今日死にます
初めての作品なのでおかしなところが多くあると思います。勉強を兼ねていますのでアドバイスなどがあれば是非お願いいたいします。また、誤字脱字もあるかも知れないのでご了承下さい。
あなたがこれを見ているということは僕はこの世には居ないでしょう。こんな形になるのを許してください。
僕には生きる意味、生きる気力、誰かのために生きること、活力を無くしてしまいました。今回の様に僕はかつて生きることを辞めようとしたことが何度もありました。
友達は居ない、愛する恋人、愛される恋人、職場でも必要とされない、趣味もなければ見た目も容姿も学歴も悪い。こんな人生に懲り懲りし死を選ぼうとしました。
ですが三年前に山内 南さんに出会いました。彼女とは出会い系のサイトでたまたま知り合いました。彼女とは会うたびに親密になっていき結婚を前提に付き合う事になりました。とても幸せでした。結婚のため僕は死ぬ気で働き結婚のためのお金を貯めました。けして多くは無いかもしれないですが。ですが彼女はこんな冴えない僕を温かく見守り、いつも笑顔でご飯を作って待っててくれました。そんな彼女に救われていたのでしょう。しかし悲劇が起こったのです。
ある日会社から帰ってくると山内 南は僕たちの貯金を持ち逃げしたのです。きっと何かの間違えかと思いました。しかし世の中は残酷でした。山内 南は別の男と交際しておりその人と結婚する予定でした。その男は金が無かったのでしょう。だから僕の金を奪って行った。
貯金を取られた事よりも裏切られた事にショックを受けました。もちろん警察にも相談しましたが証拠が何も無かったのでまともに取り合ってはくれませんでした。
その時僕はこう思ったのです。やっぱり僕はこの世に入らないんだ。つまり死んだ方がいいんだと。
この様な経緯で今に至ります。
愛する父と母へこの様な形になってしまい本当に親不孝だと思っています。ですがこんなバカ息子のことを許してください。さようなら。
松木 秀代は遺書を書き終えると会社に行く時の様にスーツに着替えた。もちろん会社に行くわけではない。それに会社はとっくに辞めてしまっている。正しくは無断欠勤をしているだけだ。恐らくクビになってるに違いない。連絡も全然こなくなってしまった。法的処置を取られないかが怖かったが特に何も起こっていない。私みたいな無能な社員にそんなことをする気力もないのであろう。
これから向かう場所は普段使う大竹向川駅だ。住宅地の近くにある駅なので利用客は格段と多いわけでもない。ここで自殺するのには特に理由なんて無かった。特に思い出があるわけでもないし。
ただ、この駅は急行列車の通過が多いので活実に死ねる。それに駅員さんも少ないから止める人もいないであろう。
僕はいつも通り駅に入り鞄の中に遺書を入れ上り方面の端に立った。他の乗客はスマホを片手に僕のことを気にしている様子も無かった。いや、列車に飛び込もうなんて思ってもいないのか。
「まもなく一番線に通過列車が参ります。危ないので黄色い線の内側にお下がりください。」
車掌がそうアナウンスした。
列車が来る。来た瞬間全ては終わるのだ。やっと解放される。
列車が来るタイミングと共に僕は列車に向かおうとした。準備はもう満タンだ。列車は高速で駅に入線していく。平和な駅も何秒かしたら騒然とするであろう。迷惑をかけるのは百も承知だ。でも私は今まで社会に貢献してきんだ。最後くらい迷惑をかけたっていいだろう。
しかし後ろから誰かに肩を叩かれた。ああ、自殺しようとしたのがバレたのか。
その瞬間急行列車は何事もなく通過して行った。余計なことをされた。場所を変えるしかないのか。無言で立ち去ろうとすると。
「あのぉ、すみません。」
恐らく私の自殺を止めたであろう女性が話しかけてきた。若そうな女性だ。
「ああ、お気遣いありがとうございます。でも、止めても無駄ですよ。僕は場所を変えるんで。」
適当にあしらい駅を出ようとしたが腕を掴まれた。めんどくさい人なのだろう。
「いや、決して止めようとなんて思ってないですよ。どうぞご自由にって感じです。やっぱり自殺しようとしてたんですね。」
「だからなんですか?なんかの自殺防止団体なんですか?」
僕はあの出来事以来人を信用できなくなってしまった。特に女性に。私に話しかけて来る女性なんて中々居ないし。居たとしても会社の人くらい。
「いやいや、違いますって。別に私はあなたが死んでも困りません。まあ通勤客が迷惑を被るかもしれませんが。」
なんだこの女はこんなに物事をはっきり言うとは。間違ったことを言わないのが鼻につく。
「そうすか。とりあえず僕は帰ります。」
「ちょっと待ってください!私も実は自殺をしようと思っているのです。ちょっとお話聞きたいのであそこの喫茶店に行きましょう。」
とことん変な女だ。自ら自殺宣言する人なんていないよ。
でも、職場以外の人とまともに会話したのも久しぶりだ。少しくらいついて行っても悪くない。何かあったらすぐに帰ってしまえばいいのだ。
「じゃあ三十分だけなら。」
「では行きましょう。」
僕と謎の女は駅を出て近くの喫茶店に入った。近くにスターバックスやマクドナルドがあるので人はそこまで多くはないが昔から地元に愛されている。僕も小学生の頃はよく友人や家族と来たものだ。あの頃はまだ友人もいて人生で一番充実していた。
「私、スタバとか嫌いなんですよね。」
謎の女の見た目はそこら辺の女性となんら変わりないのに独特の雰囲気を感じる。言い方を変えれば変人だ。
「はい。」
僕はずっと相槌を打っているだけだった。
「あなたなんか陰気臭いですね。でもじゃないと自殺なんかしようと思いませんよね。」
「あなたこそ。凄いですね初対面でそんなこと言えるなんて。」
僕は少し怒りながら答えた。腹が立ったので帰ろうと席を立つと
「それが私のよくないところでしたね。ちなみに私の名前は西川 加奈。呼び方はなんでもいいよ。」
「なら呼び方は西川さんでいいか。僕の名前は松木 秀代。」
「西川さんか。なんか寂しいな。私はひでちゃんって呼ぶわ。」
僕は飲んでいたアイスコーヒーを吹き出した。
「そんな言い方されたの初めてだよ。友達でもないのに。」
友達でもそんな呼び方しないか。
「あら。自殺仲間じゃないの。」
どんな仲間だよ。心の中でそう突っ込んだ。
「ところでなんで自殺しようとしていたの?」
「ああ、重要なこと話して無かったですね。」
僕は遺書に書いた通りに事の経緯を説明した。どうせ死ぬし遺書を見るのは警察だけだろう。見せたっていい。バカにするならしてくれよ。
「ひでちゃんにも色々あったのね。」
さっきの顔つきとは打って変わって神妙な面影をしていた。流石にそのくらいの分別はついているのか。
「私も自殺したい理由話すね。まあ簡単に言うとこの人生に飽き飽きしているの。景気も悪い、少子化、税金は高い、労働環境が良くない。だからこの人生嫌になっちゃってね。いっそのこと死んでみようかなって思ったわけ。」
そこまで話すと西川は話すのを辞めた。
「なるほど。」
私はそうとしか言えなかった。なんか胡散くさい。呆気にとられていると西川はアイスティーを一気に飲み干した。
「今日はお開きにしましょうか。あっ、最後に連絡先聞いていいかな?自殺する時に連絡して一緒にしましょうか。」
「大丈夫ですよ。」
そうは言ったが恐らくこの女ともう会うことは無いだろう。僕は一人で死ぬだろう。一週間も経たないうちに。それどころか一時間後には。
私と西川は喫茶店の前で別れたが予定を崩されてしまった。もう一回駅に行って自殺する気力も無くなったので家に帰ることにした。
帰りの足通りはかなり重く感じた。私の家は五階建てのエレベーター無しの団地にある。家族住まいが多くここに一人で暮らしてる人は珍しいだろう。家賃が安いのもあったが物心がついた時からここに住んでいた。階段を登り二〇二号室に入る。ここが僕の家である。玄関には幸せだった頃の写真を飾ってる。そう家族写真だ。小学生の頃に撮ったものだ。この頃が人生の絶頂だったんだろう。神は居ないと頃からは思っている。
それからただする事もなくボンヤリとベットに寝転んだ。そしてシミのついた天井をじっと眺めていた。まだ、昼過ぎだというのに。西川からメールが来ていたが返すつもりもない。どうせまたどこかへ呼び出してネズミ講の誘いや宗教の勧誘をするだけだ。それにどうでもいいかもしれないが顔も結構可愛かった。そんな可愛くて現代的な人が一緒に自殺したいなんてあるわけなかろう。
面倒ごとになる前に明日こそ死んでしまおうか。また駅に行くと今日みたいなことが起こるだろう。下手すりゃあの女が居る可能性もある。
だったら富士の樹海にでも行って首を吊ろう。家の中での自殺も何回も考えたが清掃する人や近隣の人のことを考え、家での自殺は諦めた。かなり昔、友達の家の隣が孤独死をして異臭が凄かったのを覚えている。その友達も今は何をしているのかな?
