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フラグ5「桜色のフラグ」

「ちょっといいかしら、清太(せいた)君」

「ん? ああ、日鷹……」

 朝、昇降口に着いた途端、一美(ひとみ)に声をかけられた。

 肩にかかった長いポニーテールを手で払うその仕草は、本人が意識しているかどうかわからないが、人目を集める。そして清太は、注目を浴びると同時に緊張をする。

 一対一で一美を相手にすると、やはりどうしても――。

「あ、一美ちゃん。おはよー」

「…………七枝(ななえ)さん。おはようございます」

 あれ? 今、少しだけ表情を歪めなかっただろうか。

「ちょっと待ってね、靴履き替えてくるから」

「ええ、待ってますよ」

 トトトと、下駄箱に駆けていく七枝。

「で、日鷹。なにか用事があるんだよな」

「今は、いいわ。またあとで」

 そう言うと、すでに上履きに履き替えていた一美は、七枝が靴を履き替えているであろう下駄箱の方へと行ってしまった。

「なんだったんだ?」

 首を傾げ、しかし深く考えず、清太も下駄箱に向かうのだった。


                        *


「ちょっといいかしら、清太君」

 一時限目が終了し、隣の席からそんな声がかかった。

「ああ、朝なにか言おうとしていたことか?」

 座ったまま、一美が横を向き清太に話しかけてくる。

「そう。ちょっと廊下に来てもらっていいかしら」

 なんだろう……なにを企んでいるんだろうか。やはり、緊張する。

 一美は思い切りがよく、決断力、行動力がある。それは前の学校でもわかっていたが、ここに転校してきてそれが想像以上だと知らされたばかりだ。

 わざわざ廊下に呼び出すからには、なにかしようと考えているのかも知れない。

 一美が立ち上がる。

 ……覚悟を決めよう。嫌な感じに口の中に溜まった唾を飲み込み、清太も立ち上がろうとして――そこで、一美の後ろからぬっと人影が現れた。

「春野! 頼みがある!」

「な、なんだ? マサ」

 マサは清太の机の前までやってくると、バン、と両手と額を机につける。

「数学の宿題見せてくれぇ!」

「なにかと思えば……自分でやれよ」

「そんな時間あるわけねーだろ!」

「そうねぇ。今日たぶん、マサが当てられるものねぇ」

 いつの間にかやってきていたユズが、マサの隣でうんうんと頷いている。

「そうなんだよ! だから頼む、春野! 親友を助けると思って!」

「いつの間に僕たちは親友になったんだ?」

「つめてーこと言うなよ!」

「いや、しかし……」

 ちらりと、横に立っている一美を見ると、ものすごく冷めた目でマサを見ていた。

「春野おぉぉぉ!」

「ていうかなんで僕なんだよ。ユズでも……」

「あら。ボク、数学苦手だけどいいのかしら」

「そうなんだよ、こいつ数学ぜんぜんダメなんだよ! 前に写させてもらったんだけど、間違いだらけで、しかも間違えが同じだったもんだからすぐにバレてよぉ」

「その点、春野クンなら安心よね」

「……お前ら」

 仕方がない。正直そこまで数学が得意というわけでもないんだけど。でも一美を待たせているし、とっとと見せてしまった方が早い。

「わかったよ。ほら……」

「おお、サンキュー!」

 マサは自分のノートを広げて、答えを写し始める。ここでやるのか。

「すまん、日鷹」

「あら? 春野クン。最後の問題、忘れてない?」

「え……? 宿題、この問題までだろ?」

「違うわよ。この次の問題までよ」

「マジで? うわ、やべ……」

 授業開始までの間に、この一問くらいなら解ける。だが……。

 ちらりと、一美の方を見る。すると、椅子に座って教科書を出し、次の授業の準備を始めていた。

「早く終わらしてしまいなさい」

「……ほんとに、すまん」

