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9-6 最終話

†††9-6 最終話



銃を構えたタームが機械の間を走り抜けていくココを追いかける。追いかける内にココとタームはパイプだらけの暗いボイラー室に入った。


(キソンとカブは俺たちを見失ったのか。逃がさないようにと分けたのは失策だったか!)


走りながらタームは顔を歪め、前を走るココに叫んだ。


「おい、止まれ!さもないとギャットたちを始末させるぞ!」

「やれるもんならやってみろ!俺は逃げてしまうぞ!」


バン!と低い発砲音が工場内に響く。タームが発砲したのだ。


「俺に当たればチャックを見つけられないぜ!いいのか!」

「この工場内にいるのだろう!貴様はもう用済みだ、消えろ!」

「へっ、用済みかどうかはまだわかんねえだろ?」


その時、ココは突き当たりの扉に入った。その扉にタームも迷わずに入った。真っ暗な部屋で明かりはどこかから一筋漏れているだけだった。銃を構えてタームがその一筋の光に向かってそろそろと歩いていく。

やがて光が漏れているのはカーテンのような布の隙間からだとわかり、タームはそのカーテンを勢いよく引いた。


(・・・・・・!)


そこにはひどく傷だらけで椅子に縛り付けられたチャックがいた。タームは口に人差し指を当てて「静かに」と合図した。


「これで俺はもう用済み、か?」

闇の中からココの声がする。タームは銃を構えて声のした方を探った。

「そうなるかな」

「残念そうはいかないんだな、これが」

「なぜだ?もうお前は袋の鼠だ。キソンが今頃応援を呼んでいるだろう。暗闇にいたところでいずれ死ぬのは目に見えているぞ」

「へえ・・・・・・、応援が来るのか。それは結構なことだ」

「なんだと・・・・・・?」

「アンタは気にしていたな。俺が発信機を持っていないかどうかを。だから服まで換えさせて、全身くまなく調べた。まあ、アンタらのアジトに行くときも同じことやったから無駄と言えば無駄だったけど」

「それがどうした。結局発信機は無かった。いや、確かギャットの上着に発信機らしきものがあったと報告があったぞ」


それが警官隊が来た理由なのだろうとタームは思っていた。身体検査はアジトに来た後に行われていたからだ。


「ああ。だがそれはダミーだ。何も見つからなければそれはそれでおかしいだろう?だからギャットと俺はそれぞれ絶対に見つからない場所に発信機を埋め込んである」

「・・・・・・体内か!」

「そうだ。今頃はこの周辺のアンタらの仲間をごっそり捕まえてるだろうよ」

「クソがっ!!やはり貴様らはあそこで始末するべきだったッ!!」


その時ばらばらと大勢の足音が聞こえ、警官がわらわらと部屋に入りタームとチャックを取り囲んだ。同時にココは暗闇から姿を現した。


「手を挙げろ!」


警官が叫ぶ。タームは拳銃を捨てて手を挙げた。ココも一応手を挙げる。


(これで一件落着、かな・・・・・・)


