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魔王城の攻防

 二人の男が死闘を繰り広げている……!

 茜色の光のなか、二人の男が戦っていた。

 一人はおどろおどろしい大鎌を振るい、もう一人は光り輝く聖剣を手に攻め立てていた。

 周囲に散らばるのは魔物の死骸、立ち込めるのはその死臭。

 目を覆いたくなる凄惨な光景。ここは聖なる大地〈マーキス〉の中央に不遜ふそんにも堂々とそびえ立つ〈魔王城エビルサイズ〉の最深部〈黄昏たそがれの間〉。


「ぐぅっ!」


 光り輝く聖剣が大鎌使いの胸を貫いた。聖剣使いの勇者は魔王の胸から血濡れの聖剣を引き抜く。紫色の血が噴き出した。

 勇者はそこそこに長い金色の前髪をき上げた。端正な顔立ちに、水色の瞳をしている。全身を覆うのは光輝く鎧。

 剣先を魔王に突きつける。


「ここまでだ魔王ヘルグラッジ! 死をもってこれまでの悪行を償うがいい!」


 大鎌の柄を突き立てて。魔王ヘルグラッジは片膝をつき、血の塊を吐き出す。勇者は魔王の首をいとも簡単にねてみせた。首が放物線を描いて回転しながら宙を舞い、やがて何度か跳ねて転がった。


「勝った……勝ったよ……みんな……!」


 困苦に満ちた旅の道程を思い返し、勇者ノア・ヴァーナーの頬を涙が伝う——かに思われたが。


「せっかくだから記念撮影しちゃおうっ!」


 おもむろにピースサインをしてそう言うと詠唱を開始する。


「ボクの背後の景色を切り取れっ! 《エリアルフォトグラフ》!」


 たちまち一枚の写真がノアの眼前に浮かび上がった。ノアはそれをつかみ取って青い顔をする。写真に写っていたのはおびただしい数の怨霊たち。さすが魔王城なだけはある。


「あちゃー、すんごい心霊写真になっちゃったな……まあいいや。これにサインして……っと! 『勇者ノア・ヴァーナーのサイン入り! 魔王ヘルグラッジ倒したてホヤホヤの写真一枚限定!』……で売り出せればいいなあ」


 この勇者は抜け目がなさすぎる。


「怨霊さんは何体いるんだ? ひーふーみー……んん?」


 よく見ると魔王の姿かたちをした怨霊が写っている。こちらに向かってあっかんべーをしていた。

 ノアが振り返ると、半透明のヘルグラッジが小憎らしい顔をしながら彼方に離れていく。


「ヒャヒャヒャヒャヒャヒャ! 残念だったなぁ! 余は魂だけは残った! 勇者ノアよ! 音に聞こえた詰めの甘さだな!」

「しまった! 待て! ヘルグラッジ!」


 ヘルグラッジは止まらない。床に仕掛けられていた何重もの魔法陣が起動し、漆黒の闇が〈黄昏の間〉を満たす。転生の門である。

 その闇のなかに。ヘルグラッジは吸い込まれていった。


「……あなた……〈地球〉へ行くのね……わたくしも……連れていって……」


 魔物の死骸のなかから絶え絶えな甘い声が聞こえた。黒のショートボブをしており、首にはブラックパールのネックレスを着けている。豊満なボディはいかにも魔王の趣味を形にしたようで趣味が悪い。

 この女は先ほど勇者にやられたヘルグラッジの妻ダリアである。まだかろうじて息があった彼女もこと切れ、魂となって闇のなかに吸い込まれていった。


「あぁ、くそっ!」


 ノアは頭を抱えて崩れ落ち、自身の浅はかさを嘆くのだった——



■ ■ ■



 春風に桜の花びらが舞うなか、俺たちは住宅街の路地を歩いていた。


みこと君、さっきはありがとう。本当に助かっちゃった」


 俺が生きている間にこんなことが起きるなんて。

 というのもついさっき俺に人生初の彼女ができたのだ。高二にしてようやくの快挙!

 しかも相手は学校で「聖女」と呼ばれる美少女だ。


「いいってことよ弥生やよいちゃん! これから仲良くしようね!」

「……はい」


 弥生ちゃんは普段は白い頬を赤らめ、腰辺りまで伸びたさらさらの黒い長髪を指でかすように触った。大きな瞳に長いまつ毛と、ぷるぷるの唇。整った顔立ちで、そのうえボンキュッボン。出るところは出て引っ込むところはちゃんと引っ込んでいる。灰色のニーソックスもよく似合っているし。

 それにしても弥生ちゃんの黒髪のカーテンが神々しいなぁ。まるで鏡みたいだ。反射して俺のツンツンの茶髪やつり目の顔、痩身そうしんまで映り込みそう。俺だってそれなりに顔はいいんだからこれで美男美女のカップルができたってワケ。

 いや~、電光石火の救出劇だったよ。

 リード付きのでかい犬に追われた弥生ちゃんを発見した俺が手を引いて必死に逃がしたのだ。

 でかい犬が追っていたのは弥生ちゃんだけみたいだったから、俺は機転を利かせてリードを握った。すこぶる力が強かったけどなんとかかんとか引きずっていってさ。飼い主らしきオッサンがきょろきょろしながら走ってきたから無事に引き渡せてよかったよかった。

 で、この機に乗じて「前から好きでした」って告白したら「実は……わたしも……」なんていう展開に。

 オッサン、次はちゃんとリード握ってろよ。

 しかし今回は感謝する!

 そのとき弥生ちゃんが俺の胸にトンッと身体を預けてきた。どうした弥生ちゃん?


「ぅう……うう~……っ。あんな大きな犬に追いかけられて……怖かったよぉ……っ!」


 俺の心臓がこれまでの人生で一番跳ねた。なにこの子可愛すぎる。

 わんわん泣く弥生ちゃんをひとしきり慰めたあと、俺は勇気を持って頭をぽんぽんと撫でてやった。ホント聖女そのものだよ。きゃわいいなあ。


「ぅ……ありがとう……。でも体育でもないのにあんなに走って疲れちゃった……。三船君、もう少しゆっくり歩こうよ」

「だね。それにしてもなんであんなでかい犬に追われてたの?」

「えへへ……しっぽ踏んづけちゃって……」


 えへへ……だって。かわいい笑いかたするなあ!

 それにしっぽ踏むなんてちょっぴりドジなところもますますそそられる!

 こりゃ今夜いきなり初めての……なんてこともあり得るぞ。

 こんな感じで調子に乗った俺は電話番号聞き出したりLINE交換したりしちゃったワケだ。だって俺たち将来幸せな家庭を築くんだもんね!


「ねえ。今度の日曜日、遊園地に行こうよ弥生ちゃん! 今日が金曜日でしょ? あさって!」

「え……? う、うん、か、考えとくね……」


 初めての彼女だからなぁ。誘う場所のさじ加減が皆目かいもく解らん。

 いきなりの誘いでちょっと引かれたか? 俺は歩きながらうつむいて考え込む。紫色の光が視界の端にちらついたような気がしたが気にしない。


「俺女の子と遊園地に行くの初めてなんだ! どの乗り物に乗ろうかなぁ……!」

「ヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!」


 弥生ちゃんって本当に笑いかた可愛いなあ。


 聖女・弥生の笑いかたに違和感が⁉

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