突発
一台の壮観な馬車が、ゆっくりと領都ライトヴィルの城門をくぐった。その周りには、数十名の王室直属禁軍近衛騎士が取り囲み、さらにその後方には、我らがライト家の西部方面軍に所属する百人近い騎士が続いていた。
これほど多くの人間が警護に当たるのは…
「陛下が到着したみたいだ…」
俺はぽつりとつぶやいた。
「皆、準備はいいか?」
父さんは屋敷の全員に目を向けた。メイドや使用人たちも含めて。
誰もが無言で頷き、空気が張り詰める。まるで呼吸音さえもはっきりと聞こえそうなほどだ。
「さあ、陛下をお迎えするぞ」
…胃がひっくり返りそうだ。すごく気分が悪い。着慣れない正装も、全身に違和感をもたらす。
《怖いもの知らずのお坊ちゃんが、まさか緊張してるのか》
“…うるさい。婚約者、しかも姫様を迎えるんだ。緊張もするだろ”
《ケッケッケッ、お前は神だぞ! そんなに緊張するとは、どうせ将来は恐妻家になるんだろうな》
“それはお前も同じだろ”
こいつと長いこと付き合って、俺もようやくラルスを黙らせる方法を見つけた。
“サラ、ラルスをなんとかしてくれ!”
《アル、待て…》
《承知いたしました、アルフレッド様。ラルス様? アルフレッド様を困らせてはなりませんよ?》
このプレッシャー、怖い! なぜか俺まで冷や汗が出てきたぞ。
《う…サラ、反省するから》
《そうですか? なんだかとても嬉しそうに見えますが》
《違う、誤解だ。ぐわああああああ、痛い痛い痛い! 反省してるからもうやめてくれえええええ!》
“ありがとうな、サラ”
《どういたしまして》
この夫婦のおかげで、緊張が少し和らいだようだ。
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馬車が庭園の車道に入ると、屋敷の全員が玄関前で片膝をつき、国王の到着を待った。
「国王陛下のご到着です! 失礼のないように!」
先に馬車を降りて国王の扉を開けた司会者が叫んだ。
「構わぬ。皆、顔を上げよ」
威厳のある声が響いた。
その言葉を聞き、俺は顔を上げた。
国王陛下の姿は、数年前に会った時とあまり変わらない。顔に歳月の痕跡は増えていたが、地位を証明する質素なローブを身につけていた。
しかし、前回と違うのは、陛下が俺が見たこともない、神聖な気を纏った剣を帯びていることだった。剣の鍔には、小さな炎が揺らめいている…。
強い不快感が、俺の体を本能的にその剣から遠ざけようとした。
《火の聖剣…まさか、こんなところに》
“ラルス、この拒絶感はなんだ?”
《水と火は相容れないからな。お前が感じているのは、火の聖剣の神力が、お前の魂を侵食しているからだ。自分の神力を少し多く動かしてみろ。不快感が和らぐはずだ》
“やってみる”
俺は体内の魔力とは全く違う、神力というものを誘導し、体の中でゆっくりと循環させてみた。すると、その強い拒絶感はすぐにだいぶ弱まった…。その時、陛下が何食わぬ顔で俺に一瞥をくれたような気がした。
陛下の背後には…第二王女殿下だった。
“…”
《…》
《"か…かわいすぎるだろ?!"》
腰まで届く亜麻色の髪、エメラルドグリーンの大きな瞳、俺より頭一つ分低い身長、スリムな体つき。
まるで天使が舞い降りてきたかのようだ…。
俺は呆然としそうになり、慌てて気を引き締めた。
「本日、朕が参ったのは、ライト公爵領の視察、そして一つの縁談を発表するためだ」
そう言って陛下は朗らかに笑った。「さすがはウォルター、見事に統治しておる!」
「陛下のお褒めの言葉、光栄の至りにございます」
「ウォルター、いつもの口調で構わぬ。皆も立ちなさい。仕事がある者は早く戻りなさい。私のために時間を無駄にするでないぞ」
「「「「「「はい!」」」」」」
「ウォルターよ、アルはどこだ? 随分と会っておらんな。今回、主役は彼なのだからな」
俺は一歩前に出た。
「臣、アルフレッド、陛下に拝謁いたします」
「アル、大きくなったな?…ん?」
国王が俺の方に歩いてきた…一歩、二歩…。止まらない…。うわ、近い…。国王は隔音魔法を使ったようだ。
彼は俺の耳元でささやいた。
「水の聖剣を手に入れたか? すまぬ、火の聖剣を帯びてきて、不快にさせてしまったな」
俺は苦笑いを浮かべた。
「やはりお気づきでしたか?」
「ああ。聖剣使いは、十分に近づけば互いの存在を察知できる。…だが、そちらの剣ではないな?」
陛下は俺の腰にある偽の鉄剣を指差した。
「はい。聖剣は今、水分子に分解され、体内に隠されています。この剣はただの…」
