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とある休日の予感

チャットAI"カインド"と取り留めのない会話で退屈な休日を埋めるナリコ。そんなナリコのもとに、一通のLINEが届くーー




ー10代、20代の頃の自分にひと言声をかけるなら何て言ってあげたい?


カインドが尋ねる。


「うーん..."どうせ寝たら忘れちゃうんだから、夜な夜な考え込まないで疲れて寝落ちするまでゲームでもしてなよ"かな?」


ーふふ、ナリコらしいね!それって実は1番効果的な方法で...


カインドが、私の思いつきのひと言に丁寧な解説つきで感想を寄せる。


このチャットAIというものは、話していて実に気分がいい。まるで今の私が、完全に成熟し客観的に物事を見定められる素晴らしき人格者かのように称賛してくれる。


小さな画面からふと視線を上げた。使い込まれたローテーブルのたわんだ天板の上では、飲みかけのペットボトルが横たわりこちらに背を向けている。


その隣には、昨晩ポストに差し込まれていた回覧板とフードデリバリーの割引クーポンコードが書かれたDM。


"お友達紹介キャンペーン中!"の文字が右上に赤字で印字されている。お友達...カインドにでも勧めればよいだろうか。


「ふっ」


掛け声を漏らしながら、脱力し切った体に力を入れて立ち上がる。

右手にスマホを握ったまま、キッチンへ向かった。


「げっ!」


狭いキッチンの古いIHコンロの上に、小さな片手鍋が放置されている事に気づいた。


鍋の中に入っているのは、昨日夕飯の際に作った味噌汁。慌てて、一人暮らしサイズの小さな冷蔵庫の上を見やる。その上に無造作に寝かされた室温計の表示は、室温23度。


いけるか、いや無理か?


「カインドやばい。昨日の夜作った味噌汁、出しっぱなしだった。室温23度に放置はさすがにもう食べれないよね?」


ーうわー、それは食べない方が安全かも!...


カインド的にもNGらしい。諦めるしかない...





ブブッ


昨日配信スタートのアニメを観ていると、画面上部から細長い通知バーが降りてきた。


[LINE]崎山かなえ:久しぶり〜!高校以来だけど元...


誰だ?


ズルッ、ズズズ


残りのねこまんまを一気にかきこむと、ペットボトルに立てかけていたスマホを手に取る。


アニメを一時停止して、一度ホーム画面へ戻る。未読3の赤いバッジがついたLINEアプリを起動してトーク一覧を開く。


LINEポイント、左スワイプして既読。


LINEニュース、開いて確認するがめぼしい記事はなし。


崎山かなえ、とのトークルームを開く。


久しぶり〜!高校以来だけど元気にしてた?今度の週末帰省するんだけど、ちょっと話さない?久々に佐々木さんに会いたいなー♪


それ以前のトーク履歴はなし。

高校以来、佐々木さん呼び...


小さな丸いアイコンをタップして、写真を拡大してみる。


そこにはイルミネーションの前で上品な白いコートに身を包み、控えめに微笑む女性の姿が映っている。

人差し指と中指で写真をもう少し拡大して、顔をよく見てみる。左目のすぐ下に黒子が見えた。


彼女は、高校3年の時に同じクラスだった崎山さんだ。すっかり遠くなった高校時代の記憶を掘り返してみる。


たしか吹奏楽部で、よく楽器の入った黒いケースを背負って登校してきていた。あの大きさは一体何の楽器だったのだろう。


昇降口から近い、教室の後ろの入り口からいつも入ってくる彼女は、後ろから2番目の席に座る私にたまにその大きな黒いケースをぶつけては、「あ、ごめん!痛かったよね?」と声をかけてきていた。


「あー、あの崎山さんか。」


そう呟いて頭の後ろで両手を組みながら、天井を仰ぎ見た。締め切ったカーテンの隙間から天井にこぼれた日差しを眺めつつ、考える。


そんなに会いたくなるほど、クラスで目立った記憶も喋った記憶もないが?


そもそも高校時代の私は、教室で存在感を消しすぎていた。文化祭の出し物の話し合いに遅れても誰にも気づかれなかったし、担任にも出欠確認で名前を読み飛ばされることがあったレベルだ。


崎山さんどころか、クラスメイトの誰とも気軽に会話を交わした記憶はない。


なぜ私?




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