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望まれない英雄  作者: 夢猫狐
第1章:運命の従者~he seek the simple reason~
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第9話:エルフ~What can you see?~

 一歩踏み込むと、そこはどこかの家の中であった。

 なかなか広い部屋にシャルたち5人と、ここに導いた二人が立ってた。


「改めまして、ようこそ皆さん。我が、ロべス=ピエールの隠れ家へ。ちょっと最近、堂々と表を歩くことができていませんでしてね荒っぽい招待になりました。すみません」


「フリードリヒの言ってたその地に行けばわかるってこういうことか……。毎回こんな誘拐みたいな招待のされ方だとまいるな……。それで……まあ色々と話してもらおうか」


「あ、それよりー……すみません! お風呂って……あります、よね?」


 ユリアの懇願するような問いにロべスは笑顔で頷く。


「ええ、もちろん」


「案内してあげなさい」


 今まで黙っていたエルフが凛とした声で言うと、子どもであろうエルフが一人現れた。


「この子が案内いたしますのでついて行ってください」


 その言葉を聴き動き出す子供のエルフ。


「それじゃ、シャル。おっさきー。色々難しいこと終わらせといてね?」


「シャルさん、すみません。お先に頂いちゃいますね?」


 ユリアとカレンに続きイズーナも一礼しアスタルテを連れて行く。



「ということで、ちゃちゃっと本題に入ろうか」


「と言われましてもどこから話しましょうか……。うーん……」


 ひとしきり唸ったあとロべスは


「とりあえず今の私か置かれている状況から理解願いましょうか」


 とシャルルにとっては悪い意味でフリードリヒに似た笑みを浮かべ、シャルルたちを巻き込む気満々であることを隠す気なんて更々なかった。


✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽


「うーん……この都市が奴隷制を採用しているのは知っていますよね」


「あぁ、エルフを奴隷にすることが奨励されてるんだってな。道中で聞いたよ」


「それをシャルルさんはどう思いますか!?」


 ロべスが前のめりになって尋ねる。


「どうっていわれても……。別の都市で育った人間だしな」


「そうですか……。私はですね! いまのこの奴隷制には反対なんです!!」


 息も荒く己の持論を展開するロべスの言うことをまとめるとこうだった。


 もともとこの地にはエルフが慎ましく暮らしていた。しかしある時、人間がやってきて勝手に森を開発し都市を作った。それでもエルフは人間と友好的な関係を築こうとして最初は上手く行ったのだが後に人間が卑劣な手で出し抜き今にいたる。現代の人はこの過程を知らず今の状況を当たり前と思っておりとても危険である。なぜならエルフは魔法を扱え、子どもでもほとんどの人間の魔法使いを凌駕し、大人となるとその長い年月の末にたどり着いた魔法は一種の芸術であると。未だ人間に好意的なエルフがいるうちに関係を築き直さなければならない、と……。


 このことを大げさな身振り手振りを加え無駄な言葉も交え演説するような風でシャルルに訴えた。


 途中で飽きたシャルルは周りにいた、たくさんのエルフの子供とじゃれ合い、言い切ったロべスのあとを引き継いだ最初にロべスと一緒にいたエルフがつまりですね……。とまとめたのを聞いたにすぎなかったが……。


「あー……うん。とりあえず質問が2,3ある」


 シャルルが指を3本立てる。まず薬指を折りながら


「まずあんたの立場が説明されていないこと」


 明らかに歳も立場も目上の人物に足してあんた呼ばわりはさすがと言うべきか。

 次に中指を折りながら


「エルフが奴隷になった過程だが、そんなに強力な魔法が使えるなら抵抗しなかったとは思えん」


 最後に人差し指を折り


「あー、あとそこのエルフの紹介はしてくれないの? あと……この子たちなんでこんなに俺に懐いてるの?人間がエルフを奴隷にしているなら普通は怖がるはずじゃ……」


 これを聞いたロべスはふむ……と手を顎に当て、考えるふりをして


「どうにも私は論理的に順序良く物事を述べることが苦手でね! 特にこの話題はその傾向が強まってしまうんだ。だからこの子に任せるよ」


 と説明を丸々、最初からいるエルフに投げた。

 説明を任せられたエルフは最初から分かっていたように一歩前に出てシャルルと向き合った。


「ご紹介、遅くなったこと申し訳ございません。私はフレイと申します。ロべスに変わって私から説明させていただきますね?」


 苦笑気味にシャルルに断りをいれてきた。


「あぁ、よろしく」


「はい。ではロべスに立場からがいいですかね。ロべスはこの都市をまとめる議会の代表の一人でした。それも結構上層にいたんですよ」


 逆にフレイは人差し指を立てながら説明を始める。


「いた……か」


「はい。先ほども聞いた通り議会上層の人間にもかかわらず奴隷であるエルフを解放しようと運動して、人間と変わらない権利を与えようとすることに対しよく思わない人の方が多いですよね。ですからもっと上から睨まれて職の剥奪、またその運動が盛り上がらないよう命まで狙われる始末です」


