誕生日の食卓
僕の名前はモー。雄の子牛だ。99日前にこの牛舎で生まれた。
この牛舎はまるで天国みたいな所だ。牛舎はいつもきれいで、温度も自動でコントロールされてとても快適な環境だ。その上、餌はいつでも食べ放題。外部から隔離されているので捕食獣に襲われる心配する必要がない。だから好きな時に好きなだけ安心して寝ていられる。こんな素晴らしい所に住めるなんて僕はなんてラッキーな牛なんだ。これはきっと僕が選ばれた牛だからに違いない。
明日は僕にとって特別な日だ。その日は僕が生まれてから100日目になる日だ。そう言えば、牛舎の管理者は言っていたな。誕生から100日たった全ての雄牛は今と違った新しい餌が与えられると。そのため、別の天国に移されるのだ。噂によれば、そこはこの天国みたいな牛舎よりもさらに凄いらしい。明日がとっても楽しみだ。興奮しすぎて今晩、よく眠れない。
翌日、僕は管理者に連れられてトラックという人間の輸送装置の中に入れられた。どうやらこれに乗って次の天国へ移動するみたいだ。次の天国はどんな所だろう。考えれば考える程、ワクワク感が止まらない。早く目的地に着かないかな。
目的地に着くと、僕はトラックから降ろされた。次の場所はさらに素晴らしい天国みたいな所と聞かされていたのだが、そこはなんとなく殺伐とした所だった。ここのどこが天国みたいな所なんだろうと僕はつい思ってしまった。管理人さん、こんなことを思ってごめんなさい。きっとこれは気の所為に違いない。長い間、トラックに揺らされて疲れてしまったからな。気を取り直して、新しい生活に慣れていこう。
僕は建物の中に連れて行かれると、驚愕の風景を目の当たりにした。なんと僕と同じ位の大きさの子牛が首から血を流しながら逆さ吊りになっているではないか。床には血溜まりができていた。これはどういうことなのか?
僕は説明を求めるように牛舎の管理人を見た。どうやら管理人には僕が言わんとする所が伝わったようだ。だが、管理人はニタっと笑うと、僕を見下すようにして言った。
「ギャハハハーッ!お前は今から死ぬんだよ。そこの子牛のように我々人間の食料としてな」
『どうしてそんな酷いことをするの』
僕は管理人を訴えるように見た。管理人は僕の訴えるような目を見て、嘲笑うかのようにさらに追い打ちをかけた。
「バーカ、バーカ。誰が何の為にお前にただ飯や快適な住居を与えるんだよ!そんなもん、お前を早く太らせて、さっさと食肉するために決まっているだろうが」
『そんなの嘘だー!ママー、こ、怖いよー!た、助けて』
僕はパニックになるとここから逃げようとしてのたうち回った。僕はあまりのパニックで息遣いがメッチャ荒々しくなった。僕はまるで溺れる者のようにヒーヒー言いながら喘いだが、上手く息ができない。更に追い打ちをかけるように管理人は僕の鼻輪を強引に引っ張ると、あまりの痛さに僕は全く抵抗することができなかった。そして管理人は僕の眉間に電撃ショックを打ち込んだ。僕はあまりの衝撃に足から崩れ落ちた。もう動けない。僕は何もできないまま横になった。まだ、若干であるが意識はあった。朦朧としている状態だ。だが次の瞬間、僕は自分の首から熱い何かが流れるの感じると、さらに意識が薄らいでいった。やがて目の前が真っ暗になると何も感じなくなった。
数日後、浩君のママは高級デパートの精肉売り場の前にいた。
「今日は浩の誕生日。少し奮発していい肉、買うぞ」
浩君のママは心の中で自分にそう言い聞かせると、今晩の夕食を何にするか考えながら精肉売り場を見て回った。売り場には色とりどりの高級肉が置いてある。その中の一つの値段を見ると100グラム5千円と書いてあるではないか。高ーッ!だが、今日はケチるつもりはない。決めた!今晩は夕食は仔牛のヒレステーキで決まりだ。
その日の晩、食卓には豪華な仔牛のヒレステーキが並んでいた。食卓には浩君を始めとしてパパとママも座っていた。
「浩、お誕生日、おめでとう。じゃあ早速、ステーキをいただくか」
「これは高級仔牛のヒレステーキよ。よく味わって食べてね」
「うん!」
浩君は元気よく返事をするとステーキを一口大に切った。そしてそのままステーキを口の中に運んだ。浩君はステーキを軽く噛むと、それはまるで溶けるかのように口の中で消えていった。あまりの旨さに浩君は驚愕の声を上げた。
「メッチャ旨!何、コレ。口の中で溶けちゃったんだけれど!」
浩君の顔はあまりの幸せにデレっと緩んだ。
「パパ、ママ。僕、こんな美味しいお肉が食べれて、とっーーても幸せ!」