3.5
「・・・・・・なあ」
ナッツが言いにくそうに言う。
「何だ?」
「・・・・・・・・・・・言いにくいことなんだが」
図星だった。
「なんだよ、早く言えよ」
「友人として忠告するけどな、今すぐその子を捨てろ」
ナッツはそう言った。文字通りココは自分の耳を疑った。ナッツがそう言ったと信じるより、自分の耳が一瞬悪くなったと考える方がまだ信じられた。
「何て言ったんだ・・・・・・?」
それでも頭のどこかでは紛れもなくナッツの言葉だと理解してもいた。
「命ってのはお前が思っているほど軽くない。親だからわかる。親だからこそ俺はその重みに耐えられるんだ」
ナッツは一旦言い出すと堰を切ったように話し出した。しかし、ココの思考は全く追いついていない。
「何言ってるんだって、」
「お前はその子の親じゃない。ましてはさっき拾った小娘だろ?お前にとってその子は何の縁もない子だ。お前はその子を拾ったことを・・・・・・」
「黙れ!」
ココは続きの言葉を聞きたくないとでも言うようにナッツの言葉を遮った。次の言葉は確実にココの心にとどめを刺すとわかっていたからだ。
「・・・・・・後悔しない自信はあるか?」
とどめだった。ココには反論できる気力も論拠も無かった。
「俺は・・・・・・」
「その子を助ければ十中八九お前も何らかの傷を負う。おそらくはお前のこれからの人生を狂わせるだろう」
「・・・・・・やめてくれ」
「・・・・・・お前にその覚悟はあるか?」
ココは思わず傍らに不安そうに座る少女を見た。目が合った。少女は怯えたような素振りを見せた。
ココの眼はそういう眼になっていたのだろう。
それに気が付いて目をそらした。この子にとって頼れるのは自分くらいのものだ。それが怯えさせてどうする?
眉間をもみほぐす。もう一度女の子を見た。今度は見返してきた。少女の目を見ながら、ナッツの問いに答えた。
「無いね」
「そうか」
「でも」ココは低く、
「この子を捨てたらもっと後悔する」
と言った。この瞬間、ココは様々なものを切り捨てる感触を味わった。
「・・・・・・・・・・・・いいのか」
「いい」
言ったそばからココは後悔しそうだった
「・・・・・・わかった。お前がバカだってことは知っていたさ。とりあえず、その子はうちに連れて来い」
これぞため息混じりという口調でナッツは言った。
「いいのか?お前も無事では済まないぜ?」
「ふん、下らねえこと聞くな。お前はここを目指して来い」
「・・・・・・ありがとう。恩に着る」
「くどいぜ?」
「そうだな」
「ああ、そうだ。その子な」
「ん?」
「名前はフォンだ」
女の子、フォンに目を向ける。
「よろしく、フォン」
と電話片手に手を差し出す。フォンは
「ヨロシク、ココ」
と握手を返した。ココにも「ココ」は聞き取ることができた。