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ワインド  作者: 楓かえる
4/8

クライム

少女と少年が来るまでのワインドのおはなし。

現実に紛れた乙女がひとり、新月の夜を佇み歩く―――


どうして、いつから、ここにいるのだろう?

どこへ向かい、何を探す?


思い出せない記憶の片隅に

消えかけた一つの美学があった

絡み合う蔦に足を取られ、深い森を一人さまよう…


回る回る 僕らのステージ

消える消える カルマの連鎖に

君は何を見つけるだろう

Welcome to Our World!!


「おいで手を取り、死さえも越えて」

「誰を殺してでも、君は生き抜くんだろ?」


現れたるは赤髪ピエロ

笑顔の仮面で彼は言った。歌うように。


「おいで手を取り、振り返らずに」


ここはどこなの?あなたはだれ?


「此処は幻想のパラダイス」



手を取った瞬間、ピエロは消えた

森を抜けると見えてきたのは…、動物園?

いくつもの柵の中でぬいぐるみは踊り、歌う


ぬいぐるみの僕らには(僕らには)

ここがどこでも構わない(構わない)

君が誰でも構わない(構わない!)


さぁ踊ろう!さぁ歌おう!

終わりのない歯車と

偽りだらけの舞台なら

さぁ踊ろう!さぁ歌おう!


明けぬ夜と暮れぬ夕暮れ

境界線・水平線

沈まぬ夕陽、昇らぬ朝日

臨界線・地平線

君がそれを見つけるまで

僕らは踊り続けよう


縫い合わせの境目が少し痛い

ぼやく彼らは幸せそうで

乙女は無意識に手を伸ばす


「はやくおいでよ、此処はまだ違う」

「君は何をしているの」


招く声に歩を進めれば

回る観覧車に歌うメリーゴーランド

踊るパレードに心奪われ

すべて悲しみとか、辛い現実など

忘れさせてくれる、ここはそう、夢にまで見た―――


ピエロは軽いステップでステージに降り立った。


「ようこそ、歓迎するよ」

Wind the Stage!! Let’s Play with Us!! Let’s Laugh!! Have Fun!!


そして始まる劇場

乙女は心ゆくまで楽しんだ

けれど見てしまった、見られてしまった

乙女を見つめる宙の瞳。


乙女は無感動に微笑んだ


「どうやら君はまだあちらに追われているらしい」

「そのようね。でも私はここにいたい。ずっとずっと」

「それならば。」


おいで手を取り、現世を捨てて

君の見捨てる現実ならば

おいで手を取り、振り返らずに

永遠にここで暮らせるようにしてあげる


「4枚のトランプ」

「?」

「この世界には、4枚のトランプが散らばっている」

「ここに残りたいなら、それらを集めてくる事だ」

「住民票ということ?」

「そういうこと」


4枚のトランプを探しに行こう


1枚目ハートは舞台にあった

空中ブランコで飛んでいた

ネズミが落としたものだろうか


2枚目ダイアは城の上

観覧車に挟まっていた

楽団ウサギの忘れ物?


3枚目クラブは檻の中

獰猛ライオンの隙をついて

こっそりひっそり手に入れた


4枚目スペードは柱時計

螺旋階段に落ちていた

「これで全部揃ったね」


空にそびえる柱時計

曲がった針は逆回り


「さぁ」

「ハート、ダイア、クラブ、スペード」

「この中から一枚、君のカードを選ぶんだ」

「此処で生きていきたいと願うなら」


いぶかしむ乙女にピエロは微笑む


「嘘つきだ!ピエロは嘘を吐いている!」


小人(クライム)が叫んだ。


「スペードを渡してはならない」

「あれは世界を壊す鍵だ」


気づけば二人は囲まれていた。ピエロは乙女に告げる


「クライム。彼らは知らないだけさ、君の正体も、僕の正体も」

「私が誰か、知ってるの」


ピエロは気怠げに空を見上げた


「ご覧、あの太陽を。この世界の時は止まっているんだ」

「繰り返し、繰り返す、永遠のオモチャ箱」

「君は、―――君の世界に帰りたい?」


唐突に。

乙女は思い出した、自らの半生を


乙女は壊した、あらゆる美術品を

美しいものが許せなかった

乙女は殺した、美しい人間を

美しい者が憎かった

鏡を見れば、そこには絶世の美女

乙女は微笑んだ

世界でただ一人、私だけが美しければいい



ファンタジア

夢に見た世界は終わりを告げる

全ては君の望んだ白昼夢

ファンタジア

オレンジ色に染まる夕陽

回り続けるこの世界



懐からナイフを取り出し、乙女はピエロに切っ先を向ける


「カードなんて選ばない」

「世界でただ一人、私だけが美しい」

「私だけが生きていればいい」

「あなたは邪魔よ、死になさい」


「君は面白いね」


「あなたの正体は、この世界の王でしょう? クラウン(・・・・)

「おや、バレてしまったか」

「私はあなたのかわりに王になる」


ピエロの正体。命の代償。

乙女は心臓をめがけ、躍りかかる


漆黒の鎌は軌跡を描く

手首を断たれた乙女は地面に崩れた

あっけなく。


「君は生かして帰せないな」

「嫌、嫌、死にたくない」

「そう望むなら」

「ハートのカードを選べばいい」


何人も殺した。でも、死にたくない、死にたくない。

乙女はハートのカードをピエロに手渡す

「殺さないで」


「大丈夫」

「殺したりないさ」


ピエロは満面の笑みを浮かべると、

ハートのカードをバラバラに引き裂いた


「君には永住権を与えよう!ワインドへようこそ!」

「私を騙したの!」


ラッパが鳴り、紙ふぶきが吹き荒れると

乙女は小人へと成り果てた

ピエロの哄笑が響く


「実はね」


「スペードが生のカードなんだ」

「そしてハートは死を示す」



ゲタゲタと嗤うピエロに、クライムは絶叫した

嘘つきだ!…と


「うん」

「嘘ならついたよ、それがピエロとの約束だから」

「良かったじゃないか」

「だって君は死にたくなかったんだろ?」

「だから壊してあげたのさ」

「君の死を」



柱時計が鳴る

ピエロは仮面を脱ぐ


「君は此処にいればいい。僕以外、誰も生きも死にもしない世界に」

「生も死も無い。それは全てから開放されたということ」

「嬉しいだろ?」

「君は永遠を手に入れたんだ」



柱時計から見下ろせば、仮初の世界が見えた

広がっていたのは、オルゴールの世界

感情の無い人形達は、決められた動きを繰り返す



いつまでも。



青年は小人の落としたスペードを拾い上げる


ワインド(ぼく)の世界でワインド(ぼく)を殺すなんて、不可能だよ」


「…ああ」

「もう聞こえないか」



To Be Continued…


ワインドシリーズ3部作の最終章です。文章に仕掛けられたトリックを正確に表示するにはHPの方をご覧ください。

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