第3話
* * *
(楽な勝利になる。)
仲間たちと一緒に門を出ると、闘技場の反対側には一人の男が歩いていた。
(思っていたよりずっと若い。)
顔を見る限り、まだ20歳そこそこといったところか。
(いや。あり得ない。)
奴の噂は聞いている。闘技場の獣だと。
闘技場に送り出された奴の姿を見て、笑いを堪えきれなかった。
手には古びた棒きれ。鎧はほぼなく、革の腰布一枚で歩いている。
(だが、その傷跡は本物だ。)
認めたくはないが、見事に鍛え上げられた体をしている。
だが、そんなものは関係ない。こっちには完璧な計画がある。
相棒と一緒に奴に向かって走り出す。後ろでは、残りの仲間たちが石による爆撃を始めた音が聞こえる。
(勝利は俺たちのものだ!)
喜ばずにはいられない。奴の首にはかなりの額が懸かっている。
このゴミクズに二正面作戦を凌げるわけがない。
打ち合いになる。奴は俺の斧を、まるで玩具のように弾き返す。
心の奥底で何かがざわつく。奴に一発目の石が命中した。
奴に飛びかかる。また防がれたが、今度は奴の武器を破壊してやった。
その瞬間、俺は吹き出した!奴の頭に石が直撃したのだ。
相棒の剣が奴の肋骨に深く突き刺さる。
(このクソ野郎、まだ諦めないのか!)
狂ったように暴れ回る。そして妙なことに、俺たちの追撃をことごとく避けていく。
動脈、腱、急所を狙っているのに、なぜかいつも刃が滑る。
まるで、最後の最後で不自然に体を捻っているかのように。
(なぜ奴はまだ生きてるんだ!?)
冷や汗が顔を伝う。鳥肌が立つ。
(何かがおかしい……)
思わず一歩後ずさる。本能が「逃げろ」と叫んでいる。
(俺は……俺は怯えているのか!?)
奴の姿がはっきりと見える。両腕が、制御を失ったように不自然に痙攣している。
目からは涙を流し、その顔は野獣のような笑みに歪んでいた。
(奴は……笑っているのか!?)
* * *
幼い頃から、少しでも気に障ることをすれば鞭で打たれてきた。
訓練の時も、常に感情に任せて戦っていた。
だが奴らは、観客を喜ばせるための戦い方を、冷徹な頭で戦う方法を、俺の体に痛みを刻み込んで教え込んだ。
自分の本性を変えることはできず、俺はそれを意識の奥底に封じ込めた。
もう痛みを感じたくなかったからだ。
そして今、この瞬間。次々と石が体に叩きつけられ。
肋骨に剣が突き刺さっている。
俺の中で何かが弾けるのを感じた。
心に繋がれていた鎖が、引きちぎられたように。
世界の時が遅くなったような気がする。斧を持った男が後ずさるのが見える。
なぜだ? どうでもいい。
思考を手放す。
目の前には剣を持った男。まだ肋骨の間に奴の剣を感じる。
折れた槍の柄で、敵の顔面を強打する。
奴はバランスを崩し、俺の体から剣が抜け落ちる。迷う暇はない。
すかさず反対の手で、尖った棒の先端を奴の顔面に突き刺す。引き抜く。
斧を持った二人目に向かう。奴が斧を振りかぶる。
武器の残骸を奴に投げつけ、横に前転して躱す。
空いた手で砂をひとつかみ掴む。立ち上がりざまに、奴の目に向けて砂を投げつける。
一気に距離を詰め、同じ尖った先端を奴の喉笛に突き立てる。
深く刺さった。奴の斧を奪い取る。
地面を這うように低く構え、投石紐を持った男に向かって走る。
石が飛んでくるのが見えれば、前転して躱す。十分に近づいた。男が逃げ出す。
全力で斧を投げつける。
斧は奴の頭のど真ん中に命中した。
そのまま立ち止まらず、最後の一人へ向かって走る。低く。まるで四つん這いの獣のように。
奴は怯えている。攻撃が外れる。
ナイフを抜き、俺に向かって突進してくる。勢いよく奴に激突する。
肩にナイフを突き刺される。
構うものか。
捕まえた。
奴を押し倒し、即座にその喉を足で踏み潰す。
終わりだ。
耳鳴りがする。息が続かない。
何か重いものが俺を地面に引き倒すのを感じる。太い綱。網だ。
視界がゆっくりとぼやけていく。砂の上を引きずられている。
最後に一度だけ、観客席を見上げる。そこに、彼女の姿が見えた。
黒髪の女。
俺たちの視線が交差した。
そこから先の記憶はない。
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(本日予定していた3話分の一挙公開はここまでとなります。)
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また闘技場でお会いしましょう!