 マサがノートを写す傍ら、清太は忘れていた問題を、急いで解き始めたのだった。


                        *


「……清太君。今度こそ、ちょっといいかしら」

「わかった。さっきは本当にすまん」

 二時限目終了後、再び隣からそう声がかかる。さすがに緊張よりも、申し訳なさが先に立つ。

「あの、春野さん」

 と、そこへ今度は、静かな声が後ろから耳に届く。

 振り返ると、一歩引いたところに瑠流子(るるこ)が立っていて、目が合うとお辞儀をし、清太に一歩近づいてくる。

 その一連の動作が滑らかで、やはりそういう所作に関することも教わったりしているんだろうか、と思ってしまう。

「瑠流子さん、どうしたの?」

「はい。実は、お願いがありまして」

 その言葉に、思わず一美の方を見てしまう。

「……?!」

 驚いた。一美は、瑠流子に見えないように前を向き、俯いて、明らかにため息をついていた。あの一美が?

「あの、すみません。都合が悪かったですか?」

「え? あ、いやそういうわけじゃ」

「そうですか。よかったです」

 心底安堵したかのような、ため息。同じため息でも一美のものとは全然違うけど。

 でもここで、ちょっと先約があるから、とは言えなかった。

「そ、それで、頼みって?」

「はい。昼休みに、お弁当ご一緒しませんか?」

「へ……?」

 昼休みに、お弁当を、ご一緒する?

「あの……ご都合、悪いでしょうか?」

 瑠流子の顔が、心配そうな顔になる。

「あ、いや、いいよ。ちょっとビックリしただけ」

「よかった……。ちなみに、七枝さんも一緒ですよ」

「そうなのか。って、それなのに瑠流子さん一人で来たの?」

「はい。こうして、お友達を誘ってみたかったのです」

「……なるほどね」

「あ……そうです。私としたことが。あの、日鷹さん」

「……なにかしら。神楽坂さん」

 声をかけられた一美は、くるっと振り返り、いつもの毅然とした表情を見せる。さっきの落胆からはすでに立ち直ったようだけど……。

「良かったら、日鷹さんもお昼、ご一緒にどうですか?」

「そうね。私も、同席させてもらおうかしら」

「はい! ありがとうございます」

 おお、一瞬だったけど、瑠流子の嬉しそうな笑顔。クラスでもこういう笑顔が、少しずつできるようになってきた、ということだろう。

「それでは、昼休みに……」

「ちょーっと待った! 俺たちも!」

「そうよ! ボクたちも誘ってよ!」

 当然というかなんというか、黙っているはずのない二人がしゃしゃり出てきた。

 予想はできていたので、清太はぼそっと呟く。

「お前ら、弁当じゃないだろ」

「がああ! そうだった、学食だ!!」

「迂闊だったわ! マサ、こうなったら意地でも学食のパンを買ってくるのよ!」

「そうだな! よーし、授業終わったと同時にダッシュするぞ!」

 めげない奴らである。

「お二人のことは、七枝さんにも相談してみます。それでは、そろそろチャイムが鳴るので席に戻りますね」

「ああ、じゃあ後で」

「はい」

 席に戻っていく瑠流子。ちょっと楽しそうにしていた瑠流子に満足していると、ジト目で見てくる一美と目があった。

「……あ」

 同時に鳴る、チャイム。

「……すまん」

「もう、いいわよ。昼ご飯食べた後にしましょう」

 どうやら、授業の合間の休み時間では無理と、判断したようだ。本当に申し訳ない。


                        *


 そんなわけで、昼休み。約束通り清太は、瑠流子と七枝、一美と弁当を食べた。正直教室中の視線を集めまくった気がする。主に男子連中からの視線は、殺意が込められていた気がする。

 ちなみにマサとユズは、長引いた授業のせいで、いいパンが残っていなかったらしく、泣く泣く学食で食べてきたそうだ。もっとも、速攻で食べてきたようで、すぐに清太たちの会話に加わってきたのだった。