ココはふーっとため息を一つついた。



†††



数日後。


「よう。見舞いに来たぜ」

「遅かったな」

「俺のせいじゃない。中々帰してもらえなかった」


ココは片手でりんごをお手玉しながら病室に入ってきた。


「警察か?お疲れさん」

「ああ。大使館から口利きがなかったらそのまま捕まるはずだったらしい。拷問とかやったしな」


ココはりんごをぽいっとベッドの側にいたナッツに投げた。ナッツはりんごをキャッチすると果物ナイフで器用に切り分け始めた。


「刑務所に入れよ」

「まあ、気が向いたらな」


そこでココはギャットのそばの椅子に座った。


「・・・・・・寝てんのか?」

「・・・・・・起きてるよ。お前らがうるさくて寝られん」

「そりゃあ、悪かったな。一応は片づいたぜ」

「ご苦労様。あの敷地からは何か出たのか?」

「まあ、多少は出たらしいけどなあ。タームが口を閉ざしちまって特にこれと言った収穫は無いらしい」

「そうか・・・・・・。まあ、ナッツを助け出せたからよしとしようぜ」

「それはまあ、そうなんだけど・・・・・・」

「何だよ、まだ何かあるのか?」

「・・・・・・いや。テリフィオール組はまだ健在だろ?釈然としないものがあるなぁって」


独り言のようなココのつぶやきにギャットはため息まじりに返事をする。


「・・・・・・理不尽なんていくらでもある。忘れることだ。・・・・・・ところでナッツの奥さんたちは?」

「今は大使館にいるよ。フォンもな」

「・・・・・・国を出るのか?」

「仕方ないだろ。マフィアにケンカ売っちまったんだからな。このままだとおちおち寝られやしない」

「すまん、ナッツ」

「バカめ。俺たちはフォンを助けて正解だったよ。もしフォンを見捨てていたら国を出ても眠れなかったさ。それこそ一生な」

「はいはい、辛気くさい話は終わりだ。俺は大丈夫だからお前たちは準備でも何でも行ってくれ。いつまでここにいるつもりだよ」

「それもそうだな。じゃあ帰るかな」


その時ナースさんが病室にやってきた。


「ココさんはおられますか?お電話です」



***



電話は警察署からだった。至急来てほしいとのことでココは渋々警察署に出向くことになった。

到着したココを出迎えたのは新しい署長だった。


「・・・・・・何の用ですか?俺には大使館っていう後ろ盾があるんですよ。捕まえても無駄です」

「そこまで堂々と言う奴は初めてだよ。・・・・・・別件だ。あの幹部がお前を呼んでいるのだ。一度話をしたいとな」

「タームが?」

「そうだ」

「へー・・・・・・。それで俺を呼んだ本当の目的は?世間話をさせるだけに呼んだ訳じゃないでしょう?」

「話が早くて助かる。まだ奴から組に関する情報を一切絞り出せていないんだ。今回の件の裏付けが取りたい。出来れば、聞き出してくれないか?」


(裏付け・・・・・・?)


「どうして俺に?尋問なんて俺より上手い人なんていくらでもいるでしょうに」

「奴は君以外の人とは一切の会話を拒んでいるのだ。・・・・・・頼まれてくれんか?」

「はあ?・・・・・・わかりました。やってみますが保証はしかねますよ?」


それで構わないと新署長は言い、ココをタームのいる部屋へと案内した。


「ああ、そうだ。このことはもう聞いたかね?」

「なんです?」

「それはな・・・・・・」


新署長はココにあることを丁寧に話した。


「そうだったんですか・・・・・・」


ココはそれを聞くとマジックミラー越しにタームを見た。



***



ココは一つの小部屋に通された。部屋の中央には頑丈そうな机が一つ、椅子が二つあり、向かいの椅子にはタームが座っていた。


「お前か・・・・・・」

「よう。捕まる気分はどうだ?」


返事をしながらココは手前の椅子に座った。

ドアのすぐ側には屈強そうな警官が二人立っていた。立場がまるで逆転したな、とココは思った。


「気分だと?悪いに決まってるだろ」

「それはよかった。ところで俺としか口をきかないってなんだよ。俺はお前と仲良くなった覚えなんか無いぞ」

「ふ・・・・・・。何が起きたのかきっちりと聞いておかなければ私の気が済まん」

「ああ?お前の気が済もうが俺の知ったことじゃない。帰らせてもらおう」

「まあ、待てよ。俺も組に関する情報をお前に教えてやろう」

「・・・・・・なんだと?」

「以外か?」

「・・・・・・わかった、話そう。何が知りたい?」

「全てだ。事の顛末を全て話せ」


ココは旅行中にフォンと出会い、彼女を助けることになった所から話した。フォンを抱えて走り、警察に助けを求め、裏切られ、また逃げたこと。フォンの実の両親が彼女をマフィアに売ったということ。ナッツ、イプ、シャーミラ(とテト)の協力を得て貫通線に乗ろうとしたこと。失敗してナッツが離脱したこと。そして大使館を頼ったこと。ココはフォン、イプ、シャーミラ(とテト)に安全に大使館まで行かせるために別行動を取ったこと。


「それが半年前までのことだな。いつあの警官と出会った」

「ギャットが警官だってよくわかったな」

「素人ではない人間と組んだことはわかっていた。警官かまではわからなかったがな」

「あいつと組んだのは、フォンたちと分かれた二、三日後だ」


ギャットは大使館から派遣された警官だった。彼は外国人犯罪者を捕まえたのだが、その際に大使館といざこざを起こしたらしい。その事件を覚えていた職員が彼にアプローチしたそうだ。どうもやや脅しを含んだ「アプローチ」だったようだ。

