1.転生という転機
この世には使う側の人間と使われる側の人間がいる。俺、重金安弘はいつも思う。
この世界は残酷だ。能力があるものは良い人生を送ることができるだろうが、能力がないものには苦しい人生が待っている。俺はこのような社会が嫌いだった。
生まれたときから片親、母親はとても貧乏、学校にも行くことができずろくに食事もできない。俺は母親を手助けすることしかできなかった。
そんな不遇な幼少期を過ごしたが、ある日とうとう母親が死んでしまった。親を失った俺は孤児院に引き取られ…その後は覚えていない。あまりに悲惨な記憶だったのでショックで忘れてしまったのだ。
俺はおとなになっても貧乏だった。働いていた仕事も辞め、国からの給付金だけで暮らしていた。すべてが何も意味がない物だった。
「もう俺死のうかな。」
俺は生きる意味を失っていた。そんな事を考えながらため息をついた。
そのときだった。ドアを開ける音がした。俺は不思議に思った。なぜなら俺には友人がいなかったからだ。また俺が住んでいる家はとても劣化した古い家だったので泥棒が入ってくることもない。
ふと見上げるとそこには刃物を持った男が立っていた。俺は身構えた。
「誰だお前は。」
俺は妙に落ち着いていた。
「忘れたか?俺はお前が借りてる金を返してもらいに来たのさ。さあ早く金を渡せ。」
「返す金などないさ。この性悪ブタ野郎。」
無意識にそう口走ってしまった。これでいいのだ。働いても労いの言葉すらなく、いじめられる始末。仕事をやめても生活は苦しくなるばかり。それなら死を選ぶ方がマシだ。俺はそう思った。
「何様だ貴様ぁ。生意気なこと言うやつは殺してやる。」
目の前が真っ暗になった。おそらく借金取りが俺のことを突き刺したのだろう。やっとこれで開放される。悲しい気持ちより嬉しい気持ちが勝っていた。これで人生という束縛から抜け出すことができるのだから・・・
2040年4月9日午後11時34分、俺は死んだ。
≪ワールドシステム、転生を実行します。≫
≪ワールドシステム、転生を実行します。≫
≪ワールドシステム、転生を実行します。≫
≪ーーー転生に成功しましたーーー≫
目が覚めると。見たことがない景色が広がっていた。何故か騒がしい。死んだのだからもうちょっと休ませてほしい。
(ここは、どこだ。俺は死んだはず…なぜ意識があるんだ。)
俺は死んだはずなのだがなぜか意識があった。そして俺が今いるのはおそらくどこかの部屋だろう。前にはドアがあり横にはタンスがあった。とてもきれいな空間である。どうやら俺は今ベッドで寝ているようだ。
ふと耳を澄ますと見知らぬ女性の声がした。なにやらドア外が騒がしい。
そのときドアがカチャッとなって見知らぬ女性が入ってきた。何やらこちらを見ながら、独り言を言っているようだ。だが俺にはこの見知らぬ女性が何を喋っているのか全く分からなかった。
≪ワールドシステム作動・・・重金安弘に特殊補助スキル「言語理解」を与えます。≫
また見知らぬ声が聞こえてきた。本当に辞めてほしい、無機質な声はあまり好きじゃない。というかこいつがなにを喋っているのか、さっきから全く理解できなかった。
「まあ!目を覚ましたのね。なんと元気で可愛い赤ちゃんなのかしら。早くお父さんに知らせなくちゃ。」
そう言って見知らぬ女性は部屋から出ていった。
俺は驚いた。なぜだかしらないが、急に女性の言っていることを理解できるようになったのだ。
(あいつ、俺のことを赤ちゃんと呼んでいたな。一体どういうことだ。)
なにもわからなかったのでとりあえずベッドから離れようと思ったのだが、全然立ち上がることができない。そして今気づいたのだが目線が低い。何かがおかしいと思った俺は枕元にたまたまあった鏡を手にとって、自分の顔がどうなっているかを見た。
なんということだろう。鏡に写っていたのは自分とは全く違う赤ん坊の顔が写っていたのだ
(は?どういうことだってばよ。なんで俺の顔が赤ん坊の顔になってるんだ?さっきの誰かわからない無機質な声もそうだけど、一体俺の身に何が起こっているんだ?)
俺は動揺している気持ちを押し殺して、冷静に考えた。
やはり何度考えても答えは同じだった。自分でも信じられないがどうやら俺は”転生”してしまったらしい。正直納得がいかないがそう考えるしかなかった。
だがこれは逆に好都合なのではないか。転生した、ということはもう一回人生をやり直すことができる。うまく行けば幸せな暮らしを送ることができるのだ。
その事実に嬉しさを隠すことができなかった。