「清太君」

「ああ、わかってる」

 今度こそ、ということで。食べ終わり、頃合いを見て、清太と一美は廊下に出た。

「何度も、悪かったな。邪魔が入っちゃって」

「仕方がないわ。清太君が謝ることではないもの。それで――」

 と、そこで一美の言葉が止まる。

「やっほー。清太に、それから一美ちゃんも」

「す、涼香(すずか)?」

「……涼香先輩」

 学食帰りだろうか。階段を上ってきた涼香に声をかけられてしまった。

「ちょうどよかった。清太に話があったのよ。……あ、でもお取り込み中だった?」

 またこのパターンか、とちょっとだけ清太は思ってしまった。でもさすがに一美の方を優先するべきだろう。

「はい。取り込み中なので、あとにしてもらえますか」

 清太がなにかを言うよりも先に、一美はそう言うと清太の腕を掴み、階段の下へと引っ張っていく。

「え、ちょ、日鷹?」

 清太はなすがまま、引っ張られ、涼香はぽかんと見送るのだった。


「危なかったわ」

「な、なにがだよ?」

 また邪魔が入るところだった、という意味だろうか。

 どちらにしろ一美を優先するつもりだったから、別にいいのだけど。

 階段を下りて踊り場で、清太と一美は向き合った。

「まぁいいか。それで? 一体、用事ってなんなんだ?」

 今日何度目かのやり取り。しかしいざ、こうやってようやく話を聞くとなると、思わず身構えてしまう。

 転校してきて、隣の席になり、少しは慣れてきたが……それでも、一美がなにを考えているかわからない、というのは変わらないのだ。

 清太は、彼女の行動力を恐れているのかもしれない。

「用事というか、ちょっと話がしたかったのよ。それも、いち早くね」

「話? そう、だったのか」

 しかし、そこで清太は思わず首を傾げてしまう。

 確かに度々邪魔が入ったが、一美の性格を考えれば、さっきの涼香の時のように、強引に引っ張り出していたはずなのだ。いや、例え他の人がいようと関係なく、話を始めていてもおかしくない。微かに感じていた違和感が、ここにきてようやくはっきりしたが、それが意味するところは……やはり、わからない。

「清太君」

「な、なんだ?」

 一美は薄く笑みを浮かべ、僅かに窓の外に視線を逸らしてから、言葉を続ける。


「お花見をしましょう」


「うん……ん? 花見?」

「ええ、そうよ。桜を見る、お花見よ」

 花見……それは、ちょっと予想外だった。

「花見か……それが、僕にいち早く話したかった、ことなの? どうしてそんな急に」

「急にって、当たり前でしょう。早くしないと、散ってしまうわ」

「いやそうだけど……」

 桜は今が満開。今を逃せば来週にはもう散ってしまうかもしれない。

 しかし聞きたいのは、そういうことではない。どうして急にそんな誘いをしてきたのか聞きたかったのだ。

 でもなんだろう。一美の表情は変わらないのに、その雰囲気が、なんだか嬉しそうな、楽しそうな感じに見えたのだ。いつもの毅然とした、大人びた雰囲気とは逆の、そう、まるで子供のような――。

「だから今度の週末に、一緒にお花見を――」

「あ、せーた。いたいた」

 ――びしりと、一美が固まるのを清太ははっきりと見た。

 階段の上から声をかけてきたのは、七枝と……それから瑠流子も一緒だ。

「一美ちゃんも一緒だったんだね。よかったよかった」

 二人は階段を下りて、清太たちの元へとやってくる。

「もう、どこ行っちゃったのかと思ったよ」

「な、なんだよ、七枝。なにか用があったのか?」

「うん。さっき話しそびれたことをね」

「さっき?」

「そう。お弁当の時ね。あのね、瑠流子さ……瑠流子ちゃんと話してたんだけど、今度みんなでお花見しない?」

「………………へ?」

「……………………」

 花見の提案。今まさに、一美と話していたことだ。なんだろう、みんなして急に……。見ると、一美はあーあ、と言わんばかりに天を仰ぎ「遅かった……」とボソッと呟いた。清太の視線に気が付くと、すぐにいつもの表情に戻り前を向く。

