つとしてはレアって子が議会の……」


「シャルさん!」


 カレンが悲鳴に近い声で叫び後に続く言葉を掻き消そうとするが誰の頭にも続きを予測することは容易であった。

 気づいたらハナが常備している刃物を手にシャルルに肉薄し切っ先を喉に押し当てていた。


「それ以上言ったら殺す……!!」


 ハナが殺意を持った目で睨み付ける。


「貴様は肩入れしすぎている。今、その可能性を疑わないということは致命的で、その役目はまだ付き合いの浅い俺たちの仕事だ。そんなことも考えず感情で重要な戦力を一つ削ろうなんざ阿呆以下の愚行だ」


 対してシャルルは見るものを恐怖させるような、底なしの闇を伴った黒い、凍えるような目つきでハナの視線を真っ向から受け止める。

 それは平静のシャルルとは全くの別人のように思われた。

 その視線を正面から見たハナは、自身が刃物を押し付けているにもかかわらず恐怖に体が震え、後ずさった。


「ちっ! じゃあ今日仕掛けてきた魔法陣でどうにかできないのかよ!!」


 シャルルに一瞬とは言え恐怖したという事実から目を背けるためそっぽを向き必要以上の大声で叫ぶ。


「いい意見だ。これから頼もうかと思っていた。ユリア、少し予定より早まったけど頼む」


「任せて!」


 ユリアは努めていつも通りに返事をした。

 先ほどのやり取りで不穏な空気である、ということもあるが、そんなことよりもシャルルによけいな心配をかけたくないからということが一番であった。


 シャルルがこのように目を座らせたとき、それは何か深い考えがあってのことだ。

 そのことに関してユリアは一寸(ちょっと)も疑ってはいない。そのことの意思表示でもあった。


 机を端に寄せ部屋の中央に大きなスペースができている。そのスペースには魔法陣が白い粉のようなもので描かれていた。


「ユリアさん。こちらに」


 その魔法陣を描いたイズーナがユリアを中心に座らせる。


「では……いきますよ?」


 宣言した直後、魔法陣の上に延ばされたイズーナの手を淡い光が照らし出す。瞬間、その光は消えて代わりに眩しいばかりの光がユリアを覆う。

 その光は魔法陣に沿って広がり描かれた魔法陣全体から光が立ち昇る。淡い光が部屋全体を包み込む。その神秘的な光景に見守っていた人々は息をのむ。それはハナとて例外でなかった。


「うわ……。すげーな……」


 しかし魔法陣の変化はそれだけにすまなかった。発光が落ち着いたと思ったら回り始めたのだ。

 魔法陣が回り光が渦を作る。その中にいるユリアはさながら神に祈る聖女に見えた。その光景はとても綺麗で、幻想的で、触れることができないような、触れたら壊れてしまうような、そんな神秘的な、名も知られていないような画家が死に際に描く一枚の絵画のようでもあった。


 と、その光の中から猫が飛び出し屋敷から飛び出していった。


「おい、なんだよあれ……」


 ハナが困惑の表情でシャルルに尋ねる。


「自立型魔法だよ。基金団体の方はあの猫が見張って変な動きがあれば即、ユリアに知らせてくれるようになっている」


「ふーん……。じゃあ、あいつは何するんだよ」


 と顎でユリアの方をしゃくる。


「みてればわかる」


 ハナがユリアの方を改めて向いたときに変化は起こった。

 淡く光るだけだった魔法陣にあらゆる景色が高速で映し出されたのだ。


 その景色は昼間シャルルたちが歩いていた、イリィの町中であった。

 しかしユリアは目を閉じたままである。


「おい、なんであいつは見ないんだよ」


「あんな速く流れるモノを見るなんて不可能だろう。目を閉じて頭の中で直接見ているんだよ」


 魔法陣に映し出される景色は夜、つまり現在の町中の景色だ。

 ユリアは未だ目を閉じている。かれこれ5分ほど経つのだが……。


「いた! 見つけた!」


 誰もが見つからないのでは。もうこの街から消えたのではという、口には出さなかったが心の中でそのような疑念が浮かび上がっていた頃にようやくユリアが声を上げた。


「どこだ!?」


 ハナが真っ先に叫ぶ。


「ちょっと待ってよ。私は昼に出てないんだから……えーとね、周りに何にもなくて、真ん中に大きな石……石碑? があるとこに止まってる。周りを囲まれてる?」


 ダッ!! 