ココはギャットと組んでマフィアから逃げながら英会話と現地語をマスターしつつナッツの救出に動く、という異常な日々を送るようになった。


「よくも身が保ったものだ」

「俺もびっくりした。俺もやれば出来るんだな」


そして半年が経ち、ココの会話能力もめざましく成長した頃にチャックを捕らえることに成功した、という訳だ。チャックから聞いた情報によってココとギャットはナッツが捕らえられている、と思われるホテルに向かった。


「そういえばあのホテルでは待ち伏せしてたな」

「ああ。チャックが捕まったと聞いてな。私が手配した」

「待ち伏せしてたくせにナッツもいたじゃないか。なぜナッツもあそこにいたんだ?移動させておけばよかったろうに」

「そこまでの時間は無かった。ホテルのフロントにいた見張りからお前たちが到着したという連絡があった時点でナッツまでは到底動かせなかった」

「フロントに見張りがいたのか」

「無論だ」


そしてタームたちに捕まり、マフィアのアジトに連れて行かれた。


「この後のことについて説明する意味が感じられないんだが」

「私には意味があることなのだ。お前たちを連行してすぐに敷地内に警官隊がやってきた。これは偶然ではないな?」

「ああ。俺とギャットに埋め込んだ、あるいは服に付いていた発信機が敷地内で消えたから突入してきたんだろう。発信機は二ヶ月くらい前から仕込んであった。まあ、何かあったら臨機応変に対応しよう、って決めていた程度だけれど」

「ふん。だからお前たちは逃げだそうとしたのか。外に逃げれば十分だと知っていたのだろう?」

「ああ、その通りだ。俺もギャットも知ってた。ナッツは知らなかったけどな。まあ、見張りがいたから言うわけにもいかなかった」

「誤算はギャットの負傷か?」

「そうだな。まあ、誤算ではないな。ギャットは想定内だって言ってたし。その場合の行動パターンが今回のアレだ」

「あらかじめ決めていた作戦だったのか・・・・・・」

「ああ。いい演技だったろ?」

「ふん。今思い返せばあちこちにおかしな点がある。それで練りに練った作戦と言えるのか」

「でもそんな出来損ないの作戦でもアンタは引っかかったじゃないか」

「・・・・・・」

「さて。これで俺が話せることは全部話しただろう。今度はアンタの番だぜ」

「なに?」

「組の秘密を吐いてもらう」

「はっ。貴様のような奴に、無論警察にも、くれてやる情報など無い」

「ああ?じゃあ、約束はどうなるんだよ」

「約束?笑わせるな。私が高々そんなもので組やボスを売ると思ったのか?」

「聞け。これは取引なんだぞ。上手いこと警察と情報の交渉をすれば・・・・・・」

「あいつらと売り買いする情報などいささかも持ち合わせてはいない。私はテリフィオール組だ。ボスに生涯の忠誠を誓った。死んでもボスに仇なすことは無い」

「・・・・・・!」


タームの覚悟に満ちた言葉にココが息を飲む。


「約束だと?お前とのチンケな約束など私の忠誠の前では毛ほどの意味も持たない。・・・・・・聞くことは聞いた。もういい、帰れ」

「最後に一ついいか?」

「何だ?」

「フォンみたいな子をどう思う?」

「フォン?」

「今回の事件の発端になった女の子だ」

「ああ・・・・・・。お前の話に出て来たな。さあな。ウチでは売春だの臓器売買だのはやっていないからな。考えたこともない」


タームは組が臓器売買と売春に関係していると言わないために言葉を選んで答えた。

ココはタームの「考えたこともない」という言葉が返答なのだろうな、と直感した。


「・・・・・・そうか。では俺は帰るとしよう。アンタに、」


ココは立ち上がり、椅子にかけていたコートを手に取るとタームの目をこれ以上無いほどに冷たい目で睨んで言った。


「アンタに同情した俺がバカだったよ」

「同情だと?それは一体どういう・・・・・・」

「ああ、忘れてたいいニュースがある。アンタのボスは・・・・・・アンタを売ったそうだ。アンタが隠していた案件やら一切合切を提供してその見返りに署長とより親密な関係を結びたかったんだと。よかったな。お前は牢屋から一生出られない」