「どうしたの? 都合悪かった? 一美ちゃん」

「いいえ。そんなことない……わ」

 言いながら、階段上に現れたもう一つの影に、再度ビシリと固まる。

「あらら? 人が増えてる。でも、ちょうどよかったかな? みんな揃ってるし、これなら話も早いわね」

「涼香。どうした? もしかして……」

 そう、もしかして。さっき涼香が話そうとしていた用件は、まさか。

 涼香は階段を下りながら、その提案をする。

「週末、花見しない? もちろんみんなで。麻由も呼ぶからさ」

「やっぱり……」

 そのまさかだった。なんだ、この偶然は……。

「え? なにがやっぱりよ?」

「いや、今な……」

「あ、みんなもどうかな? 絶好の場所があるのよ」

 清太の説明を遮り、涼香は一美たちに話を振る。

「どうかな、もなにも、あたしたちが先に清太を誘ってたんですけど」

 相変わらずの、警戒心を露わにした口調で七枝が応える。瑠流子がいるからか、少し控えめではあるけど。しかしそれに反応したのは、一美だった。

「はぁ……。それを言ったら、最初に清太君を誘っていたのは私なんですけどね」

「え?! そうなの?」

「ええ。そうよ」

「ふーん……なるほどねぇ」

 にやにやと笑いながら清太を見てくる涼香。しかしそんな風に見られても、清太にも状況がよくわからない。

「ちょ、ちょっと待って。どうしてみんな、急に花見の提案を?」

「ばかねー清太。今週末逃したら、桜が散っちゃうからに決まってるじゃない。ね?」

 涼香の問いかけに、一美も七枝も頷く。確かに、そう考えるのが普通だけど、どうしてこのタイミングで、ほとんど同時にだったのだろう。

「ま、同時だったのはたまたまよ。でもそれなら、話が早いわね」

「涼香先輩。先輩の言う絶好の場所とは、どこなのですか?」

「ん? 秘密……ってわけにはいかないわよね。場所は、ここよ」

 そう言って涼香は人差し指を立てる。

「ここ? 学校、ですか?」

「そ。校舎裏の桜で花見をするのよ。どう?」

 一美は踊り場から見える桜に目をやった。一方瑠流子は、心配そうな顔になる。

「確かに、ここの桜はとても綺麗ですが……」

「……学校で花見なんて、ダメだと思うんですけど」

 瑠流子の不安を、七枝が言葉で継いだ。相も変わらず、涼香を軽く睨んでいる。

「もちろん。校則違反ね。だから、こっそりやるのよ」

「こ、こっそり? え、でもそれは」

 涼香の堂々とした言葉に、さすがの七枝も動揺しているようだが、それでも反論しようとする。

「土曜の夜がいいかな。夜桜よ夜桜」

「な……」

 そしてついには絶句してしまう。さすがに清太も驚きを隠せないが……待てよ、と思う。そういえば、最初に出会った時に、そんなようなことを言っていたような。学校に忍び込んで花見をしたとかなんとか。……夜桜とは聞いていなかったが。あと……そうだ、確か屋上でやったと言っていたはずだ。

 そのことを思い出し、思わず涼香の顔を見ると、口元に指を当ててウィンクをしてきた。……屋上のことは黙っていろということだろうか。確かに今言ってしまえば、七枝が猛反対しそうである。それに、たぶんそれだけじゃない。涼香が狙っているのは――。

