第12.0話:仕掛け~prepare~
シャルルが目を開けるとそこは屋敷の外であったが、初めてロべスとフレイの出迎えを受けた場所とは違っていた。
細い道に三人は縦に並ぶよう立っており、両側は家だろうか。壁に挟まれていた。
「あの屋敷から出るときはランダムに人のいないとこに出るのよ。どういう仕組みなのか私にもわからないんだけど。っと、こっち」
最低限の説明をしつつシャルルとイズーナを引っ張り他人のみてない間に通りへ引っ張り出す。
「それで?最初はどこに行くの?」
「あぁ……じゃあ広場みたいな、人が集まる場所はないかな」
「ある。この都市の中心にね。運がいいわね、私たちが出たところのすぐ近くだ」
そう言うとハナはフードを目深にかぶりシャルルとイズーナを先導するため先に歩き出した。
「ところでさ、なんで一介のエルフが、いくら魔法士として優秀でも他のエルフの魔法を封じることに成功したんだよ」
ハナに倣いフードを心持ち目深にかぶりハナの半歩後ろを歩くシャルルがずっと気になっていたことを問う。
「あー……。私も詳しく知ってるわけじゃないんだがな」
とハナは前置きして話してくれた。
「人間と、それらと結託したエルフたちの前に立ちはだかる一番の問題はやっぱり私たちの魔法だよな。だからどうしてもそれを抑え込めたかったところに自分ならそれができるって奴が現れたんだ。そいつが打った剣にある魔法を使ったらほんとに大部分抑え込めちまったって話だ」
「じゃあそいつは今は超重要人物じゃないか。自分の思うがままにこの都市を運営できて面白いだろうな」
「それがそうでもないんだな。なぜか、権力には全く興味を示さずに簡素な家と一日三食の食事を届けることだけ要求して去って行ったって話だ。今は議会の上の連中くらいしかそいつの居場所はわっかんねーってフレイが言ってた」
どうやら直接見たり聞いたりしたわけでなくフレイから聞かされた範囲でしか知らないらしい。
「その魔法ってのがどんなのか気になるな」
「私も知らないんだけど禁術って言ってたぜ。剣を体に取り込んで自身と一体としたあと、体になんか魔法陣みたいなのが出てくるんだとさ。フレイが言うにはそいつをころ・・・どうにかすれば皆魔法を使えるようになるみたいだけど」
物騒な言葉を言い直すあたりフレイを教育が見て取れる。
しかし、魔法陣が身体に浮き出るのか……。何か嫌な予感がするな。
隣を歩くイズーナも心配そうにシャルルに目を向けるがここでは何を話してもこれ以上情報が入らないことはわかりきっているので一言も交わすことなくハナについていく。
「着いたぜ」
ほどなくしてハナが言っていた通りすぐに広場に着いた。
時間にして屋敷から出て5分というところだろうか。
「この広場の中央から魔法陣を置いときたいのですが……」
「じゃあ、あの石碑の辺りか」
広場の中央には縦に長い直方体の石碑が中央を表すように鎮座していた。
幸い今は周りにだれもおらず特に広場そのものに興味があるわけでもないので手早く済ませることにした。
フードを目深にかぶった三人組が広場を横切る、という恰好はかなり目立つかとも思ったのだが旅商人風な服装のため、三人が石碑に向かって歩いているとわかるとほとんど注意を払われなくなった。
元々外からの往来が激しい場所ではないのだが、それでもとても珍しいというわけではないようだ。石碑が一種の広場の唯一のモニュメントのようなものとして建っていたことも大きい。
「ん……?」
石碑に近づくにつれ、それに何かが彫られていることが見えてくる。
「これ……何が書いてあるのかわかるか?」
それは文字のようであった。
「わかんねー。フレイもわからないみたいだったぜ。多分この都市にこれが読める人はいないんじゃないか」
「そうか……」
「何だよ。お前読めるのかよ」
「さあな。ハナがもうちょっと情報を開示してくれたら考えるけど」
チッ、と舌打ちをしてそっぽを向くハナ。
ハナは決して無条件にシャルルの問いに答えたわけではなく、イリィ(ここ)に暮らす者なら大抵は知っている情報だけ与えているのだ。
つまり同じ情報を得るのに、ハナの協力が全くなかった場合は少々時間をかければ手に入る程度なのである。
「終わりました」
魔法陣の設置を終えたイズーナが石碑の陰から顔を出す。