「なるほどねぇ……。なんか……もう……簡単にはこの街から出られそうにないね」


「ふふ……。それはタイミングが運の尽きと思ってくださいな。ここのたくさんのエルフがいるのはまあ……そういう権力にいた人ですから財力もそこそこあって市に出されたりあまりにひどい仕打ちを受けているエルフを片っ端から信念を曲げてまで買い取ったからなんです……」


そんなことしてるから奴隷制廃絶の議論が盛り上がらないし誰も聞いてくれないんだよ……。


「次はエルフが奴隷に堕ちて行った過程ですね」


 続いて中指を立て、チョキの形を作りながら説明を続ける。


「この点に関してはちょっと複雑ですね。人間が企てを立てたときやはりエルフの持つ魔法が脅威でした。そこで人間たちはエルフの中でも高位の魔法を使える者と結託しようとしたんです。自分たちだけの利益に目が眩んだものは話を飲みほとんどのエルフに魔法を使えないようにしたんです。その魔法の束縛から逃れた者は同じくらいの高位のエルフだけでした。でもそのほとんどのエルフは人間と結託していたので残ったエルフは抵抗できずこのような制度になってしまったのです」


「ふーん・・・、でもほとんどってことは全部じゃないんだろ? 少数の高位エルフで人間と結託しなかったエルフはどうなったんだ?」


「最初は自分たちの身内のみ連れて森の奥へ、後に少しずつ保護しているんですけど……ほとんど無駄な抵抗です」


 私がその一人なんですけど……。と肩を落とすフレイ。


「き、気を取り直して三つ目ですね!」


 最後に薬指を立てたフレイの口から出た言葉はシャルルにとって大きな衝撃を与えた。


「なんであの子たちが懐いているか、ですけど……。多分その外套じゃないでしょうか」


「外套?」


「はい。その外套からはとても強力なエルフの魔法陣が織り込まれています。シャルルさんたちがこちらへ向かってくる途中からその気配がしたくらいですよ。だからエルフが来ているのかと思って密偵を出したくらいです。どうやら若干気付かれてたようですが……」


 なるほど……。エルフが近くにいたから外套に織り込んであったエルフの魔法陣が反応した。だから俺だけ気配に気付けたってことか……。あれエルフだったのかー……。


「だからあの子たちはシャルルさんをエルフ、もしくはロべスさんみたいに絶対的なエルフの協力者って思ってるのかもしれませんね」


 笑顔でシャルルを自分たちの都合に巻き込もうと追い詰めるフレイ。

 そのフレイの笑顔に対し、若干顔を引きつらせるシャルル。


「ん……? 待てよ、なんでこの外套にエルフの魔法陣が織り込まれてあるんだ?これ、家にあったものなんだけど……」


 当然といえば当然のシャルルの疑問。ここにくるまでエルフと言う存在を見たことすらなかったのだから。


「あら?知らないんですか……。初代のナポレッタは私たちエルフと親交があったみたいですよ」


「親交ねぇ……一方的な親交じゃないの?」


「いえ、お互いがかなり友好的で同等の立場に基づいたものだったそうです。その……この奴隷制が始まったのもナポレッタさんが倒れてからですし……。それに直接の親交があったものはもういませんから本当のことはわかりませんけどね」


「エルフは寿命が長いと聞くが……」


「はい……でも奴隷制に抵抗した者たちはことごとく殺されて……。力があった者もみんなを少しでも逃がすために盾になり……。でも伝えられてることにひとつもナポレッタさんが私たちにとって敵であったとか悪いことは聞いたことがありません」