「涼香先輩。忍び込む、ということですよね。すぐに見付かってしまうのでは?」

「それは大丈夫。この学校、特に守衛さんとかいないのよ。今週、土曜日は授業午前中だけでしょ? 夕方には先生たちも帰っちゃうの。そのへんは調査済みよ」

 調査済みというよりも、経験済みだからだろう。よってその情報に正しいはずだ。

「待ってください。その、私……夜は、難しいかもしれません」

「あー、そっか。瑠流子ちゃん、家を抜け出すの厳しいかぁ」

 確かに……ただでさえ厳しい家なのだ。夜に家を抜け出すなんて、難しいだろう。

「うーん、夜桜、綺麗なんだけどな」

「風間先輩……その言い方、過去にやったことあるみたいな言い方ですけど」

「お、七枝ちゃん察しがいいわねー。その通り。過去に実践済みよ。だから安心して?」

「…………」

 七枝は口をパクパクさせている。言葉が出てこないようだ。つまり、呆れている。完全に涼香のペースになってしまっていた。

 しかし、そうか……マサとユズが言っていた涼香の噂。夜意味もなく学校に忍び込む。あれは、花見、夜桜のためだったのだ。

「ここの夜桜……。そんなに、綺麗なんですか?」

「ん? うん! 昼間の桜も綺麗だけどね、夜桜はまた違う顔を見せるのよ。これはこの学校に通っているなら一度は見るべきね」

「そうですか……。わかりました」

「え? る、瑠流子ちゃん?」

「風間先輩。私、なんとかします。……七枝さん、心配しないでください。大丈夫ですから」

「心配するよ! だって、夜だよ? そんな……」

「見てみたいんです。風間先輩が、そこまで言う桜を」

「瑠流子ちゃん……」

「それに、楽しそうじゃないですか。みんなでこっそり学校に忍び込んで、花見をする、なんて。七枝さん、やりましょうよ」

「瑠流子ちゃんが、そこまで言うなら……あたしは、いいけど」

 瑠流子に手を掴まれ、七枝は少し困った顔で清太を見てくる。

「僕は別に構わないぞ。花見も、したかったしさ」

「では決定ですね。土曜夜に、お花見をしましょう」

「お、一美ちゃんもノリノリね」

「さっきも言いましたが、最初に清太君を誘ったのは私ですから」

 一美はあくまでそこに拘っているようだった。

「花見か、いいな。楽しみだぜ」

「そうね~。楽しみ楽しみ」

「……ん?」

 ふと両サイドから聞こえた声。その声の主にすぐ気付き、清太は慌てて首を左右に振る。

「な……! マサ! ユズ! いつの間に!」

「もう~ぼくたちに内緒でなにを企んでるのよ~」

「ユズの言う通りだぜ。春野、俺は今すごく悲しいぞ。なんで俺たちを誘わない!」

「誘うも誘わないも、今決まったことだし、僕は誘われた側だぞ」

 決まったあとで、誘っていたかどうかはわからないが。

「くそう、さすが春野だぜ……! こっそりハーレム花見とはな」

「な、なんだよそれ。変なこと言うな!」

「ふっふっふ。他のクラスメイトに言ってもいいのか?」

「な……てめ、汚いぞ!」

「夜に忍び込む計画……先生にバラしたらどうなるかしらねぇ」

「ユズまで……!」

「……あーあ、だから二人がいないところで清太に話したのに」

 七枝がぼそりと、清太にしか聞こえないように呟く。なるほど、弁当の時に話しそびれたのではなく、二人を回避するために話さなかったのか。

「あーもう、しょうがないわね。清太、いいわよ。その二人も誘って」

「仕方がないわね」

「しょうがないなぁ二人とも。騒ぎ大きくしないでよ?」

「おぉ! ありがとう女神たち! 任せろ、俺たちが楽しい花見にしてやるからな!」

「ああ、さすがだわ。ふふ、これで桜にみとれた七枝ちゃんたちを眺められるわね!」

「……大丈夫か、本当に」

「ちょっと後悔しているわ……」

 テンションを上げていく二人を余所に、清太と涼香は思わずため息を吐く。そしてふと、瑠流子を見ると……。

「ふふ、楽しくなりそうですね」

 言葉通り、楽しそうな笑みを浮かべている瑠流子を見て、思わず涼香と顔を見合わせる。

「ま、いっか。ね?」

「そうだな」

 二人して、笑い合う。


 ――そんな二人を見て、一美は諦めたような、ちょっと残念そうな笑みを浮かべて、呟く。

「どっちにしろ、こうなっていたわよね」

 悔しそうな舌打ちが、ちょっとだけ聞こえた。


                        *


「あ、そうそう。清太」

「なんだ?」

 ぞろぞろと、階段を上って教室に戻る途中。涼香が寄ってきて、清太に囁く。

「今日、あんたの家に行っていい?」

「……は?」

「は?!」

 清太と、隣を歩いていた七枝が、揃って足を止めたのだった。

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