「な、な・・・・・・」

「声も出ないか?気休めと言えばどっかの段階でしくじってその件が全部明るみに出ちまったってことだ。ボスも手が後ろに回ったよ。せいぜい同じ刑務所に行けるよう願うこったな」


ココはばたん、とドアを勢いよく閉めて部屋を後にした。残されたのは人生の全てを下らないものに捧げてしまった哀れな初老の男だった。



***



その後しばらくしてテリフィオール組は崩壊し、新聞でも大々的に報道された。最初は様々な説が飛び交っていたが最終的に内部抗争で自壊、という線に落ち着いた。ココたちの名前が出ることは無かった。ココたちは文句を言っていたが、散々好き勝手してきた彼らが檻の中にいないのは警察がうやむやにしてくれたお陰なのだ。報道などもってのほかである。

組がなくなったのでナッツたちは別に出国しなくてもよくなったが、ナッツが「ホームシックも限界だ」と言ってそのまま帰国することになった。シャーミラは別に構わないと言っているそうだ。本当によくできた奥さんである。

イプは元の家に戻った。当然といえば当然である。家に帰って早々にイプは半年ぶりの掃除に追われたとか。ホコリまみれで大変だったらしい。

ギャットは二週間して退院した。本当はもっと安静にしていないといけないそうだが、「退屈で死ぬ」と言って強引に退院に持っていったらしい。らしいと言えばらしい。


ギャットが退院したタイミングで皆でご飯を食べに行った。この国のポピュラーな食べ物だそうだが、ココの舌には合わない物だった(ギャットが知っていて店を指定したらしい)。嫌がるココにナッツとギャットが無理矢理食べさせるのを見て皆で大笑いしていた。終わった頃にギャットは「傷跡が開いたかも」と言って皆をひやりとさせた。


***


港内アナウンスがどこどこ行きのナントカ便について時刻やらをしゃべっている。それを聞きながらココはキャリーバッグをがらがら引いていた。


「ねー、あなた、いきなり押し掛けて私たち住む家あるんでしょうね?私あんまり調べてないわよ」

「ホントか?俺も詳しいことは知らないぞ。イヤだなあ、入国検査で引っかからないといいけど」

「こ、怖いこと言わないでよ」


何やら不安にさせられる内容の会話をしているのはナッツ夫妻だ。彼らはココたちと一緒に帰国することになっていた。そのためナッツはキャリーバッグを二つもがらがらしている。シャーミラの分らしい。シャーミラは、と言うとテトをおんぶしていた。彼女も半年で大きくなったものだ。


「寂しくなるなあ・・・・・・。このゆるい掛け合いが聞けなくなるなんて」

「泣くなよ、イプ。また来るって」

「うう~」

(やっぱりイプ泣いてる。そういう顔してるもんな~)


とココは思っていた。どんな顔だ。

そんなこんなでゲートに着いた。ここから先は塔乗者しか通れない。見送りの人とはここでお別れだ。


「ナッツ、ココ~」

「泣くな、泣くなよ、イプ」

「そうだよ、また来るって」

「うう~。フォン、フォンもがんばるんだよ~」

「う、うん。だ、だいじょうぶよ、おじさん」


まるで子供みたいだな、むしろフォンの方が大人だな、とココとナッツは思った。


「・・・・・・ギャットは来なかったな」

「ああ。確かあいつ、今日は仕事だよ」

「そうさ、仕事なんだぜ。本当は」

「「「「ギャット!?」」」」


すぐ側から聞こえた声にその場の全員が驚愕する。アロハシャツに麦わら帽子、サングラス、つけひげ、等々・・・・・・。空港にしてはテンションの高すぎる外国人旅行者だと思っていた人物はギャットだった。


