第17話
* * *
アイアと共に、彼女の聖域の中心へと戻る。
彼女は俺の手を握っている。
夕暮れが近づいていた。
自分がたった今経験したことを、どう表現すればいいのか分からない。
あの野性。あの情熱。あの完全なる一体感。
これまで知る由もなかった感覚。
思考をどう整理すればいいのか分からない。
何と言えばいいのかも。
俺たちは無言で歩き続けた。
だが、隣を歩く彼女はそれを気にしていないようだ。
彼女が幸福感に包まれているのが分かる。
俺たちの指は絡み合い、彼女の顔には笑みが浮かんでいる。
ようやく、俺の心も落ち着きを取り戻した。
ここに来てからというもの、初めて経験することばかりだ。
闇が森を包み込むが、雲の切れ間から顔を出した月が、俺たちの行く手を照らしてくれる。
俺が最初に目を覚ました、あの巨大な木に辿り着いた。
その根元、俺の苔のベッドの上で、ケイラとレイカが待っていた。
彼女たちの体は、月光を浴びて妖しく輝いている。
(そうか、彼女たちは水のルサルカだったな)
彼女たちの肌は薄い水の層で覆われている。
その水が光を乱反射させ、きらきらと輝いているのだ。
二人はゆっくりと苔から立ち上がり、怒りと恨めしさが入り混じったような目でこちらを見た。
俺が何か言葉を発するよりも早く、彼女たちは俺たちの目の前に迫っていた。
無言のまま、俺をアイアから引き剥がし、泉の方へと引きずっていく。
アイアはただクスクスと笑い、空になった苔の上に身を横たえた。
俺がアイアを振り返るのを見て、ルサルカたちはピタリと動きを止めた。
彼女たちの中で何かが弾けたのだろう。
無言のまま、俺を泉の中へと突き落とした。
何が起きているのか、全く理解できない。
そして、その泉は底なしに深かった。
(底が見えない!)
どんなに泳ごうとも、沈んでいく速度は増すばかりだ。
パニックに陥る。
恐ろしい速さで、肺から空気が逃げていく。
完全な暗闇の中で底に打ち付けられた瞬間、唇に誰かの触れる感触があった。
ケイラとレイカだ。
彼女たちは、代わる代わる俺に口づけを与えた。
唇が離れると、俺は自由に呼吸ができていることに気づいた。
暗闇が退き、泉の側面から放たれる光が周囲を照らし出す。
壁面に固定された特殊な石が、深淵の闇を散らしているのだ。
ルサルカたちは俺の周囲を泳ぎ回り、俺の体に触れ、口づけを繰り返す。
水中で繰り広げられるケイラとレイカの舞は、より激しく、官能的なものへと変わっていく。
彼女たちは一言も発しない。
だが、何を伝えたいのかは痛いほどよく分かった。
俺は、この水中の法悦の中で理性を失った。
光に満ちた深淵で、我を忘れて交わり合った。
*
新しい朝が来た。
泉のすぐそば、一番大きな木の下にある、あの柔らかい苔の上で目を覚ました。
隣には誰もいないが、指先で触れると、そこがまだ温かいのが分かる。
水音が聞こえた。
泉からケイラが姿を現し、すぐ後ろからレイカが続く。
二人はその腕に、色とりどりの石をたくさん抱えていた。
彼女たちは俺に微笑みかけ、持ってきたものを俺の前に置いた。
そして、二人で静かに歌い始める。
アイアが、まるでそれを待っていたかのように木々の間から姿を現した。
「あなたは私たちの守護者。それに相応しい武器を持たなければね」
ドライアドが姉妹の歌に加わると、次の瞬間、背後にある巨大な木が激しい軋み音を立てた。
俺は飛び起き、素早く身構える。
巨大な幹から、枝のようなものが分離し始めた。
その表面には、血管のような模様が浮かび上がっている。
木から切り離されたその塊から、二つの武器が形作られた。
一つ目は、精巧な彫刻が施された槍だ。
長さは約二メートル。
大量の物質を限界まで圧縮したかのように、異常なほどの硬度を持っている。
二つ目は、弓。
短く、頑丈で、ずっしりとした重みがある。
かなりの威力と張力を持っていることが、見るだけで伝わってくる。
(弦がないな)
ルサルカたちは歌を止めることなく、互いの髪を引き抜き始めた。
その髪の毛がひとりでに編み込まれ、一本の弦へと変わる。
魔法の歌声が、それを弓にしっかりと結びつけた。
彼女たちが先ほど持ってきた石もまた形を変え、今や矢のような姿になっている。
どれほどの時間が経ったのか分からない。
ただ、その全ての瞬間が魔法に満ちていた。
女たちが、歌を終えた。
「ここに生えている木は、この森の心臓よ。そして同時に、私の心臓。私の命そのもの」
アイアが俺に近づき、武器に触れた。
「この槍と弓だけが、あなたの使える唯一の道具。この聖域に、金属を持ち込むことは禁ずるわ」
彼女の声は冷たく、絶対的な命令だった。
事の重大さゆえだろうと解釈し、俺は何も疑問を抱かなかった。
「その矢には麻痺の力があるわ。戦闘で大いに役立つはずよ。無くさないように気をつけてね」
ドライアドが微笑みかける。
「その槍で敵を貫けば、その者の生命力は吸収され、この木の心臓にある私へと送られるの。だからこそ、矢で標的の動きを止めるのよ。そして、残りの仕上げを槍で行う」
「最初の獲物を殺したら、どこに埋めるか教えてあげる。多ければ多いほどいいわ」
俺はアイア、ケイラ、レイカの順に近づき、感謝の印としてそれぞれの唇に口づけをした。
武器を手に取り、すぐさま初めての巡回へと出発した。




