乙女ゲームに浸りたい
ついに、手に入れてしまった。
「王子攻略 ロイヤル セレクト」
超美麗グラフィックス、そして聴く者を骨抜きにすると噂の豪華声優陣。
しかしその実態は、「乙女ゲームマニアの、マニアによる、マニアのための超高難易度ゲーム」だ。
一般受けなど微塵も狙っていない、知る人ぞ知る「売れない(売る気がない)」名作(迷作?)。
これさえあれば、ゴールデンウィークをガッツリ浸れる。
食料は充分。飲み物も万全。
寝落ち対策のブランケットとクッションも完備。
「――よし、準備は整った。……ポチッとな」
名前は「ドナウ」に決定。初期設定を済ませ、私は運命の幕を開けた。
第1ループ:光速の終焉
ゲーム開始直後。
画面の向こうから白馬が駆け寄り、黄金の髪をなびかせた男がこちらを見つめた。
「ああ、麗しき人よ! この腐敗した世界を救い、私の魂を導いてくれるのは貴女しかいない。どうか、私と結婚してください!」
(……っ! とんでもないイケメン!) 思わず、震える指で選択肢を選んでしまう。
> はい
♪ズンチャン♪ズンチャン♪
突如、多幸感溢れるハッピーな音楽が流れ出した。
流れるスタッフロール。背景には「思い出のシーン」として、馬の視点から見た私の姿だけが虚しくスライドショーで映し出される。
しかも好感度MAX!
……。
…………。
「はぁ!?」
1万円したゲームが、わずか数分で終わった。
じっくりやり込もうと思っていた私のゴールデンウィークが、秒で消えた。
「早すぎるでしょ! なにこれ、名前も知らない男にプロポーズされて『はい』って言っただけ?
向こうだって私の名前知らないでしょ!
あんなに悩んで設定した『ドナウ』、一度も呼ばれてないんだけど!」
行きずりの男と即婚。
それがハッピーエンドだなんて、舐めている。
「1万円あればラスベガスでギャンブル三昧の方がマシだったわよ!(行けるわけないけど!)」
怒りに任せてコントローラーを放り投げようとしたが……。
あのアレス王子のビジュアルと、耳に溶けるような甘い声が、脳裏から離れない。
「……もう一度だけ、やってやるわよ」
第2ループ:世界の半分と食欲の罠
再び、白馬が駆けてくる。
「ああ、麗しき人よ! この世界を守るために、私と結婚してください!」
> なに貴方、名前も名乗らずに求婚だなんて。私を安い女だと思っているの?
「……失礼した。あまりの美しさに理性を失っていたようだ。私はこの国の第一王子、アレス。遠乗りをしていたところ、地上の星……いや、貴女という名の奇跡に目を射抜かれたのだ。一生に一度の好機を逃すまいと焦ってしまった私を、どうか許してほしい」
(……あぁ、なるほど。これは『お断り』を積み重ねていくゲームなのね。慎重にいかないと)
「私は間もなく、この世界のすべてを統べる王となる。もし貴女が頷いてくれるなら、**世界の半分を貴女に捧げよう。**二人でこの世の頂を支配してはくれないか?」
(世界の半分! 最高じゃない!)
> はい!
♪ズンチャン♪ズンチャン♪(2回目)
「……。またやってしまった。世界の半分に目がくらんだわ……」
第3ループ以降:欲望との戦い
その後も、私の「安さ」との戦いは続いた。
カジノイベント: 「君の強運に惚れた。このチップすべてと、私の心を受け取ってくれ」 → >はい!
スポーツ大会: 「優勝の栄冠など、君の微笑みに比べれば塵に等しい。私の生涯の伴侶になってくれ」 → >はい!
救出イベント: 「……怪我はないか? 君を失う恐怖に比べれば、この傷などかすり傷だ。もう二度と離したくない。結婚しよう」 → >はい!
「だめだ私……。なんでこんなにガードが無いの……?」
次こそはすべてを拒絶してやると誓った私の前に、アレス王子が真剣な表情で現れた。
「……ドナウ。実は特別な贈り物がある。もし私との結婚を承諾してくれるなら……『チューバーイーツ』の50,000円分クーポンコードをプレゼントしよう」
(はぁ!? 1万円のゲームで5万円の還元!? 実質プラス4万じゃない!)
> はい!!!
本当にポイントがもらえてしまった。これでゴールデンウィークの食料事情はバラ色だ。
もはやゲームとしての体裁は崩壊しているが、私は確かな勝利を確信した。
最終ループ:そして真の物語へ
「……よし、今度こそ、今度こそ絶対に全断りするんだから!」
ポイントも手に入れ、顔をニヤつかせながら画面に向かう。
アレス王子が切なげに、しかし情熱的に私を見つめる。
「……私は、王子としてではなく、一人の男として君に見てほしいのだ。地位も名誉も捨て、ただの『アレス』として君を愛してもいいだろうか?」
> いいえ!
♪デンドン♪デンドン♪デンドン……
「これだ……これがバッドエンド! 始めて見たわ!」
異様な達成感が体を駆け抜ける。
拒否すればいいという単純な話ではない。
この先にある「何か」を掴まなければならないのだ。
数多の誘惑とハッピー(即死)エンドを乗り越え、すべてのイベントを完璧な選択肢でクリアしたその時――。
♪チャッチャラー♪チャッチャラー♪
軽快な音楽とともに、画面に大きく映し出されたのは……。
『OPENING:王子攻略 ロイヤル セレクト』
ようやく、本当のオープニングに到達した。
好感度も0になってる。(やる度に、下がってたもんね)
でも、ここからが本番。
ライバルキャラ、複雑な人間関係、さらに難易度の上がる選択肢。
私はクッションを抱え直し、不敵に笑った。
「さて……ゴールデンウィークは、ここからが本番よ」