「お前仕事は!?」

「すっぽかしてきた」

「おまっ・・・・・・。また停職食らっても知らねえぞ・・・・・・」

「ここに来ることに比べりゃあ大したことじゃねー」


言いながらギャットはタバコに火を点け、にやにや笑いながら煙を吐き、サングラス越しにココたちに言った。


「禁煙だぞ、ここは」

「うるさい。野暮なこと言うな。・・・・・・またいつでも来いよ。最高にスリリングな体験をさせてやるぜ」

「「いや、もう十分だよ」」

「ふっ・・・・・・。嬢ちゃんもな。故郷に帰りたくなったらいつでも来い。最高にスリリングな・・・・・・」

「いえけっこうです」


フォンは満面の笑みで淀みなく答えた。ギャットはけらけらけら、と笑うと手をひらひらと振って出口の方に歩きだした。


「じゃあな。また会えるといいな」

「ああ。必ず会いに行くよ」

「期待しないで待ってるぜ」


ギャットは雑踏の中に消えていった。

ナッツは腕時計で時間を確かめるとイプに告げる


「さてと・・・・・・もう行かないと。本当に世話になったよ」

「お互い様だよ」


イプは最後に親指を立てた。


「幸運を」


***


ココはフォンと共に飛行機に乗り込んだ。チケットの関係でナッツ一家とは離れた席だが、ココとフォンは隣だった。


「大丈夫か?怖くはないか?」

「う~ん、ちょっとこわいかも」

「ははは。まあ、新しい環境に足を踏み出すわけだからな。怖いのも当然だ」

「はあ~~~~~っ・・・・・・」

「そんなに重いため息つくなよ。俺まで気が滅入るじゃないか」

「そんなこと言ったって、こわいものはこわいの」

「はは、は。あ・・・・・・?なにか忘れてる気がする・・・・・・。なんだっけ?」

「え!?忘れ物!?」

「いやいや、待てパスポートは再発行してもらったし・・・・・・。忘れ物じゃなくて・・・・・・」

「しっかりしておじさん!もう飛行機出ちゃうよ!」


そこでココはハッ、と気づいた。


「俺の親に連絡すんの忘れてた。フォンを・・・・・・女の子を一人連れて帰るって」


フォンの口の形がえ、の形で固まる。


「携帯は?」

「昨日落として壊しちまった」

「じゃ、じゃあ・・・・・・」

「ああ。ショック受けないといいけどなあ・・・・・・」




飛行機は気流に乗って順調に進んでいった。



***



ココは空港のゲートで両親と会った。


「おかえり」

「ただいま。母さん、父さん」

「元気そうだな・・・・・・。ところでその子は?」


父親がフォンを指さす。電話でフォンの事を伝えていなかったから当然である。


「この子はフォンだよ」

「「フォン・・・・・・?」」

「旅先で拾った子なんだ。親に捨てられちゃって・・・・・・。連れて帰って来ちゃった」

「あんた何考えてんのよ!」

「いや、その・・・・・・」

「ちゃんと面倒見られるんでしょうね!?」

「え?」


母親は「厄介者を連れてきた」のではなく、単純に「後先考えずに女の子を連れて帰ってきた」という事に腹を立てていた。


「家は?学校は?養育費は?ちゃんと面倒見きれるの?」

「あ、ええと・・・・・・」

「母さん、あまりいじめてやるな。・・・・・・フォンと言ったか?」

「ああ」

「その子を育てるというのならお前はもう親だ。いいか、一人で抱え込むな。何かあったら相談しろ。お前はもうお前一人ではないのだ」

「父さん・・・・・・」

「言っておくが、お前一人では全部は無理だからな」

「ぐ・・・・・・。おっしゃる通りです・・・・・・」

「フォンちゃん、でいいのかしら?」


母親がにっこりと微笑んでフォンに手を差し出した。


「よろしくね」

「ヨ、ヨロシク・・・・・・」


フォンはたどたどしい口調で答え、おずおずと手を握り返した。

父親はココに視線をやり、


「よくやった」


と言って笑った。

そのとき、後ろからナッツの家族が追いついてきた。

ナッツはココの腕をぐいっと引っ張り強引に肩を組んだ。


「これから頑張れよ~。子育ては大変だぞ~」

「まあ、せいぜい頑張るよ」

「何かあったらいつでも言えよ。戦友のよしみだ。いつでも請け負うぜ」

「お前もな。何かあったら相談してくれよ」

「おうよ!・・・・・・じゃあな!俺はもう行くよ。テトの機嫌が悪いんだ。シャーミラが急かしてる」

「ああ。またな、ナッツ」

「またな、ココ」


ナッツは手を振って去っていった。

ココは母親、父親、フォンに静かに告げた。


「帰ろう。家が恋しいぜ」



-おしまい-




††††††


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