 初めて聞く暴君以外の初代の評価。それはシャルルにとっていかなるものであったのか。


「ちょっとまだ半信半疑だが……。どうにもこっちを巻き込もうとしてるのが見え見えだしな……。」


 少し考えてシャルル。とりあえず今はその話の評価を先延ばしにすることに決めた。


「フリードリヒ様は知ってたんですけどねぇ。なんで教えなかったんですかね……。それとも知ってると思い込んでたんでしょうかね」


 と急に話に入り込んできたロべス。しかしシャルルにとっては無視できなかった。


「……フリードリヒが知っていた?」


「はいー。初代がエルフと親交があったし早々にそちらに行くだろうと。正式に連絡があったのはこの前でしたけどね」


 フリードリヒが知っていたとなれば話はおかしくなる……。初代からの直系であるシャルルに伝わっていなくてなぜフリードリヒが知っているのか。

 なぜそれを隠していたのか……、いや知っていると思っていたならいいのだが意図的に隠していたとなると……。


 ―フリードリヒは一体何者なんだ……。俺に何をさせたい……―


 考えれば考えるほど堂々めぐりに陥る。今は答えにたどり着くための情報が少なすぎる。

 自分の家については言うまでもなく、自分の事に関しても多分、知っている情報は一握りなのではないかと言う気がして寒気がした。


「……まあ今はその話は置いておこう。さて、こちらの要件を言おうか。もうわかっていると思うがフリードリヒの娘であるアンナさんの居場所についてとここら一帯で起こっている人さらいについての情報提供だ」


「はぁ……。えーとですね、アンナ様の件についてはわかりません。人さらいについては人間よりエルフの行方不明が多いですね。人間については上層階級については全く目立たず被害届があっても大体が家出であろうと思われています。中層・下層階級についてもエルフより圧倒的に少ないですが時々耳にします。犯人像についてはまったくわかってないですねー」


「……それだけか?」


「はい、といいえ、両方でお答えしましょう」


 謎かけのような返答にシャルルは目頭を押さえる。


「……からかっているのか」


「いえいえ、まさかそんな。とんでもない。私が持っている情報はこれだけです、という意味で「はい」という返答。しかしまだ知られていない情報があってその場所は知っていますよという意味で「いいえ」です」


「どういうことだ」


「そのまんまですよ。この手の情報はかなり高いレベルで機密にされてましてねー。それだけでも、まあ怪しいのですが議会トップしか見れないんですよ」


「議会ならあんたが見れたんじゃ」


「私よりもっと上の一握りですよ。それに今は議会職も剥奪された身ですしねー」


 カラカラと笑うロべスに頭が痛くなってきた、とばかりに顔をしかめるシャルル。


「つまりそれを見るためには……」


「議会のトップになるか、この都市そのものをひっくり返しちゃって構造を真っ白にしちゃうかですねー」


 ニコニコと口も軽く告げるロべス。


「……結局こうなるのか」


 対象に遠くを見つめるシャルル。



 パタパタパタ


 一足先に上がったのかユリアが風呂からかけてくる。


「シャル!どうなった?」


「あー……、当分ここにいることになった」


「やっぱり!?伝えてくるね!」


 現れたばかりのユリアが再び風呂の方へ姿を消す。


「信頼されてるのですねぇ……」


 ニヤニヤとロべスがシャルルに言うが相手にせず


「信頼と言うか面倒なことを押し付けてるだけだな」


 とにべもない。


「では私たちにご助力頂けるのですか!?」


 こちらは嬉しそうにフレイが問いかける。


「それしか選択肢がないだろ。わかってて言ってるんだから人が悪い」


「エルフですので」


 笑顔でこう返されてはシャルルも言い返せない。


「ではこちらでの生活は……さっきからその角から覗いてるハナちゃんに何でも聞いちゃって頼ってください」


 いきなり水を向けられたエルフ……ハナはびくっと肩を震わせ角から姿を現した。


「嫌だ! ぜぇぇったい嫌だ! 人間なんかと関わるもんか!」


「こら。ナポレッタさんの子孫ですよ。失礼のないようにしなさい」


「それでも嫌だ!いいか、話しかけるなよ! 人間!!」


 と言い残し走ってどこかへ行ってしまった。


「はぁ……。すみません。根はいい子なんですが……。色々ありましてあんな風に……」


 ユリアが申し訳なさそうに謝ってくる。


「大丈夫。気にしてない」


 実際、シャルルにとってあのような理不尽な敵意は初めてではなく、それ以上のものも幼少期から向けられてきた。それらに比べれば可愛いものだ。


「はっはっは。いいじゃないか。ついでにハナちゃんの人間不信もシャルルさんに治してもらおう」


「お前はちょっと黙ってろ……」


 やることが到着直後から山積みに……しかもどんどん増えて行くのに対しため息をつき、前途多難な滞在を予感して再度ため息を吐くシャルルであった。

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