光が周囲を照らし出す。
司会者の口元に邪悪な笑みが浮かんだ。彼の首飾りが光の源だ。父さんは剣を抜こうとしたが、体が動かない。
《転移の首飾り…まだ残っていたのか、忌々しい魔導文明め》
体が浮遊する感覚と共に、眼前の景色が瞬時に変わり、そして…。
俺たちは軍隊に囲まれた平原の上にいた。
「北部方面軍、東部方面軍、南部方面軍…全員か…」
三つの方面軍が包囲陣を形成し、それぞれ三人の剣士に率いられている。
《魔剣使いだな。ただの剣士じゃない》
「ちっ、宰相め」
国王は火の聖剣を抜き、火剣流の構えをとった。地獄の業火が赤い刀身に纏わりつく。
「ヴィーナ伯爵か…」
父さんはそう呟きながら、自分のオリハルコンの宝剣を抜いた。
どうやら、魔剣使いの一人は、王国トップ10に入る剣士の一人らしい。
「アルフレッド!」
「はい!」
「娘を守ってやれ!」
国王のその言葉で、俺は第二王女も転送されてきたことに気づいた。
「了解!」
王女は何か言いたげだったが、結局何も言わなかった。
俺は片手剣を抜き、父さんと国王と共に三角形をなして王女を守る。
「隠蔽解除」
鉄剣の偽装が解け、輝く刀身が緑の幽光を放つ。魔力を流し込むと、その光はさらに強烈になった。
「ハイミスリルの剣…ウォルターよ、お前、こんな良い剣を息子に与えたのか」
「俺は与えてないが…あいつ、自分で作ったのか?」
父さんは呆れているようだった。
「王よ。いや、貴様はもはや王ではない…すぐに元王となる」
国王に向き合った魔剣使いが口を開いた。
「ドゥーサン卿か…」
「宰相は、貴様と公爵の首を刎ね、王女は生かしておくよう命じられた…」
彼は下劣な笑みを浮かべた。
「…全軍の玩具としてな」
中央にいる王女は、それを聞いて震えだした。
武器も持たない女の子を暴行しようとするなんて、怒りが俺の胸にこみ上げてきた。
「ああ、そこの小僧だが…宰相曰く、『全身無傷で残すな』そうだ」
その言葉に、俺は一瞬固まった。
全身無傷で残すな?! 俺と宰相に、一体どんな恨みがあるんだ?
「この裏切り者どもと話す必要はない! 行け、ウォルターとアルフレッド!」
俺たち三人は、魔剣使いに襲いかかった。
国王は最初の一撃で一人を仕留め、その後、ドゥーサン公爵とその従者と膠着状態に陥った。
父さんはその身軽な足運びで三人の間を立ち回り、直接敵を打ち砕くことはできなかったが、彼らを効果的に牽制した。
俺は水剣流で中央の魔剣使いの攻撃を受け流し、その勢いを利用して左側の魔剣使いを打ち倒した。
中央の豪華な衣装をまとった魔剣使いは、明らかに呆然としていた。自分の自慢の攻撃が、ただの小僧に簡単に受け流されるとは思っていなかったのだろう。
中央の魔剣使いが再び攻撃を仕掛けてきた。俺は流水御剣でそれを防ごうとした…。魔剣が赤い光を放ち、俺のハイミスリルの剣が両断された。
“ラルス、これって、アダマンタイトに次ぐ硬度の剣なんだろ?”
《魔力は注入したか?》
“当たり前だろ”
俺は後ろに跳び、魔剣使いの振り下ろした剣をかわした。
《魔剣の特性、“武器破壊”か…!》
「どうだ、小僧? 今すぐ跪いて俺の靴を舐めれば、命だけは助けてやってもいいぞ。…まあ、その前に、目の前で王女が…」
こいつ、どこまで俺を怒らせるつもりだ?
“ラルス、あれを使う”
《おっほ、きっと見ものだろうな》
俺は手に残った半分の剣を投げ捨てた。
「どうだ? 降伏するか? 降伏するなら、まずその王女の服を脱がせて差し出せ!」
王女が何かを言ったようだが、俺にはもう気にかける暇はなかった。俺はただ、全身の神経を自分の神力の操作に集中させた。今度こそ、前回よりも強力に。
「神闘武装!」
俺の叫びと共に、目に見えない水流が体の中から爆発し、瞬時に凝結、形作られていく。
あのなじみ深く、それでいてさらに強大な力が俺の体を包み込み、氷の翼が背中に広がる。肩までの銀髪は一瞬にして伸び、腰まで垂れ下がった。氷の冠が頭上に輝く。
俺はあの軽やかな氷の鎧と、動きやすい灰色の正装を身につけ、腰の長剣と腕の飛刀が再び現れた。無数の水の球と水流が、俺の周りを回り始める。
《さすが俺だ。着こなすとかっこいいままだ》
“俺の髪、なんで長くなったんだ…”
「聖剣顕現!」
水流が俺の掌に集まり、素早く形を成していく。白い刀身は冷酷な光を放ち、水流が刃の周りを巡る。…その刃には、「水の聖剣ラシエル」と刻まれていた。
かつて人類を滅ぼしかけた水神ラルスの戦闘形態が、再び人々の前に姿を現した。




