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第6話

ついに、背中への打撃を感じなくなる瞬間が来た。これで終わりなのか、それとも補給将校が息を整えているだけなのか。時間感覚が麻痺している。俺の思考は、あてもなく彷徨い始めた。


数分が数時間にも引き伸ばされるような感覚を、俺はもう忘れていた。一呼吸ごとに戦いであり、痛みがどこから来るのか分からないまま、体が緊張して待ち構えている感覚を。


(他の奴らはどうやってこれに耐えているんだ?)


他の奴らが罰せられるのを見たことがない。実際のところ、俺は生涯を自分の牢屋か、訓練場の砂の上で腐るように過ごしてきた。いつも時間が決められていた。時間が来れば、時間通りに連れて行かれた。大人しく従うこともあれば、大抵は力ずくで。まあ、文句を言う筋合いはない。他の奴らの方がもっと酷い目に遭っている。


奴らはいつも、俺が壊れていると叫んでいた。俺の体は冗談みたいなものだと。普通の剣闘士は瞬きする間に傷を塞ぐことができる。少なくとも、鞭で打たれる度にそう言い聞かされてきた。奴らがどうやってそんなことをするのか、俺には全く理解できなかった。俺から見れば、奴らの方がよっぽど化け物だった。


結局のところ、闘技場の全員が、この遅い治癒はどうにもならないことだと受け入れた。ただ、あの嘲笑や侮辱に耐えなければならなかったことだけが腹立たしい。


本物の対戦相手と一緒に闘技場に放り込まれて初めて、俺は一つのことを理解した。どれほど素晴らしい再生能力を持っていようが関係ない。誰かの喉笛を潰すか、首を切り落としてしまえば、そのクソみたいな魔法もついに効かなくなる。


そんな思索から、背中への突然の接触によって引き戻される。


(やっぱり休憩していただけか。)


だが、何か奇妙なことが起きていると感じる。その感触は……優しい。本能的に身をすくませる。これまでの人生で、こんな感触を味わった記憶がない。


それに、妙な匂いがする。甘く、花のような香りだ。土や金切り声のような血の匂いとは全く合わない。異質な匂い。


「聞こえているか分からないけれど、私はマルヴィラ。あなたの体を洗いに来たの」


あまりの衝撃に、猿轡を噛まされていることすら忘れていた。男の声ではなかった。


(女? 一体どうやってここに入り込んだ?)


突然、頭の目隠しが外され、歯でくわえていた布切れが抜き取られるのを感じる。


(彼女だ!)


驚きで言葉を失った。観客席で見たあの女だ。黒い髪が肩まで届いている。緑色の瞳が、俺を真っ直ぐに見つめている。


(美しい。だが、たぶん俺は幻覚を見ている。彼女がここで何をしているっていうんだ?)


「ありがとう……?」


これが本当に起きていることなのか確信が持てない。たぶん、殴られすぎたんだ。


「あなたの体を洗わなきゃいけないの」


(やっぱり、これは現実じゃない。)


こんな幻覚を見るのは初めてだ。完全に混乱している。俺はこの奇妙な幻覚が続くがままにさせた。


初めて、目を覚ましたくないと思った。


杭に頭をもたせかけ、大きく息を吐き出す。


(落ち着け! 心臓が狂ったように暴れている!)


だが、どうやって落ち着けっていうんだ?


(これまで、どんな女も俺とまともに言葉を交わしたことなんてなかったのに。)


濡れたスポンジで背中を拭かれているのを感じるが、突然彼女の手が止まる。手が震えているのが分かる。


(どうしたんだ? 俺の背中を拭いているんだから……あっ! 俺の傷を見たのか。)


「俺の傷は、もう治った」


「そんなのあり得ないわ! 彼があなたを拷問するのを見たのよ! 血が四方八方に飛び散っていたじゃない!」


「だが今は、傷跡しか見えないだろう」


「それって……私……意味が分からない……」


なぜ彼女はあんなに驚いているんだ?


彼女のことが全く理解できない。そのせいで、俺はますます確信を深めた。


(ずいぶんと奇妙な夢を見ているな。)


できる限り、この夢を長引かせよう。


(この夢から覚めたくない。)


「俺はこういう体質なんだ」


彼女が今何を考えているのか分からない。口を閉ざしてしまった。


「これが初めてじゃない」


何か聞きたかったが、彼女は作業に戻ってしまった。人は時に自分の願望を夢に見ると聞いたことがある。まさか自分がそんな目に遭うとは思わなかった。彼女を見たのは人生でたった一度きりだというのに。だが、俺がこの夢を心から楽しんでいるという事実に変わりはない。残念なことに、俺の喜びの時間は終わってしまった。


彼女は突然立ち上がり、すべての道具を片付けた。歩き去る足音が聞こえ、俺はできる限り頭を巡らせて、最後にもう一度彼女の姿を見ようとした。


(本当に美しい。)


ほっそりとしていて均整のとれた体つきだが、何よりも、彼女はどんどん遠ざかっていく。


「ありがとう!」


それだけ言うのが精一杯だった。彼女の姿がどんどん遠ざかっていくので、俺の声が聞こえたかどうかは分からない。


(今まで見た中で、一番奇妙な夢だ。)

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


第6話はアカルの視点でお届けしました。

彼にとってマルヴィラの存在は、過酷な現実を忘れさせるほど「美しすぎる夢」だったようです。

二人の認識の差が、この物語の切なさをより引き立てますね。


続きが気になる!アカルを応援したい!と思っていただけましたら、

ぜひページ下部より【ブックマーク】や【評価(★★★★★)】をお願いいたします。


皆様の一票が、この暗い物語に光を灯す大きな力になります!

次回もお楽しみに!

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