僕は気がつくと身の回りの整理を始めていた。死んでから見られたくないものが沢山ある。ダンボールの中に卒業アルバムと山内との写真を段ボール箱に放り込んだ。もう見たくもない。特に中学校の卒業アルバムは見たくないのだ。なぜ捨てなかったのだろうか。それは自分も覚えていない。
卒業アルバムよりも見られては行けないのはデスノートだ。中学の頃は一度でもこうなるであろう。いわゆる厨二病ってやつだ。デスノートは漫画でもあるようにそのノートに名前を書くと実際にその人物が死ぬノートなのだ。もちろん僕のノートは書いても誰も死ななかったが。
本当に死ねるのであれば自分の名前をとっくに書いていた。
中学の嫌な出来事を思い出したくないからノートと卒アルはダンボールにしまって封をした。
身の回りの整理を終えた。私はノートパソコンで富士の樹海について調べた。
どうやら都市伝説によると樹海の中に入るとコンパスが狂いだす、死にきれなかった人が作り出した村がある、新興宗教があるなどが出てきた。
とある動画投稿サイトには富士の樹海に面白半分で立ち入る動画もあった。
「死体があったら怖いですねぇ!」
笑いながらリポートしていた。死にたくない人にとってはそんなもんなのだろう。心霊スポットという名のテーマパーク可してしまっている。
富士の樹海までは車で二時間ほどで着くらしい。今は使っていない通勤用で使っていた車で行こう。バッテリーがあがってないといいけど。車が使えなかったら電車で行くのもありだな。
南の為に新しい車も買おうと貯金していたがそれも全て持ってかれたのだ。
さらに死にたくなってくる。考えるのは辞めにしようか。
気がつくとあたりはすっかり暗くなっている。夜の方が目立たなくていいだろう。今のうちに出発しよう。
私は準備を終え、家を出た。この家には二度と戻らないのか。でも誰にも見られても恥ずかしくはない。何故なら見られたくないダンボールは車に積んでおいたから。
車に乗り込みエンジンをかけた瞬間着信が鳴った。携帯も置いてくればよかったと思った。
最初は無視していたがあまりにもかかってくるので電話に出た。
その相手は西川だった。しつこすぎる。
「もしもし〜全然メール返してくれないから先に自殺したのかと思っちゃったよ。何してるの?」
「何してるって。」
私は舌打ちをしながら返した。
「もしかしてこれからどこか行くの?エンジンの音がするけど。」
「ちょっと買い物。」
「え〜嘘くさいなぁ」
女の人は何かと鋭い気がする。何か異変があるとすぐに気づいてしまう。そのくせ嘘をつくのも上手い気がする。
「本当のこと教えてよ!」
私はこのまま電話を切った。そして西川の携帯番号をブロックした。もうこれで縁は無くなった。
出発しようとしたがタイヤが一本パンクしていた。たまたまスペアタイヤがあったのでそれに交換することにした。
タイヤを交換するのはいつぶりだろうか。元々、お金が無かったのでタイヤ交換はいつも自分でやっていた。また小学生の頃父のタイヤ交換をよく手伝っていたし。真夜中にタイヤ交換をしてるって周りから見たらおかしいだろうなぁ。そう思いながら交換しているとライトが照らされた。夜に音を立てていたから誰かが警察を呼んだのかと思った。しかしそのライトの主は警察では無かった。
「手伝いましょうか?」
「すみません大丈夫ですよ。」
そう答えて顔を見るとそこに立っていたのは西川だった。私はその場ですっ転んだ。
「な、なんであなたがいるんですか!」
西川は笑顔で答えた。
「ヒデちゃん急に切っちゃうなんてひどい!」
「電波が悪くて。」
嘘をついた後私はちょうどタイヤの交換を終えた。
「悪いけどもう出ちゃうからね。」
私は西川に優しくそう言い車に乗った。変に刺激してもヤバいだろう。
「え〜酷い約束が違うじゃん!」
無視してサイドブレーキを下すと。
「私、今ここでこの人にレイプされましたって叫ぼうかな。」
と言った後本当に叫びそうになったので慌てて車から降りて辞めさせた。
「やめてやめて。根拠のない事を。」
「じゃあ私も連れて行って!」
ここで叫ばれてもかなり困る。私はやむを得ないと思い西川も連れて行く事にした。
「ありがとね!」
「ああ。これから富士の樹海に向かうけど大丈夫?」
「やっぱり自殺しに行くんだね。」
「そう。富士の樹海までだからね。あとは好きにして。」
「だから一緒に死のうって言ったじゃん。」
本気で言ってるのかこの女は。最早怖い。
私はそのまま車を出発させた。ナビはもちろん富士の樹海にセットしてある。西川に何かされたら途中でおろしてしまえばいいだろう。凍死しない程度の場所に置いていけば大丈夫だろう。何か根拠のない事をされたと言ったとしてもその頃には私はこの世には居ないのだから。
「ヒデちゃん見て見て!」
西川はこれから自殺しに行く人のテンションじゃない程テンションが上がっている。
「首吊りのロープ作ったんだ!」
得意気に言うとカバンの中から首吊り用のロープをだした。
「ネットで作り方載ってるんだよね。」
そう言った後楽しそうにロープをしまった。
「なんで死にに行くのにそんなに楽しそうなの?」
「え?人生最後なんだよ。最後くらい楽しんで死にたいじゃん。」
「なるほどね。なんかすごいよ。」
決して感心しているのではない。
高速道路に入り車はどんどん樹海に進んでいく。平日のこの時間なので普通車は少なくトラックが多い。たまに走り屋の車も見かけるがかなり空いているので予定時刻よりも早く着きそうだ。西川は高速道路に入ってから睡眠に入った。よく見知らぬ男の隣で寝られるよな。もし私じゃ無かったらこのまま何をされていたのか。西川はかなり変わった人だが髪は長めで顔も今時の女優さんにいそうな顔をしている。顔をちゃんと見るのもここで初めてだ。だからこそ他の男であればあんな事やこんな事をされていたに違いない。この女は本当にネズミ講や宗教の勧誘ではなく自殺をしに来たのであろう。もしくはサイコパスだから私を殺したいのかも知れない。かつてSNSで自殺したい人がやり取りをし実際に会って殺されてしまう事件があった。でもそれでもいいや。死ねればそれでいいし。
車のメーターを見るとガソリンがかなり減っていた。もう使わないから給油なんかしなくてもいいかもしれないがこの先でガス欠をしても困る。なのでサービスエリアに立ち寄ることにした。
サービスエリアに着くと西川は起きた。
「もう着いたの?」
眠い目を擦りながら言った。
「いや、ガソリンがないからちょっと寄っただけだよ。ちょっと待ってて。」
「なるほどね。なら私は何か買ってくるね。」
「分かった。でもこの時間お店やってないと思うよ。」
「自動販売機で何か買うわ。」
そう言って西川は建物の中に入っていた。
その間に私は給油をした。このまま給油を終え、西川の事を置いていこうかと考えたがサービスエリアから出ることが出来なくなるだろうから流石にやめた。余計な優しさを持っているのが私の悪いところでもある。だからあの女に騙された。
給油が終わると共に西川も手に何かを持ったまま戻ってきた。
「何買ったの?」
「焼きそば!自販機に売ってたの。」
手には二人分の焼きそばと二人分のお茶を持っていた。
「ありがとう。申し訳ないね。」
「え?これ私が全部食べるんだよ。」
「なんだ。なら早く車乗って。」
「うそうそ。ヒデちゃんのために買ってきたの。一緒に食べよ。」
「なんだよ。ありがとう。」
私は笑いながらそう言った。ここで二人分食べたら食べたでそれは面白かったかもしれない。
私と西川は車の中で焼きそばを食べた。食べている間特に会話などは無かったがカーナビのワンセグがついている。
「ここで本日のニュースをお伝え致します。昨日午後2時ごろに二越デパートにて強盗事件が発生いたしました。二人の強盗犯は20km離れた住宅街にて逮捕されました。二人は容疑を否認しておりこの事件による怪我人は居ませんでした。続いて次のニュースです…..」
そうか、最近強盗事件が増えていると聞いた気がする。平和な日本も物騒になったものだ。
「私、最後に大きな事件を起こして死にたいかも。」
