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朝からへばるって! 魔王と朝食!

 みこと君の受難は続く。どこまでも。


他人事ひとごとみたいに言うな‼」(命談)

 うららかな風が頬をでる。

 俺と弥生やよいちゃんは小春日和の校舎の屋上に二人で並んで座っていた。


みこと君」

「弥生ちゃん」

「わたしの足の臭い嗅いでみて」

「……は?」


 春風に吹かれながら俺は凍りついた。

 弥生ちゃんはいそいそと灰色のニーソックスを脱ぎ、俺に足裏を見せてくる。ぱんつも丸見えだ。


「ほぉら臭いよぉ~。とっとと嗅ぎやがれ~」

「弥生ちゃんやめて! 弥生ちゃん⁉」


「ぷぎゅう」


 俺は変な声を出して目を覚ました。

 カーテンの隙間から顔に日の光が射し込んでいる。そういえばヘルグラッジの野郎はどうしているんだ。色気のない魔王は俺の左隣で寝ていたはず。

 だが顔が魔王のほうに向かない。眼球だけ動かしてよく見ると、魔王の足裏が俺の頬にクリーンヒットならぬクリーンめり込みしていた。なんて寝相が悪い奴。


「正夢かよ! 朝から勘弁してくれ!」


 昨日はあれから弥生ちゃんの家族LINEに『今日ちょっと用事で帰れません』と連絡したりしてとにかく疲れた。スマホの画面ロックを使わないのはおっとりした弥生ちゃんらしいけど、とにかくこんな状態で家に帰せるワケがない。すべての元凶はそんなことは露も知らないという感じで、大股おっぴろげで高いびきだ。へそ見えてるし。


「よりにもよって弥生ちゃんの身体に転生しやがって。出て行きやがれこの高慢ちきのヒャヒャヒャ野郎」


 ヘルグラッジがバフッと屁をこいた。辺りに香ばしい悪臭が立ち込める。こいつは寝ながらでも反撃できるのか。恐るべし魔王ヘルグラッジ!


「くっせー……! 何食ったらそんな臭い屁が出るんだよ」


 俺は鼻をつまんで臭いを払う。俺は幸せそうに眠るヘルグラッジの寝顔を見た。


「こんな奴に支配される世界って相当惨めな世界なんだろうな」

「うぅ~ん……臭いよぉ……」


 俺の左隣で寝ていた真琴まことも目を覚ましたようだ。ただ目が覚めた理由が屁の臭いだから、俺以上に寝覚めが悪いかも知れない。母ちゃんは洗面所で顔を洗っていた。

 ヘルグラッジめ。お前なんてルグラッジで十分だ。


 しばらくしてヘルグラッジも起きてきたので、母ちゃんの私服のパーカーとジーンズを貸してやった。俺たちは小さなちゃぶ台を囲む。

 母ちゃんがいつもの元気な声で「おっ待たせ~!」と言い、盆に皿を載せて朝食を運んできた。

 今日の朝食は母ちゃんお手製のハムエッグだ。


「ほう。これはまた薄い肉だな」

「ハムに厚さを求めるなよ! 弥生ちゃんの記憶があるのなら薄いのは仕様だってことくらい解るだろう!」

「はいはい喧嘩しないの! みんな手を合わせて!」


 ヘルグラッジは顔をしかめた。


「何故余がそんなことをしなければならない」

「そりゃあ『いただきます』をする為じゃないの。いのちの恵みに感謝しないと」

「問いに答えよ。余は魔王ヘルグラッジだぞ! ここはむしろ食べられる側が『魔王さまに食べていただけるなんて幸せです』と感謝し手を合わせるべきであろう!」


 日本のしきたりに癇癪かんしゃくを起こしたヘルグラッジは、左手を突き出して人差し指と中指を立てた。


「余は命ず。なんじの名を語りたまえ。時空の彼方かなたに忘却せし自我の芽を開き示せ……《創命そうめい奇蹟きせき》!」


 ……何も起こらないじゃんか。

 するとハムがむくりと体(?)を起こし、


『ははー、魔王さま。魔王さまに食べていただけるなんて身に余る幸せでございます。このハム、よき味であることをお約束致しましょう』

「「ぎやあああああああああああああああああああああああああああああっ⁉」」


 鼻声で喋り始めたハムに悲鳴を上げた俺と真琴はお互いに抱き合った。

 よく見るとハムの薄い体に小さな口が付いている。


「わー、このハム面白ーい」


 ……母ちゃん‼ こんなときまで何言ってんだ!


「ヒャヒャヒャ! このハムは意思を持った。これでようやく毒味どくみができるわ」


 しかもこいつの言いかた失礼千万だぞ。母ちゃんの料理を何だと思ってやがる!


「ふふ~ん。毒入ってないといいけどねえ……?」


 母ちゃんノリノリだし。

 ヘルグラッジはフォークを握ると、ハムをぶすりと突き刺す。


『ぎゃあ!』


 ハムの悲鳴に俺は心配になった。本当に食っていいんだろうか。今のハムには意思が、もっと言えばいのちがある。食ってハムが死んだらその責任は誰がどう取るのだろう……。ヘルグラッジがハムを口に運ぶ。

 しかしヘルグラッジは、ぶはっとハムを吐き出した。ついにこいつにも生命を尊重する道徳心が芽生えたのか……?


「……不味まずい」


 なんだそりゃ!

 期待した俺が馬鹿だった。ハリセンがあればこいつの頭を引っぱたいているところだ。

 ヘルグラッジは激昂する。


「不味い! 不味過ぎる! 人間は普段からこんな不味い物を食べているのか⁉」

「んん? アレルギーか何かか?」

「大馬鹿者め! そんな訳がなかろう! 人間の食べる物を余の舌が受け付けんのかも知れん……!」


 じゃあ何も食えねえじゃんか。


「……それじゃあヘルグラッジねーちゃん、いつも何食べてるの?」


 ヘルグラッジは胸を張る。


「決まっておるだろう。人肉だ」


 得意げに言い放ったヘルグラッジに場が凍った。

 こいつ今なんつった?

 真琴はショックのあまり泣き出してしまった。

 俺は真琴を必死になだめる。これは現実逃避とも言うな。


「このなかで旨そうなのは——」


 ヘルグラッジが目を爛々らんらんと輝かせ、母ちゃんと真琴を交互に見る。

 真琴はより一層激しく泣き出した。


「ヘルグラッジちゃん? この世界では人間なんて食べれないの。魔法が十分に使えないんでしょ? おまわりさんがたくさん来ちゃうからやめときなさい」

「むむむそうか。なら今は勘弁してくれる」


 こうして俺たちは母ちゃんのコミュ力に助けられたのだった。


 今日のヒロインは見事ヘルグラッジを言い負かした三船歩美みふねあゆみさんです!


「どうもヘルグラッジです」


 あれ? 手違いで全然違うゲストを呼んでしまいました。


「貴様……作者の分際で余を怒らせおったな……! 余は言い負かされてなどいない!」


 ちょっとちょっとヘルグラッジさん、そのてのひらに浮かぶ灼熱しゃくねつの火球はなんですか。暴力反対!


 ——その後作者の姿を見たものは(略)

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