第9話
私の中で何かが死んだ。
松明に近づきすぎた蛾のような気分だ。
生まれて初めて、希望を感じた。
ただの人間として扱ってもらえるかもしれないという、わずかな火花を。
冷静な目で見つめ直せば、自分がどれほど大きな間違いを犯していたかが分かる。
あの美しい夢は、夢のままで終わらせるべきだったのだ。現実は無慈悲だ。
再び俺から尊厳を剥ぎ取っていく。
だが、すべてが悲惨なわけではない。
もっと人間らしく感じられるのだと思い出した。
俺の魂を奴隷にしようとするこのシステムと、戦うことができるのだと。
そのことには感謝している。自分自身であることの喜びを感じられるのだと、思い出させてくれたことに。
(もう誰にも渡さない。二度と誰にも奪わせはしない。)
そんな思考から、クウィリンの鋭い声が俺を引き戻す。
「しっかり押さえておけ。不服従に対する、約束の褒美を与える時間だ」
二人の衛兵がマルヴィラの腕を掴み、跪いた姿勢で押さえつける。
クウィリンは懐から革の鞭を取り出し、行儀作法を教え込むための構えをとる。
考えるよりも先に、体が勝手に動いていた。
「支配人……頼む」
乾いた喉から、しわがれた声が漏れる。
俺自身、クウィリンと同じくらい驚いている。
これまで、自らの意志で口を開いたことなど一度もなかった。
その事実が、俺の新たな信念を確固たるものにする。
奴の好奇心が勝ったのが分かる。
「何が望みだ?」
「彼女の代わりに、俺を罰してくれ」
自分がそんなことを言っているのが、信じられない。
(なぜだ?)
頭の中は完全に混乱しているが、すぐに答えは自ずと浮かび上がってきた。
たとえそれが俺の妄想に過ぎなかったとしても、一つだけ揺るぎない事実がある。
それは、ここ数年で俺の身に起きた最高の出来事だった。
俺の中で何かが変わったのだ。
「よかろう」
その言葉が発せられた瞬間、大きな喜びに包まれる。
頭の中に無数の思考が駆け巡るが、すべては一つの思いに行き着く。
(これで少しは、彼女の目に人間らしく映るだろうか?)
それが信じられないほどの満足感を俺に与えてくれる。
クウィリンが振りかぶる。革の鞭の強く痛みを伴う打撃を感じる。
酷く痛む。だが今回は、これが自分の勝利であるかのように感じる。
だが、何かがおかしい。奴の打撃が軽くなっていく。まるで気乗りしないかのように。
「見たか、マルヴィラ? 奴がお前の罰を肩代わりしたと知って、どんな気分だ?」
(何の返答も聞こえない。)
「すでにご存知の通り……肉体的な傷など、こいつにとっては痛くも痒くもない」
衛兵たちがマルヴィラを、俺が縛られている杭の前へと移動させる。
彼女の瞳に、恐怖と怯えが映っているのが見える。
(理解できない……)
だがそれも、最初の一撃が振り下ろされるまでのことだった。
クウィリンが大きく振りかぶり、彼女の背中を打つ。
打撃の直後に響き渡ったその音に、俺の血は凍りついた。
(こんなはずじゃなかった!)
クウィリンは一瞬たりとも手を休めない。
容赦なく彼女を鞭打つ。
声を上げて笑いながら、ずっと俺の目を見つめている。
俺のあらゆる動きを、緊張するすべての筋肉を観察しているのだ。
ほんのわずかな反抗の兆しでさえも。
それが奴に、想像を絶する満足感を与えている。
俺は無力感の中で、嫌悪と激しい怒りを込めて奴を睨みつける。
(この代償は払わせる。誓ってな。)
打撃の音とマルヴィラの悲鳴が響くたび、これまでに感じたことのないような激しい怒りが、俺の中で膨れ上がっていく。
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自らの意志で初めて声を発し、マルヴィラを庇おうとしたアカル。しかし、支配人クウィリンの仕掛けた心理的拷問は、肉体的な痛みよりも遥かに残酷なものでした。
アカルの内で目覚めた、これまでにない「激しい怒り」。ここから物語はさらに加速していきます!
もし「クウィリンが許せない!」「アカルの怒りに震えた!」「次が早く読みたい!」と思っていただけましたら、
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