突然西川が言った。私が西川の顔を見ると西川は再び話し出した。
「私、社会に恨みがあるし。どうせ死ぬならこのくらいの事件起こしてから死にたいじゃん。」
最初は何言ってるんだと思ったが西川の言うことにも一理あるかもしれない。
私も恨んでいる人が居る。中学時代の同級生、伊藤だ。確かにあいつを殺してから死ぬのも悪くない気がする。確か今は有名大企業に勤めていると聞いた。その会社に乗り込みテロを起こせばそいつを殺せる。周りの犠牲を出すかもしれないがやむを得ない。
「それ、悪くないかも。」
西川は少し驚いた。
「え?本当?ヒデちゃんなら絶対反対すると思ってたのに。」
「俺も恨んでる奴がいるんだよ。だからとあるオフィスでテロ的な事をおこすんだ。どうだろうか?やって見ないか?」
「いいね!だったら今日の富士の樹海の自殺は無しで?」
「あぁ、もちろんだよ。その為には二人で計画を建てないとな。とりあえず明日考えようか。」
「そうね。私はまだ眠いから寝よう。」
「僕もそうするよ。とりあえず明日。」
私と西川は座席を倒して眠りについた。まだ冷え込む季節なのでエアコンをつけたまま寝た。ガソリンが減るかもしれないが今はそんなことはどうでも良かった。ただあいつを殺せると思えば楽しくなってくる。
私はどこにでもいる平凡な家族だ。父、母、弟、自分の四人家族だ。決して裕福でも貧乏でもないが団地に住んでいる。地域柄、団地が多い為友人も皆団地に住んでいる。友人も特別多いわけではないがそこそこ居る。
小学校は近くの大竹小学校だ。ごく普通の小学校である。勉強は少しできたが小学生なんて誰でも少しは出来るものだ。放課後はよく友達と公園に行ったり地域密着型の喫茶店に行ったり、ゲーセンにも行き、時には友達の家に行ったり来てもらったりもしていた。
そして家族の仲もよく休日にはよく出かけた。
「秀代!いい景色だろ!」
「最高ね!来て良かったわ。」
「にいちゃん!楽しいね。」
小学校卒業記念に行った旅行の時の思い出。
小学校を卒業したこの頃までは私の人生は順調だった。
地獄は中学に入ってから始まった。
私の入った中学は大竹第四中。そこはあれに荒れ果てていた。毎日校舎にバイクが乗り入れる、タバコは当たり前、金髪にしてくるのも当たり前、中には麻薬をやってる奴もいたらしい。大竹小の隣の学区の団地は育ちの悪い奴が多いからだろう。そこから流れ込んできたのだ。
そこで私は人間の皮を被った悪魔に出会うことになる。
そいつが伊藤 孝一だ。そいつとは中学一年で同じクラスになることになる。
「おい!お前何小出身。」
席に座っていると金髪に染め、改造した学生服を着た男が来た。
「え、大竹小だけど。」
「へぇー。あそこか。あそこは喧嘩が弱くて有名だったなぁ。ちなみに俺は大竹東!」
「そ、そうなんだね。ありがとう。」
私は見るからにヤバそうだったので席から離れようとした瞬間
「どこ行くんだよオラァ!」
私の制服を掴み投げ飛ばした。
「俺、東小の番長って呼ばれてたんだよ。俺の話を聞かずにどっか行っていいわけないだろ。」
私は驚きの方が勝った。急にそんな事してくる人今までいなかった。
「お前、名前は?」
「ま、松木秀代。」
「おーん。俺は伊藤孝一。この学校でも番張るつもりだから。」
そう言った後伊藤は教室から出て行った。
「大丈夫?」
小学校時代からの友人佐々木だ。
「まあなんとか。」
「あいつかなりヤバいやつなんだよ。親がヤクザで小学校時代からバイク乗り回して、中高の悪い先輩とも関わっているらしい。」
よりによって一番ヤバい奴に私は目をつけられてしまったのだ。見るからに弱そうな私をきっと選んだのだろう。
それからと言うもの私は伊藤からの嫌がらせ、いやいじめを受け始めた。
まず教室に入ると席に画鋲が敷いてある。机の上はマジックで落書きだらけ。落書きの内容は主にエロ単語だったから女子からの視線は痛かった。別に私が書いたわけではないのに。
それらを片付けているのも束の間、後ろから伊藤がキックを決めてくる。
「おうおう。俺の芸術作品に手を出すなや。俺はむしゃくしゃしてるんだ殴らせろ!」
と言われて理不尽にぶん殴られる。佐々木もみんなも怖がっていて私を助けてくれる人は居なかった。先生も見て見ぬ振りしていた。何のための教育者なのだろうか。学校の問題を解決してくれるのが教師の役目じゃないのか。私は家族にも黙っておくことにした。
学校に財布は持って行かないようにした。何故ならすぐカツアゲされるからだ。また貴重品も持っていけない、文房具も分解されるか盗まれる。なので私は安い文房具を何回も買い替えては使い、貯めていたお金はほとんどそこをついた。
しかし家族はそれに気がついていた。何故なら私はどんどん痩せていきアザもどんどん増えていたからだ。
母は泣きながら
「もう学校無理して行かなくていいんだよ。」
父も
「学校はなぁ無理して行くところじゃねえんだよ。楽しくなきゃ意味が無いだろ。そんなヤバいところ行くの辞めろ。」
と支えてくれたが私は笑顔で
「大丈夫!」
とだけ答えた。家族に迷惑を掛けたくない。弟もかなり心配していた様子だった。
それまではまだ可愛かった。事件は大体夏休みに入る前くらいになる。大竹小の出身者の大半は転校してしまい佐々木は部活の先輩のいじめが酷かったらしく不登校になってしまった。二学期から別の学校に行くらしい。私はなんとか耐えていた。
そしていつも通り家に帰った。いつも家にいるはずの母と弟もいない。父は仕事で帰ってくるのはまだだ。きっと買い物にでも出かけたのだろうか。私はたいして気にしなかった。
しかし20時を回っても帰って来なかった。これはおかしい。父も帰って来ない。きっと何かあったに違いない。私は母と父に電話をかけた。しかしその電話に繋がることは無かった。21時半を回った頃、腹が減っていたのでトーストを食べていると見慣れない電話番号から電話がかかってきた。私はすぐに出ることにした。
「もしもし、わたくし警視庁の上原と申します。松木さんのお宅でお間違えないですか?」
「ええ、はい。」
そこから私の嫌な予感は見事に当たることになった。
父と母と弟はたまたま車で買い物に出掛けていたらしい。その帰り暴走した車と衝突し父、母、弟は亡くなった。目の前が真っ暗になり倒れ込んだ。
「もしもし?」
その後警察が家に来てくれたお陰で私は気をとりなすことができた。
「こんな時にごめんね。詳しくお話だけするから。」
電話に出た警察とは違う人だったがとても優しそうな雰囲気を漂わせていた。
「実は、中学生が運転している暴走車両が松木さんの車に衝突したんだ。相手の中学生はもちろん未成年だし法で裁くことはできない。だから名前を明かすこともできない。でも少年院には入るから。」
その後私は大きく発狂した。近所中に響くほどの声で。舐めている。私の大切な家族を殺しておいて何の罪にもならないなんて酷すぎる。
それから何日か経ち、葬式を終え私の家には祖父が住むこととなった。祖父は私にかなり気を遣ってくれ、優しかった。今まで厳しかったイメージが強かったので少し驚いた。
「学校も無理して行かなくていいからな。ワシがちょっとくらい教えられるよ。」
「ありがとう。でも一週間くらい学校行ってないしちゃんと行くね。」
「ああ、頑張るんじゃよ。」
私は次の日学校に行った。もちろん気はかなり沈んでいただろう。そんな時に限って伊藤が来た。
「おうおうお前なんで一週間居なかったんだよ!」
「事故で家族死んだんだよ。」
ぶっきらぼうに答えた。答えたくも無かった。
「ああ、俺が殺したのお前の雑魚家族だったの。あんなんで死ぬとかお前の家族らしいな。」
私は何かが吹っ切れた。お前が犯人か。死んでしまえ。
気がつくと自分の机を伊藤に投げつけていた。伊藤の頭からは血が流れ出た。
その後のことは中々覚えていない。確か伊藤が先輩に言いつけて先輩に集団リンチされたのは何となくで覚えている。
「俺の可愛い後輩をやりやがって!」
「生意気だな!」
お前の可愛い後輩の方がやってることヤバいのにな。
