舞踏会当日
結論から言うと、大成功!
森の中は日没と同時に人はいなくなる。これから真っ暗になる森の主人公は、人間ではなく、獣。よって橋の辺りでも人気は皆無になる。その時間を指定し、そしてフロイドは見事に橋を破壊してくれた。
私はドキドキしながら宮殿の舞踏会に顔を出していた。国王陛下が開始の挨拶をしたその時。チーティン第二王子の姿はない。本来はここから彼は登場しているはずだった。最初のダンスが始まり、みんながダンスを踊り始めて――。
二時間が経過した。チーティン第二王子の姿はどこにも見当たらない!
「リズ。今日はお行儀よくできてよかったよ。社交界デビューもこれで大成功だ。もう二時間経つ。屋敷へ戻ろうか」
父親にこう言ってもらえた瞬間、脳内では喜びの小躍りをしていた。
迎えた翌日。
橋の破壊の件がニュースペーパーに載っているかと思ったが、それはない。この件についてフロイドに尋ねると、こんな見解を示してくれた。
「橋は重要なインフラです。自然災害などがあり、破壊されたならば、まだ言い訳が立ちます。他の二つの橋に比べると、利用される頻度が少ないとはいえ、橋が破壊されば国の威信に関わるでしょう。しかもどう考えても、人為的に破壊されている。となると防衛力の甘さを、指摘されかねません」
これは「なるほど~」だった。確かにその通りだろう。
「よって、ニュースペーパーで橋の崩壊について報じられることは、ないでしょう。おそらく『メンテナンスのため、しばらく封鎖する』ということで、通行止めにし、急ピッチで修復すると思います」
自分の断罪回避のため、橋を落とすことに対して、申し訳ない気持ちがなかったわけではない。不便を強いることになると思っている。でもフロイドの話を聞くことで、急ピッチで修復が進むに違いない、迷惑はあまりかけないで済むと、ようやく安堵することができた。
あとは今日一日を、うまくやり過ごせばいい。
私はいつも通り、屋敷に家庭教師を迎え、午前中は、公爵令嬢に必要な教養やマナーのレッスンを受ける。午後は母親から刺繍を習い、講師を招き、ダンスの練習だった。来客の予定は組んでいない。
一方のチーティン第二王子は、外国の使節団の訪問を受けているはずだった。ニュースペーパーにも使節団の来訪が伝えられており、こちらはゲームの進行通りだろう。そうなるとチーティン第二王子は宮殿で缶詰となる。夕方には晩餐会からの舞踏会に突入するし、私と出会うことは無理だ。
ちなみに私は昨日舞踏会に出ているからと、今日の舞踏会は免除されている。本当は行った方がいいのだろうけど。でも本来のゲームの進行でもこうなのだから、問題ないだろう。
こうして何事もなく、この日も終わる。
翌日は私の誕生日なので、朝からにぎわっていた。
正しいゲームの進行では、朝一で王室の馬車がやってきて、そこでチーティン第二王子が電撃で「わたしの婚約者になってください」となる。だが、代わりにやってきたのは……。
招待客ではない令息の家門の馬車だ!
「ダッツ子爵家より、求婚状が届いています!」
「クリスピー伯爵家からも求婚状です」
「アソート男爵家より、求婚状が届きました」
もし昨晩の舞踏会にチーティン第二王子がいたら、私は彼とダンスを三曲踊り、その後、庭園に連れ出され、散々おしゃべりをすることになっていた。だが、そのチーティン第二王子がいなかった。代わりに、沢山の令息と代わる代わるでダンスを楽しめた。そしてこの舞踏会で父親は、沢山の貴族から私の社交界デビューを祝われ、婚約の打診をされていたのだ。
父親は私のことを溺愛し、過保護にしていたものの。婚期を逃し、オールドミスにさせるつもりはなかった。社交界デビューし、大人の一員と認められたのだ。婚約者を決めていいだろうと考え、「娘との婚約を考えるならば、まずは求婚状でも送ってくれたまえ」と言っていたのだ。
その結果、朝から続々、求婚状が届いていたというわけだ。
このままいけば、チーティン第二王子以外と婚約できる!
ガッツポーズをまさにしそうになっていた時。
王家の紋章のついた馬車がやってきた。
これには驚き、誕生日パーティーのために着ていた、とびっきりの白のドレスのスカートを、ぎゅっと握りしめてしまう。透け感のある、淡い水色のフリルがふんだんにあしらわれた素敵なドレスを着て、ご機嫌だった気分は、一気に盛り下がる。
どうして会ってもいないのに、いきなり本人が乗り込んで婚約を申し込むなんて、イレギュラー過ぎるのでは!?
私はそう、衝撃を受けていた。
だが、馬車から降りてきたのは、チーティン第二王子ではなく、王室からの使者だ。何事かと思っていると、使者は父親を尋ね、やってきていた。