 ハナはユリアの言を聞くやいなや、何も言わずに飛び出していった。


「4人とも行くぞ!」


 シャルルもイズーナ、ユリア、カレン、そしてアスタルテを伴いコートを羽織って飛び出る。

 後に続く4人も準備はできている。


「ロべス! 魔鉱石を!」


 シャルルが叫ぶとロべスは魔鉱石を二つ、放ってきた。


「頼んだよ」


「任せろ」


 ロべスの静かな願いをシャルルは確かな言葉で約束する。


「おい! ハナ! お前魔鉱石持ってんのかよ」


 全力で走っていたハナを呼び止める。


「チッ!」


 舌打ちしたハナが手を伸ばす。

 後ろの4人もそれぞれシャルルの手、肩、腕、裾を掴む。最後にシャルルが手を伸ばしハナの手を掴む。


「全員離すなよっ!!」


 叫んで魔鉱石を砕く。


 砕かれた魔鉱石はその内にあった「魔」を外へと放出させる。眩しいばかりの光と姿を変えながら。

 6人はその身を光に包まれ、光が収縮し収まると同時に転移し、その場から消え去った。


✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽


 ランダムに飛び出た場所はイリィの南であった。広場までは少し走らなければいけない。


「なんで南なんだよ! せめて北に出ろよ!!」


 ハナが悪態をつく。

 北は他の都市へ続く道があるため比較的整備されているのだがそれに比べて南はほぼ手がつけられていなかった。しかも曲がり角も多く浮浪者も多くそれらも障害物となる。


「ハァァッ!」


 掛け声と共にハナの光を通すような金髪から光の粒子が輝きだす。その光を置き去りに一気に加速する。


「勝手に先走りやがって! 合図くらいしろよ! アスタルテ!!」


「あいわかった」


 『凬切』を抜いて右手一本で逆手に掴む。左手ではアスタルテを抱える。


「誰くんぞ我が前に立つか」


「我が名はアスタルテ。その名の元に障害を排除せんことを命ずる」


 呪文を唱えると『凬切』に彫られてある魔方陣を隠すための黒い塗装がどこからか吹き込んでくる風にはぎとられる。


「疾風」


 魔法陣が反応し水色の閃光を後に引きながら爆発的に加速しハナの後を追う。

 シャルルが通った後には道端に生えていた草木が急速に季節を廻ったように枯れて行く。さらに速度の違いから止まったように見える浮浪者の間を駆け抜けた後には浮浪者たちも次々と気絶していく。


