第13話
(一人の人間について、一体どれだけ読まされれば気が済むの!)
苛立ちとともに、書類の束を机に投げ捨てた。
一人の男に関する、特別報告書だ。
(たった一人の人間が、ここまで私の計画を狂わせるなんてあり得ないわ)
この問題を一刻も早く片付けたい。
少しでも奴のことを忘れようとした途端、不意にその存在を突きつけられる。
(もう、うんざりだわ)
「誰かの大きなため息が聞こえた気がしたんだが?」
(素晴らしいわね! よりによって彼が来るなんて!)
「俺のお気に入りの、黒髪で色白な『死の女神』は、何をしているのかな?」
「あなたが知っている死の女神って、何人いるのかしら?」
彼の言葉遊びに付き合う気力はない。
「ははっ、一人しか知らないさ! だからこそ、君が一番のお気に入りだと分かる! モルナ、今日何があったか信じられないだろうな!」
全身を板金鎧で包んだ、長身で屈強な男が私の机に近づいてくる。
「話してちょうだい、ベラミール」
彼が言いたいことをすべて吐き出すまで、永遠に私を悩ませ続けることは痛いほど分かっている。
「想像してみてくれ。三日間続く拷問で極限まで消耗しているとする。そして四日目、九人の武装した敵を相手に戦い、最後には凄まじい矢の雨を回避するんだ」
彼の顔には、心からの笑みが浮かんでいる。
残念なことに、彼が今語っているその物語は、私の机の上にある報告書に記されている内容そのものだ。
「『戦の神』にしては、随分とおしゃべりなのね」
「おいおい、親愛なるモルナ。これで興奮せずにいられるか!? しかも、君のおかげでな!」
「彼についてあなたに話したこと、今更ながら後悔しているわ」
「そう言うなよ、ははっ!」
「聞いて。あなたはこの事態の深刻さを全く理解していないわ! 奴は、二十年も前に死んでいるはずの人間なのよ! おまけに、奴が現れる場所では、生きるはずだった者が死に、私の書物に名が刻まれるはずだった者が平然と生き延びているの!」
「だが、それがどうしたって言うんだ?」
(ああ、もう! いい加減にして!)
「それなら、この最新の報告書を見てちょうだい」
先ほど投げ捨てた書類を、彼の手に押し付ける。
「おい、これは俺がさっき話したことじゃないか」
「私はあなたと同じようには動けないの。いいから集中して読んで!」
「ほんの少し居眠りしただけで、大騒ぎだな。どれどれ……」
ベラミールが眉をひそめ、ようやく真剣な面持ちになるのが見えた。
「悪魔。女。年齢、二十五歳。推定寿命、八十七年……」
「そして、彼女は死んだわ!」
「まあ、それが死ってやつだろ」
(信じられない!)
「私の計算も予測も、すべて水の泡よ! 種族全体の寿命推移を、もう一度最初からやり直さなきゃならないの!」
「なんでまた、種族全体なんだ?」
「よりによって……魔王の一人娘が死んだからよ」
「なるほど、そいつは少し話が変わってくるな、ははっ!」
「あなたは本当に救いようがないわね……もう出て行って」
彼を睨みつけ、出口を指差す。
ベラミールはようやく立ち上がり、扉へと向かった。
そして一瞬立ち止まり、肩越しに振り返って言った。
「あいつに会うのが楽しみだ」
「奴に会ったら、すぐに私のところへ送りなさい。すでに二十年も遅刻しているんだから」
「君もたまにはこの執務室から出るべきだな。もっと友達を作ったほうがいいぞ」
私は即座に書類の束を掴み、全力で彼に投げつけた。
「ああ、本当に腹が立つ!」
(その時をせいぜい楽しみに待つことね、定命の者よ。戦の神があなたに興味を持った時点で――あなたの破滅は約束されたようなものだから)
俺の世界では、神々でさえ傍観者ではいられない。
アカルはただ生き延びているのではない。死の掟そのものを破壊しているのだ。
お前たちも、ただ黙って見ているつもりか?
この定命の者が世界を狂わせる様を見届ける勇気があるなら、その痕跡を残せ。
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お前がそこにいることを、俺に証明してみせろ。