「私にはまったく魔法の気配がしなかったんだけどな」
「何重にも隠匿魔法を同時にかけときましたからね。それに、この地は私にとって相性がいいみたいです」
笑顔で答えるイズーナ。
「何だよ、相性がいいって」
そのハナの問いにイズーナは笑顔のまま、
「秘密です」
人差し指を立て口元にもっていくのだった。
チッ、と再び舌打ちをしハナは苦い顔で
「次はどこ行くんだよ」
次の目的地を尋ねるだけにとどまった。
次の目的地を告げながらシャルルは心の中でハナに詫びていた。
この石碑はこの地でシャルルたちがしなければいけないことの重要なファクターになるであろうこと、それを明かした時にハナの全面的な協力を得ることができなければ計画が頓挫することを理解していた。
それらを鑑みたとき、このことを明かすタイミングは今ではないと判断したことを。
そして何より、この石碑を作った人物が……。
それに気付きつつ、それを明かすことが怖かったのだ。
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結局その後もお互いに有意義な情報交換は行わず、しかし街をあちこち案内された私が損をした形となってしまった。
絶対あの石碑について何か知ってることを暴き出してやる……。じゃないと割に合わねー。
あの後本当にこの街の端から端まで踏破したのだ。東西南北にあの魔法陣を置かなければいけなかったらしいが意味もわからず、付き合わされるだけのこっちの身にもなってほしいものだ。
ハナはひとりごちる。
「んで?次はどこだよ」
口調すら心なしか荒っぽい。
と本人は思っているのだが実際のところ気に成るほど変わってはいない。
「次で最後だよ。基金の場所とその周辺かなー」
「こっちだよ。少し歩くぞ」
といって私は同じように先導した。違うところは日の位置くらいか。
今はちょうど北から南に歩いているので夕日を右手から浴びている。
この間に富裕層から貧困層へと入っていく。
ある所を境に分かれているのだ。その間に中間層というのはない。その方がどちらの層にとっても都合がいいのだ。
富裕層にとっては社交ゲームとしての福祉活動を、貧困層にとってはそのおこぼれを。中間層というクッションを置かずに互いに与え、受け取ることができるからである。
その貧困層を通るときシャルルはわざわざ自分から近づいて今の領主の役割をはたしている議会についてどう思うか聞いて回っていたのだ。
そのやり取りにハナは興味がなかったので少し離れた場所で俯いて立っていたのだが隣にイズーナまでいることに疑問を覚えた。
私の監視なのか、これが黒髪の男が独断でやっていることだからか......判断がつかねーな。
やがてこの土地の城が近づき、基金の場所が近くなると貧困層を形成している住民の姿もまばらになって、シャルルも戻ってきた。
「何かいい答えは聞けたのかよ」
「いい答えとは言えなかったけど、まあやりたいことはできたかな」
ハッ!皮肉にも気づかないほど何で貧困層の人間なんかを気にしているのかわっかんねーな。
「俺たちは向こうで座っておこう」
気づくとイズーナがハナとシャルルの元を離れ基金の事務所と言うべき場所へ魔法陣を描いていた。
しかし、その身にはある魔法がかけられており、視界には入るが強制的に注意を払えないようにしていた。
そのまま城の方へも近づき入口など所々に魔法陣を敷いてこちらへ戻ってきた。
「終わりました」
「ん、じゃあ戻るか」
ホントに何やってるのかも何がやりたいのかもわっかんねーや。
はぁ……と大きく一つため息をつき無言でハナは立ち上がると後ろを二人がついて来ていることを確認し、人通りが少ない通りの曲がり角を曲がり見える範囲から完全に人がいないのを確認し魔鉱石を砕いた。
三人は光に包まれ次の瞬間、その場には誰もいなかった。
こんな日が2日続いた。
お久しぶりです。
少々生活が短期間ではありますが変わったこと、更新しようと頑張る!と決めた日に少々私事ではありますが忙しくなってしまったことで更新が空いてしまいました。すみません。
今回は12.0話ということで少なめです!とりあえずできたとこまであげちゃいます!!次は12.5話です!あまり空かないよう頑張ります・・・。