私はそれから学校に行くのを辞めた。全てが嫌になり家に引き篭もるようになった。あの時伊藤が少年院にすぐに行かなかったとは警察の前で猫を被っていたからだ。反省の印を見せたのですぐに少年院にぶち込まれることはなかった。
中1の後半から中2は学校に行かなかったが、中3になると伊藤は遠くに引っ越したと担任に聞き祖父の提案もあり再び学校に行くことにした。
しかし私は少しグレてしまった。グレたと言うより素直でなく可愛くない生意気な生徒になった。授業中も抜け出したり学校をサボってゲーセンに行くことが多くなった。決して悪集団に入るつもりはもっぱらないが。担任も他の問題児に頭を抱え、私のことなど気にも留めていなかった。
ある日いつものように授業を抜け出し河川敷で黄昏てた。意外と河川敷は楽しい。草野球をしている人、ランニングをしている人、釣りをしている人、鉄橋から見える鉄道。そういうのを見ているだけで凄く気が紛れる。ただし家族連れを見ると胸が苦しくなった。余計に伊藤が憎い。
「何してるの?」
後ろから声がした。警察だろうか、また学校に行けと怒られてしまう。私は小声でスンマセンと言って立ち上がろうとした。しかし後ろに居たのは警察では無かった。私と同い年くらいの女の子が立っていた。
「何だ。警察かと思った。」
「違うよ。学校行かずに何してるの?」
笑いながら女の子は言った。
「そう言う君こそ。」
私は聞き返した。
「私学校で虐められているから行きたくないの。」
「え、そうなの?俺も昔虐められてたんだ。」
「私たち分かり合えそうね。」
話してみるとその女の子も同じ中学校だった。女子のいじめはさらに陰湿である。仲間外れにされ、物は隠され、コキを使わされる。また男子とは違った辛さがある。
「私も学校行きたくなくてよくここに来てるの。」
「そうなんだね。ここいいよね。景色もいいしさ。」
「うんうん。今度からここで一緒に会おうよ!」
「いいね。学校行かないでここに居ようか。」
それから私と女の子は毎日一緒に河川敷で過ごした。私は単純な男だ。その女の子が好きになってしまった。毎日嫌だった生活がこの子のお陰で少しずつ晴れた。その子の匂い、制服姿、笑顔、胸の形いやいや。それを見れるだけで心がいっぱいになった。それに優しくて話も面白いし顔も可愛いのだ。会った時には気がつかなかった。心に余裕もなかったし。
「私あなたと話してる時が一番楽しい。居心地が凄くいい。私あなたのことが好き。」
「本当?」
まさかの両思いとは。それから私たちは初めて私の家に行き祖父がいない間にいろんな事やあんな事をした。初めて卒業したのもちょうどこのタイミングだ。
それから学校の方も卒業したのだ。あの女の子は高校に進学するとともに遠くの方へ引っ越してしまった。かなり悲しかったが私たちはまた会う約束をした。きっとまた会えるとその頃は思っていた。しかしそれ以来会うことはなかったのだった。
高校は近所の偏差値の低い高校へ行った。偏差値は低いが中学の頃のようにあそこまで荒れることはなかった。高校の思い出は特にない為覚えてない。友達も彼女も居なかった。
高校を卒業したタイミングで私は就職をし、祖父も亡くなってしまった。家族が亡くなってからも支えてくれていたのでかなり悲しみに明け暮れた。しかし、会社がかなりブラックだったので悲しみに明け暮れる暇も無かった。そんな中、営業で街を歩いていると奴はいた。
伊藤孝一だ。
奴はスーツを着て真面目そうに電話をしながら歩いてい。そしてそのまま某大企業のあるビルに入って行った。私は後をつけようかと思ったがガードマンがいた為諦めた。黒い私がでてきてこのまま火を放とうかと思った。
しかし、会社から電話がかかってきて正気を取り戻した。
それから非モテだったが出会い系で彼女に出会い、彼女にお金を全て吸い取られた。
みんな殺してしまおうか。気に入らないやつも。私はどうせ死ぬ。家族も友達も何もない。無敵の人間だ!俺に逆らう奴は死刑!はっはっはっはっ!
私はとても長い夢を見ていたらしい。西川に起こされるまでずっと寝ていた。嫌な思い出もいい思い出も今までの人生の振り返りのような夢だった。
「おはよう。結構寝てたね。私は早く起きちゃって。」
「あぁ、ごめん。夢を目ていたみたいで。」
「そうなのね。それよりどうする?これから。」
「とりあえず僕たちの本拠地的な場所が必要だよね。」
「私とヒデちゃんの家は辞めた方が良さそうね。」
「そうだな。住宅地が違い上に俺の家は団地だから話が筒抜けになる。」
とりあえず私たちは車を走らせ空き家を探すことにした。空き家なら本拠地にしやすい。
高速を降り辺は山と畑ばかりで中々家など建っていなかった。たまに建っている住宅も人が住んでいる形跡しかない。
「中々無いもんだね。そう簡単にあったら困るけど。」
「結構空き家問題深刻だから多いと思ったんだけどな。」
気がつけば雑木林の前にいた。雑木林は奥に続く道があった。
「あそこ行けそうじゃ無いかな?」
西川が言った。
「そうかな?まあ一応行ってみるか。」
私たち二人は車を降りた。あたりは雑木林しか無く昼間だというのに薄暗くて君が悪い。でも人が近寄りづらいのも確かだ。私たちは奥へと進んでいった。雑木林の奥に家などは建って居なかった。
「やっぱり無かったじゃん。」
「ほんとね。何のための道なんだろう。」
諦めてUターンしようとすると端の方に倉庫的な建物を見つけた。
「ねぇ、待ってあそこなら行けるんじゃ無いかな?」
私は西川を呼び止め聞いてみた。
「え〜なんかボロっちい。もっと綺麗で新しくて。」
「そんな空き家あるわけないでしょ。ここなら人通りも少ないだろうし行けるよ。」
「綺麗にすれば使えそうね。とりあえず掃除と修理から始めていこうか。」
私たち二人はホームセンターで材料を買い倉庫を修理、掃除した。何十年も放置されていたから流石にあちこちにガタが来ていたが何とか本拠地に出来そうだ。問題は台風や地震が来ないこと。いざとなれば車に避難すればいいか
あたりはすっかり暗くなっていた。雑木林のせいで余計に暗さを感じる。何だかキャンプ気分だ。そんなに楽しい事では無いが。
「夜ご飯材料あるし、コンロも買ったから私が作るね。」
「ありがとう。料理担当は交互だね。」
今日は西川が料理を作ってくれるらしい。そういえば南は料理なんか全然作ってくれなかったな。女性の料理を食べるなんて何年振りなのだろうか。母親も居なくなってしまったからな。そう思うと早く伊藤を抹消したくて仕方がない。
ノートに計画を書き出すことにした。案がどんどんでてくる。
ビルごと爆弾で吹っ飛ばしてみるか、手できたところを刺し殺すか、サリンのような毒物を撒くか。でも私たちには爆弾やサリンを作る技術はもちろんないのだ。やっぱり武力攻撃で行くしかない。銃で乱射するのも悪くないが日本では銃を手に入れにくい。ヤクザと繋がっていればそれこそ話は早いのだが。
そうこう考えているうちに夜ご飯が出来上がった。
「簡単なものしか作れなかったけど。」
メニューはご飯、味噌汁、漬物、煮物であった。
「ありがとういただきます。」
とても美味かった。人の手料理なんて久々に食べたから泣きそうになる程美味かった。
「よかった。喜んでくれてそう。」
西川は嬉しそうな顔をしている。
「そういえば、計画の話なんだけど。」
私はノートを見せた。
「なるほどね。やっぱり武力攻撃が一番かな。覆面被って二人で刃物を振り回すのが一番かな。放火は辞めた方がいいかな。オフィスなんかは燃えにくく作られてるし。仮に捕まったら罪はかなり重いし。」
「そうか。とりあえず明日その会社に視察に行こうと思ってて。」
「分かったわ。私はここで出来ることやっておくから。」
そして次の日、場所が静岡県の為朝五時に起きて東京へ向かった。やはりこの時間はトラックが多い。東京には七時半ほどで到着することができた。場所はうる覚えだが辞めた会社の近くでもある。この際だから辞めた会社の方も襲撃しようかと考えた。だが、こちらを最優先にしようか。
あたりはすっかり暗くなっていた。雑木林のせいで余計に暗さを感じる。何だかキャンプ気分だ。そんなに楽しい事では無いが。
「夜ご飯材料あるし、コンロも買ったから私が作るね。」
