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そこまで言ったときばねが弾けたように女の子が走りだそうとした。が、紳士もといジジイに力ずくで抑えつけられる。
同時にココは拳銃を引き抜こうとした警官に襲いかかった。警官が握った銃をココが抑えて奪い合いをする形になった。
多分神様はココの方がマシな人間だと判断したのだろう、警官がいつの間にか安全装置を外し、指をかけていたトリガーが奪い合いの最中で引かれた時、銃口は警官の足を向いていた。
警官が激痛に崩れる。ココは警官の手から拳銃を奪い取り、女の子を引きずりながら電話をかけようとしているさっきのジジイに駆け寄り、映画でよく見るように、銃の台尻でぶん殴ってやった。
ジジイは痛みで頭を押さえ、体をイモムシのように丸める。警官も膝を抱え、痛みに呻いていた。この二人には蹴りの一発でもお見舞いしたいがさっさと逃げるべきだろう。ジジイの電話先が気になる。つながったのならやばい。
一旦、先ほどのホームレスの所に戻ろう。他に安全な場所は知らない。さっきはあそこを偶然見つけられて本当にラッキーだった。
何とか戻ることができた。来た道を戻っただけなのだが、男達の姿は全く見なかった。今のところかなりの強運だ。不運であることには変わりがないが。
先ほどのホームレス達に会って再びテントの中に匿われる。本当にありがたい。体の緊張がすこしずつ解れていくのを感じつつココは携帯電話を取り出す。この少女に詳しい話を聞くしかないだろう。
「もしもし。俺だ」
「金なら無いぞ」ナッツの声がする。
「詐欺じゃねーよ」
ちょっとした息抜き漫才だ。リラックスにはちょうどいい。
「いきなりで悪いが、ちょっとお前に通訳してほしいんだよ」
「・・・・・・どういうことだ?誰の?」
「女の子だ。詳しくは俺もよくわからん。とにかく聞いてやってくれ」
「・・・・・・わかった」
かなり嫌そうな声で言う。それでもやってくれるあたりがやはりいいヤツなのだ。
電話を女の子に代わってやる。電話を差し出すと少し驚いたようだったが、受け取った。
「もしもし?」
「もしもし、君の名前は?」
「フォン」
「フォンか。どうしたんだい?」
「マフィアから逃げてきたんです」
「え・・・・・・?本当に?」
「はい」
「そうか・・・・・・。どうして捕まっていたんだい?」
「何日か前に両親に売られました。それでマフィアの所に連れていかれて・・・・・・、そこで、売春させられるか臓器を売られるって聞いて」
「・・・・・・・・・・・・・・それで逃げ出したの?」
「・・・・・・そうです」
「わかった。さっきのヤツに代わってくれるかい?」
「はい。・・・・・・あの」
「うん?」
「お名前を聞いても・・・・・・?」
「俺はナッツでそいつはココって呼べばいいよ。あだ名だ」
「ありがとうございます。代わりますね」
「もしもし?」
「・・・・・・かなり重いぞ。覚悟しとけ」
珍しく真面目な感じで言う。
「ああ。まあ、そうだろうとは思ってたから大丈夫だ」
「何?・・・・・・とにかくその子はマフィアの所から逃げ出してきたんだ」
「やっぱり」
まあ、大体察しはついていた。さすがに。
「追われてたのか?」
「現在進行形だ」
「そうか。マフィアの目的は売春か臓器売買だ」
「・・・・・・本当に?」
重いと言っていたのはこれか。
「本当だ」
「・・・・・・・・・・・・・」
言葉に詰まる。腹に変な感触が広がる。
猛烈に腹が立つ。
「今どうしてるんだ?無事なのか?」
「ああ。ホームレスに匿ってもらってる」
「ホームレスか・・・・・・。早く移動した方がいいな」
「そうか?」
「ああ。多分そういうところは目を付けられやすい」
「わかった。なんとかしてみよう」
かと言ってどうするあてもないのだが。