断罪からは逃れられない!?
さっき見せられたハンカチは、確かに私のものだ。
可能性としては、ありえないことだが、完璧フロイドが、あのハンカチを落としたのだと思う。何かあった時、サッと私に渡せるよう、専属バトラーであるフロイドに、あのハンカチは預けていた。
ただ、私自身もハンカチを持ち歩いており、必要な時は、自分でいつも取り出している。ゆえにずっとあの新品状態で、フロイドが持っていたのだと思う。
よりにもよって、これまで失敗無しのフロイドが、まさかの橋爆破でヘマをするなんて……。しかもこれは、最悪な結末を招くと思う。
私はただ、絞首刑につながるチーティン第二王子との婚約を回避したかっただけだ。チーティン第二王子と婚約し、やがてヒロインが現れ、彼を攻略対象に選んでしまったら。どうしたってリズは悪役令嬢として、ヒロインをいじめてしまう。そしてお決まりの断罪でジ・エンドとなる。
そうなりたくなくて、橋を爆破しただけだ。そしてそれは見事成功した。
だが。
このままでは私は国王陛下に、断罪される可能性がある。それはこの理由で……。
「例え、交易にも移動にも影響がほとんどない森の中の橋であっても。爆破されれば国の威信に関わる。実行犯に爆破を指示した真犯人の目的は明白じゃ。国王であるわしの名を汚すためなのだろう。これはまさに不敬を問うべき案件だ。自らの手は汚さず、実行犯に橋の爆破を命じた、その真犯人は――」
私は死を覚悟した。
ドン、ドン。
突然の音に、全員が固まる。
「この太鼓の音は……」と国王陛下のはちみつ色の瞳が輝く。そこに扉がノックする音が聞こえ、侍従長が国王陛下の顔を見る。国王陛下は目で合図をして、侍従長が扉を開ける。
伝令係だろうか? しばし扉の前で会話をしている。それを終えると、侍従長が父親と私に会釈し、玉座へと向かう。そして国王陛下の耳元に顔を近づけ、手を添える。
侍従長の話を聞いた国王陛下の表情は、なんとも言えないものに変わっていた。それは驚愕とわずかな疑心。だがすぐに侍従長に何やら返事をした。
すると侍従長は国王陛下にお辞儀をして、そのまますぐ扉へ向かい、拝謁の間から出て行った。
私はただただ心臓をドクン、ドクンとさせ、悪役令嬢の断罪は回避できないのかと、絶望的になっていた。
婚約は逃れても、その先の断罪からは逃げられない。むしろ婚約をすっ飛ばしたので、代わりに断罪が早まった。国王陛下から断罪され、終わる……。
ループ(やり直し)できるのだろうか?
「……話が途中になったのう。どうやら橋の爆破に関して、真実が分かったようじゃ」
そこで再度、扉がノックされ、侍従長が入って来たと思ったら、その後に続くのは……。
自分が絞首刑を言い渡される寸前だというのに。
突然現れた美青年に、すっかり目が奪われてしまう。
シルバーブロンドは、トップが短く、襟足は長く、歩く度にサラサラの髪が揺れている。キリッとした眉毛の下の二重の瞳は、銀粉をまぶしたような紺碧。通った鼻筋に、シュッとした顔のライン。
透明感のある肌をしており、白い毛のついた碧いマントが、実によく似合っている。そのマント、かなり長いと思う。それを引きずっていないのは、チャコールグレーの皮のブーツに収まる脚が、よほど長いからだろう。濃紺の軍服も実に似合っているが……。
誰?
「メレディス、よくぞ戻った。三年ぶりの帰還じゃ! 元気そうだな」
「父上、時間がかかり、申し訳ありません。まだ残党がいますので、捕えたグレーマンの留置が終わりましたら、また出発します」
「! そう言わず、少しは」
「いえ。グレーマンの横暴により、多くの民が命を落とし、田畑を荒らされています。それに頭領のアーストンをまだ捕えることができていませんから」
メレディス、メレディス、メレディスって、そんなキャラクターいましたっけ?
あ、待って。
ヒロインの攻略対象でもなく、名前(文字)だけ登場していたキャラクターに「何これ。メビウスみたいな名前」と思った記憶がある。
「既に王太子教育を終えているとはいえ、メレディスばかりに負担をかけるわけには……。チーティンをいかせるから」
「父上。チーティンは実戦経験もなく、まだ十五歳でしょう。子供にグレーマンの相手は厳しいです」
「何を言っている、メレディス! おぬしだってまだ二十歳ではないか。実戦を積んだことで実年齢上の貫禄があるが……」
そうだ、王太子! え、王太子ってこんなに素敵な人だったんだ。国王陛下の信頼もとても厚い。
でもしかし。ゲームの進行にまったく関わらないメレディス王太子が、ここにきて突然登場したのはなぜかしら?
「ところでメレディス。おぬしが捕らえた二人の男性を、ここへ連れてくれるがいい」
「かしこまりました、父上。一人は身綺麗ですが、もう一人はグレーマンです。そちらに可愛らしいレディもいるようですが、よろしいのですか?」
そこで国王陛下は「そうじゃった」と私と王太子を、順番に紹介してくれた。さすがに父親はメレディス王太子のことを知っているようで、普通に挨拶をしている。
というか、メレディス王太子が登場してから、国王陛下はすこぶる機嫌がいい。一体全体、今、何が起きて、何が起きようとしているのかしら!?
「!」
互いの紹介も終わったということで、メレディス王太子が捕らえたという男性二人が「拝謁の間」に入って来た。その二人を見て、私は顎が外れるかという程、口を開けてしまっている。
なぜなら、あろうことかその一人は……フロイドだったからだ。






















