「ありがとう。料理担当は交互だね。」
今日は西川が料理を作ってくれるらしい。そういえば南は料理なんか全然作ってくれなかったな。女性の料理を食べるなんて何年振りなのだろうか。母親も居なくなってしまったからな。そう思うと早く伊藤を抹消したくて仕方がない。
ノートに計画を書き出すことにした。案がどんどんでてくる。
ビルごと爆弾で吹っ飛ばしてみるか、手できたところを刺し殺すか、サリンのような毒物を撒くか。でも私たちには爆弾やサリンを作る技術はもちろんないのだ。やっぱり武力攻撃で行くしかない。銃で乱射するのも悪くないが日本では銃を手に入れにくい。ヤクザと繋がっていればそれこそ話は早いのだが。
そうこう考えているうちに夜ご飯が出来上がった。
「簡単なものしか作れなかったけど。」
メニューはご飯、味噌汁、漬物、煮物であった。
「ありがとういただきます。」
とても美味かった。人の手料理なんて久々に食べたから泣きそうになる程美味かった。
「よかった。喜んでくれてそう。」
西川は嬉しそうな顔をしている。
「そういえば、計画の話なんだけど。」
私はノートを見せた。
「なるほどね。やっぱり武力攻撃が一番かな。覆面被って二人で刃物を振り回すのが一番かな。放火は辞めた方がいいかな。オフィスなんかは燃えにくく作られてるし。仮に捕まったら罪はかなり重いし。」
「そうか。とりあえず明日その会社に視察に行こうと思ってて。」
「分かったわ。私はここで出来ることやっておくから。」
そして次の日、場所が静岡県の為朝五時に起きて東京へ向かった。やはりこの時間はトラックが多い。東京には七時半ほどで到着することができた。場所はうる覚えだが辞めた会社の近くでもある。この際だから辞めた会社の方も襲撃しようかと考えた。だが、こちらを最優先にしようか。
私は家からスーツを取ってきて着替えた。とりあえずここら辺で一日様子を見てみよう。
出社の時間になると大勢の人がオフィスに入っていく。大企業なだけあってか従業員の数も多いのだろう。伊藤を見つけるのは中々難しいのかもしれない。一時間程様子を見たが伊藤が出社する様子は見れなかった。もう辞めてしまったのか。人通りが少なくなってきたのでずっと建ってると怪しいだろうから車の中に戻った。路駐禁止区域だったので駐禁のおっちゃんが来たので急いで逃げた。ビルの周りを一周するように戻ってきた。
それから正午になっても伊藤は姿を現すことは無かった。とりあえず昼時なので近くの定食屋で食事をする事にした。私が勤めている時によく来ていた場所だ。毎日のように来ていたのに店員さんには覚えられることは無かった。まあ陰気臭いから仕方ないか。自分のお気に入りは唐揚げ定食だ。1番安くて量も多くこの店の看板メニューだ。さっさと平らげると店を後にした。美味かったが会社を思い出して胃がキリキリしてきた。今度は違うところに行くとしよう。
再び伊藤の会社の前で見張ることにした。しかし退社の時間になっても伊藤は現れることは無かった。次の日も来るとしよう。
翌日も七時半ほどに着いた。今日は社員に聞いてみるのが良いだろう。出社の時間になったので一番話しやすそうな人に聞いてみることにした。
「お忙しい所すみません。私、井上商事の松木と申します。」
辞めた会社の名刺を差し出した。これで警戒はなくなるだろう。
「こちらの会社の伊藤孝一さんと言う方と話がしたくて来たのですが昨日会うことができなくて本日は会社にいらっしゃいますかね?」
「どうもどうもわたくし電残の田中ともうします。」
田中と名乗るものから名刺をもらった。
「伊藤なんですけど部署が違う為ご存じないんですよ。社内成績が優秀らしくて海外の支社に行ったと聞いたのですが。確かでは無いですが。上司の佐々木に聞いてみます。」
「わかりました。わかりましたら名刺に記入してある電話番号にかけて頂いてもよろしいですか?」
「かしこまりました。それでは。」
礼儀の良さそうな方だった。
私は電話が来るまでどこかで暇を潰す事にした。
仕事を辞めてから貯金が底をついてきているので仕事をしようと考えた。調査のためにここら辺でできる仕事の方がいいだろう。とりあえずハローワークに行ってみることにした。
ハローワークに行くのは高校卒業以来である。あのハローワークのせいで地獄を見たと言っても過言ではないかな。
ハローワークで伊藤の会社の近くでちょうど良い仕事を見つけた。契約社員だが贅沢は言ってられない。軽く事務作業をするだけなので前の仕事よりは楽そうだ。
ネックなのは毎朝車でこちらに向かわなければならない所だろう。
仕事が決まり一安心していると電話がかかってきた。田中であろうか。
「はいもしもしも。」
「すみません。田中の上司の佐々木と申します。」
どこかで聞いたことのある声だ。
「もしかして佐々木くん?」
「…..松木くん?松木くんだよね?」
同じ中学の佐々木だった。不登校になって以来会ってなかったから分からなかったが特徴的な声は変わってなかった。
「仕事終わったら会おうよ。」
「いいね。久々に会いたい。」
十数年ぶりに佐々木と再開することになった。
場所は個室の居酒屋だった。中々私だけで行くことが出来なそうだ。流石大企業に勤めるだけあるな。
「松木くん久しぶりだねー。懐かしいよ。」
佐々木はおじさん身を増し中学時代よりも頼もしい感じがする。
「僕も会えて嬉しいよ。不登校になってからずっとあってなかったからさ。」
「あぁ、そうだな。俺は不登校だったけどずっと家で勉強してたんだ。それで高校はそこそこいいとこ行って大学もそこそこいいところに入れたんだよ。」
「凄いね。自分の裏でそんな努力しているとはね。」
「いや、松木くんも凄いよ。辛い話になっちゃうけど家族が無くなっているというのに頑張ってきたじゃないか。」
「あ、ありがとう。その事件なんだけど。」
「うん。知ってるよ。」
「な、何を?」
「犯人でしょ。犯人は伊藤孝一でしょ。」
「なんだ知ってんの?公表されてないでしょ!」
「俺の母親が近所の人から知り得たらしい。知ってる人はかなり少数だったけど、あまり素行のいいやつでも無かったから元から嫌われてたしね。」
「そうなのか。それでなんだけどさ。」
「いるよ。」
「え?」
「伊藤、うちの会社にいるよ。」
佐々木は怖いほど私のことを見透かしている。何故だ。
「あいつが憎いんだろ。俺もあいつが憎くてしょうがないよ。」
「どうして?」
「まあ、松木くんが伊藤にやられているところもそうだし俺もやられたし何よりも会社の金を横領してる。」
やっぱりあいつは社会人になってもクズだったのか。
「何がムカつくって上司の前だといい顔して裏だとコソコソ悪いことするのが一番気持ち悪いんだ。それに女子社員を食ってる噂もあるんだ。」
「さ、最悪だな。」
「俺はあいつを告発しようと考えてるんだ。証拠も大量にある。松木くんはどう考えているんだ?復讐したいんだろ。」
私は素直に答えることにした。殺人を計画していること。全て答えた。
「やっぱりそうだよな。家族を殺されてそんなことしないやつの方がいないもんない。」
「ちなみに僕は殺人をした後自殺するつもりだ。」
「そ、そうなのか。」
そこについては深く触れなかった。
「俺も協力できることは協力するぜ。そうだこれを渡すよ。」
佐々木が渡してきたのは電残の入館カードだった。
「これがあれば簡単に入れるから。ちなみに伊藤は今海外支社で研修に行ったから一週間ほどで帰ってくると思うよ。」
「なるほどね。色々とありがとう。本当に助かるよ。」
「おう!今度また飲みに行こう!」
私には友達が居ないと思っていたが決してそんなことなかった。自殺することを少し躊躇うかもしれない。しかし、伊藤を殺す計画は消えていない。この協力のもとに頑張るとしよう。とりあえず一週間は仕事を頑張ろう。
家に帰ると西川はいつも出迎えてくれる。奥さんみたいだな。
「おかえり〜今日、この机作ってみたんだよ!」
「え!凄いなぁ。やっぱり器用だよね。」
西川は器用で私がいない間に様々なものを作っている。天井の雨漏りを直してくれていたのも西川だった。
