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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

薔薇は硝子の香を孕みて

作者:泥沼讃美歌
或る青年の話である。
 尤も彼が生きてゐたかどうか、それすら明瞭とは申せぬ。
 何故なら彼は、既に其の時分――心という器の半ばに、透き通った水の代りに、どす黒い濁流を湛えてゐたからである。

 名は蒼井尚紀。十九歳。
 彼の心は冷えてゐた。ぬるく、湿って、まるで梅雨時の石畳のやうに黴びてゐた。
 朝目覚めると、胸の奥が軋む。
 夜眠ると、夢にすら他人の声が混じる。
 誰かに抱かれたいのではない。
 誰にも見られたくないのでもない。
 ――ただ、何かに「触れてみたい」と、彼は願った。

 大正十三年。帝都。
 銀座裏の《三月堂》。
 あの夜。
 あの女。
 あの眼差し。

 蒼井尚紀は、確かに彼女に出逢った。
 だが其れは、出逢ひではなく、落下の始まりだった。

 最初から壊れかけていた彼は、やがて、壊れてゐることすら思い出せなくなるだらう。

 ――そして、誰も居なくなった硝子の夜にて、ただ己の名だけを噛み殺すのである。
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