 後ろにはユリアを抱えたカレンが倒れてくる浮浪者を器用に避けながらついて来る。

 そのように各々魔法、魔術で夜のイリィを駆け抜けて行く。


「シャルル! 前に見回りの警備隊がいるよ2人かな」


 未だ意識して魔法陣とのリンクを切らずにこのイリィ全体を把握しているユリアが声をあげる。

 その声が聞こえていないのか先頭のハナは速度を緩めない。


「何奴っ!? 止まれ!!」


 それほど間をおかず先ほどユリアが警告した警備隊と見られる2人の正面に出る。シャルルが右手に握る『凬切』に力を込めたそのとき、ハナが右手を振りおろした。


 ―カラン


 乾いた音が夜空に鳴り響いた。と思うと前にいた2人が吹き飛ばされ昏倒した。

 ハナの右手には木製の物体が握られていたがそれが何かシャルルたちには見当がつかなかった。


 当のハナは昏倒した2人には目もくれず先を急ぐのでシャルルも後を追うしかなくそれが何か聞くことができなかった。

 その後も大きな戦闘はなく、普通は20分はかかろうかという道のりを5分と少し程度で広場へとたどり着いた。



「それまでだっ!」


 ハナが大声で叫び注意を惹きつける。

 レアを中心に男たちが10人といったところか。その中には耳の長いエルフもいることがわかる。奇妙なのはユリアが見たであろう光景とあまり変わらないことだ。

 断片的であるが石碑を背にしているレアを中心に囲まれている図は同じである。


「はぁぁぁぁっ!!」


 ハナが単独で突っ込む。両手には先ほどの木製の物体が握られていた。


 カラン!カラン!!


 乾いた音が鳴り響くとそこから衝撃波が生まれ敵を吹っ飛ばしにかかる。

 その衝撃はをエルフの男2人が前に立ち防ぐ。一進一退の戦いが始まった。その二人を置いてく形で他の男たちも三々五々散って行こうとする。


 ―疑問は残るが、今はやるしかないか


「逃がすと思ったか」


 ハナの正面にシャルルが


「ちょっと見くびりすぎじゃない」


 ハナの右方向にユリアが


「御覚悟を!」


 ハナの左方向にカレンが立ちふさがる。

 さらに後方にアスタルテを守るようにイズーナが撃ち漏らしを仕留めるため待機している。


「さて、接近戦で多対一なら試してみるか」


 シャルルが呟く。その前にはそれぞれ刃物を構えた男が3人、後ろに魔法士らしき男が1人対峙していた。

 『凬切』納刀する。そして右手で背中から一振り、左手で腰から一振り抜刀する。


「落雷を断ち切り、その内に雷を宿すモノ『雷切』」


 雷がシャルルの右手にある『雷切』に落ちる。もシャルルは無傷。凬切よりも刀身が短いが打刀の『雷切』は雷を帯びる。


「業火を両断し、その内に紅蓮を宿すモノ『火切』」


 地面から炎が噴き出しシャルルの左手にある『火切』に降りかかる。雷切より刀身が短い直刀の『火切』が炎を纏う。


「さあ、始めようか」


 左右刀身の長さが異なる刀を握りシャルルが対峙する3人の真っただ中に躍り出る。


 両方から振り下ろされる剣を右は受け止め左は受け流し交錯させる。そこに右手の『雷切』の峰を首元に打ちつける。さらに右にいる人物に回り込み左手の『火切』の峰で昏倒させる。

 倒れる二人を後ろに置き去りに魔法士へ切りかかる。魔法士も今の間で詠唱を終わらせ魔法を放つ。

 シャルルの前方に大きな氷の塊が突如として現れ豪速でシャルルに迫る。


「はぁぁぁっ!」


 『火切』がすみれ色の閃光を振りまき、シャルルに向かってくる氷塊に一人分の穴を貫通させる。

 シャルルは、そのまま突っ込み『雷切』を真っ直ぐ掲げ魔法士の胸を突かんとする。しかし魔法士も上体を逸らし『雷切』を寸前で避けつつ詠唱を紡ぐ。しかし、それすらシャルルの読みの内であった。『雷切』から手を放し拳を握りしめそのまま上方に振りぬく。

 拳は魔法士の顎をとらえ、詠唱を止める。それに留まらず魔法士の体を飛ばすまで至る。

 

 魔法士が背中から落下し動かないのを確認してシャルルは他を伺った。


 ユリアとカレンもそれぞれ打ち倒し終わっていたがハナはエルフの魔法士二人を一手に引き受けているから少々苦戦していた。


 ―カランッ!!