「ヒデちゃんなんでも褒めてくれるから嬉しい。」
西川の笑顔は最初は不気味に思えたが今では心が潤う感じがする。この子はいい意味でも悪い意味でも素直だ。だから本当のことしか言わない。私が料理を作った時と美味くなければ正直に不味いと言うし美味ければかなり褒めてくれる。
南は全てにおいて我慢していたのかもしれない。私の話を全て聞いて否定もしてこない。裏を見せないからこそ怖いのだと今実感した。
「そういえば大変なことがあるの。」
「どうした?」
「最近覗きに来る人がいるらしくて。」
「こんなに人通りが少ないのにね。怖いね。気をつけておいた方がよさそうだ。」
「まあ最悪この包丁で刺しちゃえばいいか。」
時折サイコパスな一面もあるのだ。私が何かしたら殺されてしまうのでないかとも思う。
一週間後、伊藤が日本に帰ってきたと言う情報を佐々木が教えてくれた。私はその日は仕事を休み伊藤の会社に向かうことにした。
佐々木にもらった入館カードで確かに入ることが出来た。ガードマンも特に気にもする様子は無かった。セキュリティは甘めだ。
中に入るとやはり凄かった。大企業なだけあってお金がかかっていそうだ。確か、有名建築家が設計したと聞いたことがある。
伊藤がいる部署は13階にあるらしい。私はエレベーターに乗り込み伊藤の部署へ向かった。
そこにはシステム部と書いてあった。奴はシステム部だったのだ。
私は部署の中に入って行った。社員が多いのか特に私を気にする人も居なかった。
給湯室でコーヒーを注ぐふりをして様子を伺ってみた。
あれに違いない。伊藤らしき人物を見つけた。伊藤の見た目は昔とかなり変わっていた。金髪の姿から真面目なサラリーマンと言った姿に変わっていた。私が働いてからあった姿と同じだ。あんな殺人事件を起こしておいてのうのうと生きていると思うとさらに腹が立つ。今実行してしまおうかと思うくらいだ。私は持っていた携帯で伊藤の写真を撮った。
「この人がターゲットです。」
そう西川にメールを送ったら。覚えもらおう。私は写真を撮り終えると今日のところはひとまず退散することにした。まだ午前中であったが静岡に帰ることにした。今夜は本拠地でゆっくりしよう。
今日は夕方ごろに着くことが出来た。帰りのスーパーで酒を買った。西川と酒を飲み交わして話したことが無かったからやってみたかった。
「おかえり。あいつがターゲットね。覚えとく。」
「お願い。今日は飲みながら話そうよ。」
「いいね!飲むの久しぶり。」
私たちは缶ビールで乾杯をした。今日は惣菜を買い込んだから料理はお休みだな。
「やっぱり美味いね!」
西川の飲む姿は豪快だった。
「最高だね。」
私たちは本当に自殺仲間なのか。最早友達みたいいやそれ以上に?それはないか。今日は疲れているのか酔っているのか気持ちが少し変だな。
それから私たちは何本か酒を交わしかなり酔っただろうか。佐々木と飲んだ時はそこまで飲まなかったが今日はかなりのペースで飲んでしまったな。
「私の過去について話していいかな?」
「え?もちろん。」
酔っているからなのか西川は初めてこんな事を話そうとした。初めて駅で会った時もこんなこと言ってなかったのにな。
西川の過去はかなり過酷なものだった。
私はね中学の時に転校してきたの。その学校はスクールカーストが凄くて私みたいな地味な子はすぐにカースト下位にされちゃったの。それで女子のボス的立ち位置のいじめの対象になったの。それで学校には行かなくなったの。
それから高校は通信制に通って卒業した後すぐに働いたの。でもその時の職場の上司に性的なことをされるようになった。お尻や胸を触られる。残業してる時に無理矢理してこようとした。私は怖くて仕事を辞めた。それからお金を稼ぐために夜の仕事を始めたの。でもその仕事でお客さんにガチ恋されてストーカーまでされるように。最後には家に無理矢理入られてレイプされたの。私はそれで全てが嫌になって自殺してしまおうかと思ったわけ。でもそんな時にヒデちゃんに駅で会ったの。折角だから誰かと一緒に自殺した方がいいなと思って。だからあの時話しかけたの。でも今こうやってヒデちゃんに会えたの嬉しいな。
気がつけば私は西川の手を握っていた。
「あぁ、ごめんごめん。つい。」
「いいの。もっと握って。」
私は西川に抱きついた。抱きついた時西川は私の胸の中で泣いていた。私はただ西川の頭を撫でることしかできなかった。酔いすぎたのか西川にいらない情をいだいてしまうような気がしていた。
西川は泣き疲れて寝てしまったので布団に横にさせた。女を泣かせるな。それは父から教わったことだ。父は母に怒ることや喧嘩をすることはあったが決して泣かせることなどは無かった。
そうか今度は私が西川を救ってやらないと。伊藤を殺すことよりも重要だと気がついたのだ。たとえ西川が南のように私を騙そうとしてもいい。どうせ終わりの人生なんだから。もし西川にも裏切られたら佐々木もいる。佐々木もダメなら本当に自殺してしまおう。私が今やることは伊藤を抹消することではないのだ。
今日は土曜日だから仕事はない。西川も寝かしたままにすることにした。
一晩経っても気持ちは変わらなかった。今日はリフレッシュの意味も兼ねて西川とどこか行こうかな。いや、西川に言われたように加奈呼びにしてみようか。
「加奈!リフレッシュしたいから どこかドライブ行こうよ。」
「やっと名前で呼んでくれたぁ。」
加奈は目をこすりながら嬉しそうに言った。
それから私は仕事に行くためだけに静岡から東京を毎日往復した。貯金を貯めてあの家を出て二人の家を買おうか。いや付き合ってすらないのに何感考えんだ。だったらこの思いを伝えてしまった方が良いだろうな。なぜだろうか前まで何も思ってなかったのに昨日のドライブなんかドキドキが止まらなかった。正直に佐々木に相談してみようかな。
「あ〜。それ完璧に恋してる」
「どうすりゃいいんだ。」
「バカだな伊藤よりも女優先にしろよ。復讐は殺しまでしないけど俺がやっておくから。」
「あぁ任せたよ。すまない。」
「殺しをしなくて済んで良かったじゃないか。早速帰ったら思いを伝えてみれば?」
「そうだね。そうするよ。今日はありがとう!」
私は帰りに花屋で花束を買った。指輪を買うお金こそ無いけど花束で思いを伝えよう。断られたっていいよ。この思いを伝えた方がきっと気が楽さ。私はドキドキとワクワクが入り乱れた感情でハンドルを握りながら本拠地に向かった。
しかしその後に事件が起こるとは思いもしなかっただろう。
本拠地に着くと中には誰も居なかった。電話をかけても出なかった。それはそのはずだ。携帯がそこに置いてあるから。携帯も持っていかないでどこへ行ってしまったのか。ちょっと買い物に行っただけか。私は夕食を作り始めることにした。今日は少し豪華にしよう。加奈は何が好きだったかな。そんなことも知らないのか。とりあえず唐揚げでも作るか。加奈ほど上手くはないけど。今思うとなんで南なんかを好きだったのかあいつのためになんで死のうと思っていたのか不思議で堪らない。奴は今何をしてるのだろうか。男と暮らしているのかはたまた男に捨てられてる気もする。それで私に連絡をよこして来るところまで検討できる。連絡が来たら私には新しい人がいると言ってやろう。だから今日この思いをぶつける。
夕食を作り終えても帰ってこなかった。もう時刻は二十一時を超えていた。おかしい。こんなに夜遅くまで何をしてると言うのだ。私のことを見捨てて無いといいけど。そんなことはないと思いたい。私は加奈を探し出すことにした。
「お〜い!加奈?」
雑木林の奥の方も探してみた。今初めて知ったが雑木林は山の方まで繋がっているらしい。何かを採りに行って遭難したのかな?山の方に入って探してみた。
しかし山の中でも見つかることは無かった。山から落ちてしまったのか?それはないと思いたい。
警察に捜索してもらおうと思った。でもここを不法占拠しているのがバレるのは不味い。それに殺人を計画したノートも置いてある。警察は最終手段に出ようか。
私は山を降り雑木林からも出た。雑木林の前の道路に出て探してみた。辺りは畑しかない。
その時、私に着信が来た。加奈か?
