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暗殺

俺、カズマ。


台湾に住む、ごくごく平凡な私立高校生。


なぜそう言うかって?


いや、自分を象徴するものが、どうにも見当たらないからだ。


成績? クラスではそこそこだけど、学年全体で見ると平凡中の平凡って感じ。


顔? パッとしない、可もなく不可もない量産型。


人付き合い? 友達いないぼっち。グループなんて組めるわけもない。


要するに、世界という巨大な機械を構成する、ちっぽけな歯車の一つってわけだ。


そんな俺は…


今日、数学の小テストでやらかした。これからどうやって家に帰って親を誤魔化そうかと考えていた。


————————


「どうしよう、今回はマジで終わった…」


答案用紙を手に、とぼとぼと家路を歩く。


「いっそこのまま消えてしまいたい…別に俺、この世界に何の役にも立ってないし…やべぇ、30点だぞ。絶対怒られるって…」


家に着いた後のことを想像して、ひたすら落ち込む。


どうせまた怒鳴られて、スマホを取り上げられるのがオチだろうな…。


「まあ、初めてじゃないし、家にはタブレットもあるし…」


俺は力なく自分を納得させ、なんとか家に歩いて戻ろうとした。


「ブゥン」


その瞬間、手にした数学のテスト用紙が真ん中からスパッと切れて、きれいに二つに割れた。


「!?」


いったい何が起きたんだ!?


いや、待て、おかしいぞ。アドレナリンが急激に噴き出すのを感じる。


…逃げろ、やばい! なんだこれ、超常現象か!?


俺はテスト用紙を放り捨て、がむしゃらに家に向かって走り出した。


——————————————


「…むぅ、“空間断層”が外れるとはな。この次元では私の力が制限されているようだ…」


黒衣の男は、得体の知れない仮面をつけ、手に持った銀黒の長剣を撫でながら、不満げにつぶやいた。剣の刃には、この世界には存在しない魔導文字が刻まれている。


「この次元のマナ濃度は異常に低く、魔剣の力がどんどん消えていく。これ以上時間をかければ、この次元に閉じ込められるかもしれん…


今夜、必ず暗殺を完了させる」


男は剣を鞘に収め、闇の中に身を隠した。


—————————


午前2時。


俺の部屋の電気はいつものように点いていた。


数学のテストの件は、何とかごまかすことができた。


スマホで最新のアニメを再生しながら、ホッと一息つく。


あのテスト用紙が急に真っ二つに裂けなければ、こんなに焦ることもなかったのに…。


あれは一体、何だったんだ? 両手で持っていたとはいえ、まさか素手で紙を真っ二つにできるわけがない。


ただの偶然、もしくは疲れて見間違いだと自分に言い聞かせる。


だが、あのテスト用紙の完璧な切り口は、焼き付いたかのように脳裏に深く刻み込まれていた。


もし、あと一歩前に出ていたら…?


俺はベッド脇に置いてあった、プラスチック製のBB弾を使う電動エアガンに手を伸ばした。


部屋にゴキブリが出現して以来、ゴキブリ対策として常に部屋に置いてあるが、こういう時にはささやかな安心感を与えてくれる。


…そういえば、あの時、紙が裂ける前に蚊の羽音のような音がしなかったか?


「ブゥン」


俺の手の中のスマホが二つに割れ、目の前に落ちた。


「!?」


俺はエアガンを掴み、ベッドから転がり落ちた。


「ブゥン」


部屋の空間が歪み、不気味な仮面をつけた黒衣の人物がその中から現れた。


「…動くな!」


俺は震える手で銃身を握り、指をトリガーにかけた。


「これ以上一歩でも近づいたら、撃つぞ!」


「一歩近づいたら? 私が一歩近づいたとして、貴様に何ができる?」


黒衣の男は長剣を構え、俺の方へ一歩踏み出した。


「くそっ!」


俺は男の剣を持つ腕を狙い、トリガーを引いた。


数発のプラスチック弾が放たれ、命中…したと思ったが、


「この次元の攻撃はこんなに脆いのか? 裂空斬!」


え? 弾が…弾かれた?


嘘だろ? この銃の初速は秒速130メートルだぞ?


「次は私の番だ…! 咫尺天涯!」


男が長剣を振るうと、俺との距離が一瞬で縮まった。


「うわぁ! ち、近い!?」


俺は反射的にゲームの動きを真似て、銃床で男の体を叩こうとする。


「無駄だ」


男は長剣を一振りし、銃床を両断した。


「俺の…ライフルが!」


「虚空束縛」


「え、う、動けない…?」


俺は左右にもがいて拘束から逃れようとするが、彼の剣はすでに俺の喉元まで迫っていた。


「死ね、ラルス。お前の手に染まった血の代償を払え」


ラ…ラルス? 誰だよ?


「俺はラルスじゃない! 俺の名前はカズマだ! 何か大きな勘違いが…」


「とぼけるな! その醜い魂はラルス以外何者でもない!


次元圧制!」


目に見えない重圧が、一瞬で俺の喉を締め付け、呼吸も声も出せなくなった。


「解除」


「うぐっ…」


「苦しいか? だが、国を滅ぼされた私にしてみれば、何でもないことだ」


「げほっ、国を滅ぼした…? どういうことだ? 俺は人を殺したことなんてない!」


「まだしらばっくれるか? 空間次元斬!」


長剣が振るわれ、剣気が俺に向かってくる。動けない! 死ぬ!


————————————


《魂工知能v12.2.1基礎システム緊急起動完了。起動原因:ホスト生命の危機。自動戦闘システムがメインシステムへ作動申請…メインシステム“サラ”はオフライン。申請は却下。基礎システムが脱出システムの起動を申請…準備完了。次元緊急離脱を実施します。座標設定:水神宮…アクセス不可。指定された世界に転送します…離脱完了。基礎システムはオフライン。休眠を起動します》


————————————


黒衣の男は青年の体を粉々に斬り裂いた。だが、最も重要なもの――魂は、すでに次元の狭間に送られ、別の世界へと飛び去っていった。

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