 ハナが大規模な魔法を放つ。それを防ぐため二人が近寄り防御のための魔法を編む。

 それを見た途端シャルルが飛び出す。『雷切』と『火切』を納刀し再び『凬切』を抜刀。すぐに銀の刀身に風を纏う。後ろからエルフの魔法士二人に接近。居合切りの要領で一人目を斬りつける。返す刀で振り返った二人目の喉元を掻き切り致命傷を与える。


「ふんっ……(あたし)一人でも十分だったのに。余計なことしやがって」


 返り血を浴びてすらおらず、倒れた一人目の喉元に刀を押し付けているシャルルに言葉をぶつけるハナ。


「レア、帰るぞ。晩御飯がある」


 続いて立ちすくむレアに声をかける。

 それを横目にシャルルは詰問する。


「ところで、貴様の目的はなんだ」


「くっくっく……。やはり初代の末裔でしたか。あの方には感謝してるんですよ」


「何?」


 急な言に訝しがるシャルル。


「あの方のおかげでこの地位にいれるのですから。そろそろ反乱因子も潰す気で動いてますしね。もう安泰ですよ。だから末裔のあなたにも感謝しないとですねぇ」


「ちっ」


 一人で語るエルフに意味を感じられずそのまま突こうとしたその時、喉を深く掻き切られるのも構わず横にずれものすごい速さで前方へ体をはじき出した。

 その先にいるのはイズーナ。


「おい!」


 ハナが叫ぶが間に合わない。イズーナにぶつかりその華奢な身体がバラバラになるかと思われた。

 しかし、イズーナは逆に一歩踏み込み拳で迎え撃つ。


 何らかの魔法を使ったのか、拳に触れた瞬間バラバラになったのはエルフの方であった。


「言ってなかったか。イズーナは多分この中で一番強いよ」


 シャルルがハナに落ち着いた声音で教える。


「な……なんだよ……」


 脱力してその場に座り込むハナ。


「ところでレアはどうやって屋敷から出たんだよ」


「あのね、庭で遊んでたらいつのまにか食べ物がたくさんあるとこに出たの。そこから扉を開けて外に出たらもう街中だったの」


「基金か……。そっちはユリアに任せればどうなってるかわかるだろう。屋敷からそこに出れたなら屋敷に戻ることも可能だろうさ」


 シャルルが言外に含ませた意味をハナは正しく汲み取る。


「じゃあ、先にこれで屋敷に戻っときな」


 ハナがレアに魔鉱石を手渡す。


「ハナちゃんたちは……?」


(あたし)たちはもうちょっとやることがるんだ。大丈夫すぐに戻るから。先に帰ってご飯でも食べときな」


 そう言ってシャルルたちには見せたことのない笑顔を浮かべ安心させるようレアの頭を撫でる。


「わかった! 先に戻ってるね。早く帰ってきてね?」


「あぁ」


 ハナが頷くとようやく笑って魔鉱石を砕きその身を光の中へと消した。

 残ったのはシャルルの魔術に巻き込まれ、草木が枯れ果て、虫も全て絶えた広場の中に6人。


 そしてユリアとカレンの後ろに縛られた8人の気を失った男たち。


「さて、じゃあ教えてもらおうか? ナポレッタ=ボナパーテの末裔さんよぉ。なんであいつらの口から初代とその末裔のあんたに感謝してたのかを」


 ハナの目は吊り上げられ手には先ほどの木製の物体を握っている。既に臨戦態勢である。


「そこの石碑に書いてあったんだよ。色々とな。それに書かれてある文字は神言文字だ。神と契約してないと読めないよ」


「つまりなんだよ」


 ハナがすごむ。手首を半分返す。あとは一瞬の間もなく、いつでもその手の中から音を鳴らせる状態だ。


「結論から言うと、今のイリィの状況は初代の行いのせいだ」


「……詳しく話すつもりはあるんだろうな」


「ここまできてごまかすつもりはないさ」


 虫も絶えた夜の広場に、風だけが吹き抜ける。


 風はだんだんと、強くなっていた……。

お久しぶりです!

今回の話を投稿する間に感想や評価を頂けました!

今回は・・・すべってないです!どこも打ち付けてないです!素晴らしい!!

今後ともよろしくお願いします~♪

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