「もしもし?」
新しい仕事先の上司からだった。
「はいもしもし。」
「こんな時間にごめんね。」
内容は仕事の不備だった。こんなことで電話して来んなよ。私は少し腹が立った。ついでに有給を取ることにした。そこについては特に何も聞いてこなかった。緩い会社だからかな。
それから本拠地にもう一度戻ってみてと誰も居なかった。あいつに実家とかあるのか?加奈がいつもモノをしまっている箱を開けてみた。
中には保険証が入っていた。わたしは驚いた。書いていた名前は西川加奈では無かったのだ。五十嵐優奈と書いてある。なんでだ?今まで私には偽名を使っていたのか?もしかして私を本当に騙そうと。そんな事は思いたくも無かった。今回も騙されてたらすぐに自殺するに決まってる。
そんな事は無しにして書いてある住所の所に行ってみよう。私は車に乗り込んでエンジンをかけた。道路を出た所で私はびっくりした。傷だらけの加奈が帰ってきた。いや五十嵐優奈なのか?それはとりあえず置いておこう。私は車から飛び降りた。
「加奈!お〜い。大丈夫か?どうしたんだよその傷は。」
私は加奈を抱きしめた。抱きしめたのは今が初めてだ。加奈は泣いていた。初めて泣いていた所を見た。
「何があったの?何か言ってよ。」
でも加奈はずっと話してくれない。とりあえず加奈を抱えて本拠地の中に入った。
加奈はそれでも啜り泣いていた。
「助けて欲しい。」
ようやく口を開いた。
「私、追われてる。助けて!」
「何があったの?誰に追われてるの?」
私は加奈の手を握りながら聞いた。本気で怯えてる顔をしていた。
「実は、私結婚していたの。」
ものすごく驚いたし何かショックを受けた。でもとりあえず静かに聞くことにした。
「それで夫からDVをされてたの。だから自殺して逃げようかと思ったけどそんな時に貴方に出会って。」
前話していた話は半分嘘だったのだろうか。今そんな事は気にする事でない。
「でも、今日夫に見つかっちゃって。連れ戻されそうになったけどなんとか逃げてきたの。そのうちここにも来るかもしれない。」
私は怒りで手が震えていた。私は女の人がそんなに好きではない。でも女の人に手を出すような奴はもっと嫌いだ。父から教わった通りだ。よりによってなんで加奈を傷つけるんだよ。
「分かったか。計画を変更しよう。自分が加奈の夫を殺そう。」
加奈は少し驚いた。
「加奈の家まで行って出てきた所を刺そう。大丈夫俺だけでやるから。」
「本当に大丈夫なのかな?やられないかな?」
「自分は大丈夫だよ。気にしないで。家の場所教えて。」
加奈は紙に住所を書いた。ここに行けばいいのか。
「もしかしたらここに来るかもしれない。だからここに入ってて。」
私は床下収納を開いた。
「ここなら見つからないだろう。」
「でも怖い。」
「大丈夫すぐに戻って来る。」
「いや、ここ虫が怖い。」
私は笑ってしまった。こういう変なところも愛しい。
「前、駆除したから大丈夫!」
笑いながら加奈を抱いた。加奈も私のことを抱き返した。すごく嬉しかった。胸が高まった。だからこそこの子を助けてあげないと。
「すぐ行ってくるから待ってて!」
私はそのまま本拠地を飛び出し停めっぱなしにしていた車に取り込んで加奈の家まで向かうことにした。田舎の道なのでかなり吹っ飛ばした。
隣の市にあるらしい。でもそんな近いところだったらもっと嫌がるだろう。ここに来た時別にそんな素振りは無かったはずだが。それは後で聞けばいいか。
気がつくと加奈の家の近くに着いた。住宅街にある。似たような家が周りには沢山あった。恐らくあの家だろう。五十嵐と表札が出ていた。インターホンを鳴らして突入しよう。声を出させないようにしないと。
私は本拠地に置いてあった牛刀のようなモノを背中に隠した。そしてインターホンを鳴らした。その瞬間鍵が開いた音がしたのでドアノブを思いっきり引き、無理矢理家の中に入った。
「な、なんですか?」
家主は驚いたが私も驚いた。明らかに歳が上の夫婦がそこには立っていた。間違えてしまったのか。どうしようか。このまま逃げても捕まるか。でも殺してしまうのも良くない。そう考えていると。
「な、なんでそんなモノ持ってるんですか。落ち着いてください!」
奥さんらしき人が言った。
私は牛刀をその場で落とした。
「すみません。標的を間違えてしまい。許されることではありません。」
「詳しく話を聞かしてほしい。」
夫らしき男は優しく言った。
「はい。」
私はことの経緯を全て話した。夫婦は驚いた顔をしていた。
「ウチには中川加奈はいません。でも五十嵐優奈ならいます。」
奥さんがそう言い私は驚いた。何故だ。
「私の娘は病気なんだ。統合失調症だ。」
統合失調症、聞いたことがある。
「そのせいで幻覚が見えているらしい。結婚もしてないのにDVしている夫がいるらしい。傷も自分でつけたのでしょう。申し訳ない。」
だから覗いている人が居る、話が食い違う時がある、テンションが違う時がある。そういうことだったのか。
「あと、自殺願望もあって。何回も自殺しかけてて。迷惑かけて申し訳ない。」
加奈いや優奈の父はそう言った。
「迷惑だなんてそんな。私は優奈さんと出会って変わることが出来たんです。私も最初自殺しようかと思ってたんですけど明るくて優しい優奈さんに出会ったからなんです。」
二人は涙ぐんでた。
「そう言ってくれて嬉しいです。あの子ずっと虐められてたから。その影響でこの病気にもなって。そんなこと言ってくれる人今まで居なかったのよ。」
いじめの話しは本当だったのか。
「でもどうしましょうか。優奈さんとある場所で待たせてしまってて。」
「俺たちも行こう!そこまで連れてって貰えませんか?」
「全然大丈夫です。一緒に行きましょう。」
私と優奈の両親で本拠地に戻ることにした。まさかこんなことになるとは。でもDV夫がいなくて良かった。私は車を飛ばした。床下収納の中だと怖いだろう。きっと今頃怯えてる。
本拠地に着いた。両親には車の中で待ってて貰うことにした。
しかし中に入って床下収納を開けても誰も居なかった。
「優奈!何処に居るの?優奈!」
何処を探してもいなかった。でもとても嫌な予感がする。ノートが無くなっていた。もしかしたら。
私は車の中に戻った。
「優奈は居ましたか?」
「すみません、お義父さん、お義母さん。あの子が何処へ行ったか分かります。私のせいです。今から東京に向かっても大丈夫ですか?」
「もちろんです。」
二人は口を揃えて言った。
時刻は朝五時半を回っていた、ここから最寄りの駅の始発はもう出ているかもしれない。私は何が起こるかこう考えた。
優奈が私の計画ノートを見た。電車に乗って東京に行き、伊藤の会社を襲う。それを実行するに違いない。あのノートは早めに処分するべきだった。伊藤は憎いし今でも殺したい。でも優奈を犯罪者にしたくない。
両親も病気ながら優奈のことを可愛がっている。二人にも悲しい思いをさせてはいけない。私は車をかっ飛ばしていった。
しかし、こういう時に限って高速道路が渋滞していた。ラジオをつけて情報を聞いてみるとトレーラーが横転して渋滞しているらしい。こんな時に事故起こすなよと思ってしまった。普段はそんな事は思わないのに。両親は寝ている。
私は一番近くの高速で降りた。降りるまで三十分近くかかった。そこからは一般道であったが出せるところまでスピードを出した。警察が来ても今はそれどころではない。最悪両親には先に行って貰えば何とかなるか。そんなことを思っていたからか警察のサイレンがしたような気がした。でも構わず私はスピードを出し続けた。せめて出社の時間には間に合わせたい。
現在の時刻は七時、何とか間に合うだろう。後三十分もせずに着くはずだ。
私が飛ばした甲斐もあり本当七時半頃に伊藤の会社に着いた。
「すみません。着きましたけど待ってて下さい。私が何とかしておきますから。」
寝ていた二人を起こして私は言った。
「でも、」
「すぐ終わらせますから。」
そう言って私は伊藤のビルに入っていった。入館カードはまだ持っていた。優奈が来ていたとしても入れなかっただろう。
伊藤の部署に来た。まだ人はあまり来ていないし事件も何も起こっていない。一安心していると後ろから人が来たので机の下に急いで隠れた。そこはちょうど金庫のすぐ近くだった。後ろから来た人は金庫を開け出した。そうすると尻ポケットから財布のようなものを取り出した。
私は何かを感じて携帯を取り出し撮影を始めた。もちろん金庫の前に立っているのは伊藤に違いない。
伊藤は取り出した財布の中に現金を入れた。こいつ、本当に横領してたんだな。しかも一番分かりやすい方法で。バレないもんなのかな。伊藤は何枚か万冊を入れると尻ポケットに財布を再びしまった。その瞬間私は机の下から出てきた。
「おい、お前何をしてるんだ。」
そう言いながら机から出ると伊藤はかなり驚いていた。このまま殴り殺されるかもしれないけど構わない。優奈のことは後だ。
伊藤はそのまま土下座をし出した。私はびっくりした。
「すみませんでした。つい出来心でこんなことをしてしまいました。どうか見逃して頂けませんか?」
私は暫く無言でいた。あの伊藤が土下座?謝ってる?家族を殺しておいて謝らなかったくせに。自分が弱い立場になった瞬間これかよ。私は頭に血が登った。このまま頭を踏んづけて殺してしまおうか本気で悩んだ。
「顔上げろ。」
そう言うと伊藤は顔を上げた。私は伊藤の胸ぐらを掴んだ。
「お前がやったこと忘れてねぇからな。命だけは勘弁してやる。だがこの事はしっかりと報告させて貰うからな。」
そう言い終わり伊藤を地面に投げるような形で手を離した。伊藤はその場で寝そべっていた。そんな滑稽な姿を見て私はどうでも良くなってしまった。
寝そべっている伊藤をそのままにして私はエレベーターホールに向かった。そろそろ出社の頃だろう。あいつの悪事の動画は佐々木に送りつけておいた。後は佐々木に任せれば良い。気持ち良くはないが伊藤に仕返しが出来たような気がした。
後は優奈を連れ戻すだけだ。優奈は何処へいるのか。エレベーターが来たので私はそのまま降りた。そしてビルを出た。
車に戻ると両親は大人しく待っていた。
「優奈さん、居ませんでした。」
「そうだったの。携帯も繋がらないみたいなの。」
優奈のお母さんはそう言った。優奈のお父さんはずっと腕を組んでいた。
他に行きそうなところがあるか考えようとしてた時、ビルの方から悲鳴が聞こえてきた。嫌な予感しかしない。私は再び急いでビルに戻った。両親も私を追いかける形で着いてきた。
ビルに入ると騒然としていた。何故なら刃物を持った優奈がロビーにいたからだ。警備員らしき人が宥めている。
「私は死ぬ前におもしらせるんだ!このノートの為に!」
やっぱり持っていた。私のノートを。
「お、落ち着いて下さい!」
「うるせぇ。」
と言い優奈は警備員を刺そうとした。私は走って優奈の元に行き押し倒した。
「優奈辞めるんだ。この計画は無かったことにしてくれよ。」
優奈は私だと分かると顔つきが変わった。いつもの可愛らしい優奈に戻った気がする。
「ヒデちゃんなんでそこにいるの?」
「優奈を連れて帰る為だよ。」
両親は入口の方で心配そうに立っていた。
外を見ると機動隊らしき人が無数に盾を構えていた。今は強盗殺人が多いからか大袈裟な警備をしているのだろう。
「ヒデちゃん。伊藤は?」
「あぁ、あいつのことなんてどうでもいい。帰ろう。僕と一緒に帰ろうよ。」
優奈は泣き出していた。
私は優奈の手を引き外に出ようとしたが機動隊が多くて出られない。逃げようもないか。素直に捕まるしかないか。そう思って呆然としていると機動隊はビルの中に入ってきた。まるで軍隊のような形だ。
「そこの二人!武器を捨て降参しなさい。」
もちろん私は降参するつもりであったが優奈は再び興奮状態に陥っていた。
機動隊は私たちの方へ少しずつ近づいてくる。私も機動隊の方へ向かった。機動隊は私を確保しようとした。
「辞めて私のヒデちゃんに!」
優奈は刃物を振り回しながらこちらの方に来た。
「優奈!辞めよう。もう諦めようよ。一緒に捕まるから大丈夫だよ。」
「私はいいけどヒデちゃんを虐めるな。」
どうやら優奈は結構重症化しているのかも。そんな時でも私のことは忘れず味方でいてくれる。私は思わず泣きそうになった。こんなこと初めてだから。
「刃物を振り回すのを辞めなさい。」
機動隊はそう繰り返した。しかし優奈は止めなかった。そしてそのまま機動隊の方へ向かおうとしたその時だった。大きな音がした。その大きな音と共に優奈は倒れた。
私には何が起きたか分かった。機動隊が銃を発砲したのだ。
「優奈!!」
私は叫んで優奈の元に駆け寄ろうとした。しかしすぐに機動隊に押さえつけられそのまま連行されてしまった。せめて命だけは無事であってほしい。
優奈の両親も取り調べのために警察署に連れて行かれた。そして私も今、取り調べ室にいる。取り調べ室はドラマで見たものより綺麗な印象を受けた。でも今はそんなことより優奈がどうなったのか気になる。
私は取り調べで全てにおいて正直に話し、容疑も認めた。そして伊藤の悪事のも全て話した。証拠も佐々木に送りつけたし私の携帯に残っていることも伝えた。それに関しては感謝をされたが殺人を企てていたのはかなり怒られた。素直に応じたからなのか警察は意外と優しかった。
「悪いね。あと一時間すれば終わるから。」
「いや、いろいろすみませんでした。それより五十嵐優奈はどうなりましたか?」
「あぁ、まだ病院で治療しているらしい。容態はちょっと分からないけど。」
「分かりました。」
それから一時間が経ち、取り調べも終わった。検察に送検されるなどの難しい話があったがよく分からなかった。その時取り調べ室に違う刑事が来た。
「優奈さんのことなんですけど。」
私は泣き叫びながらその場で倒れ込んだ。刑事は倒れた私を頑張って起こそうとしていた。
優奈はダメだったらしい。傷口が深く回復も困難だったらしい。私が殺したようなものだろう。私があんな計画さえ立てなければ優奈は死ななくて済んだ。私が死ねばよかったのに。
私は留置所内で自殺を図ろうとしたがその度に看守に見つかった。そして厳重な監視が敷かれるようになった。私は毎日気力を無くし、食事もろくにとれなかった。
それから何日が経ち、優奈の両親が面会に来てくれた。
「申し訳ございませんでした。」
許されることではないが私は二人に会うなり謝罪をした。
「顔を上げて。」
そう言ったのは優奈のお母さんであった。
「あの子の日記が置いてあったから読んでほしいの。」
私は早速日記を読み始めた。
私は病気でたまによく分からない行動をとってしまう。記憶にもない。気がつくと警察が来て両親も来ていた。私は両親に迷惑をかけてばっかりだ。それも昔から。私には小学校の頃から友達が少なく中学時代にはいじめられるようにもなった。それから学校を転校してもいじめられた。でもそこではヒデちゃんに会うことが出来た。
そして私の人生唯一の友達でもあり、彼氏だったヒデちゃんに会うことが出来ました。ずっと会いたかったけどまさか駅にいるとは思わなかった。しかも自殺をするなんて。私は貴方が自殺をするなら一緒にしてしまおうと思った。名前もあえて偽名を使った。ヒデちゃんはなんか素っ気ない気がした。きっと人生に疲れていたのだろう。でもどう接していいか分からずウザい行動をとってしまった気がする。でもそんな私のことをヒデちゃんは相手にしてくれた。無理矢理樹海に連れてって貰おうとした時もなんだかんだ言って連れてってくれた。私は一緒にいるだけで嬉しかった。それに昔を思い出した気もした。
それから私たちは一緒に住むことになった。付き合ってないのに心は付き合った気でいた。ヒデちゃんは私のことをどう思っているのかな?嫌われててもいい。一緒に事件を起こそうと計画したけど段々私は貴方といたいという気持ちが勝ってきました。でももう一人の私がそれを邪魔してきます。でもヒデちゃんがいれば病気は少し治ることが出来ました。もう一人の私にはもう一人夫が居てDVをされる。カミングアウトした時も誰よりも怒ってくれた。嬉しかった。どんなことよりも。
私はヒデちゃんをいじめた伊藤は許せない。けど殺人をしてしまったら全てが終わってしまう。どうか、もう一人の私が暴れないことを祈る。ヒデちゃんが落ち着いたら好きですと素直に言おう。断られたらどうしようかな笑。
毎日貴方が帰ってくるのが何よりも幸せ。
日記は途中で終わっていた。私は顔を覆い泣いた。中学時代のあの子が優奈だったなんて。
「高校と共に仕事の用事で静岡に来たの。あの子病気ですぐ何処か行っちゃってそれでたまたま松木さんに会ったみたい。」
優奈のお母さんは言った。優奈のお母さんも泣きそうであった。
「俺は毎日嬉しそうに君のこと話してくれるのが嬉しかったよ。」
優奈のお父さんは目に涙が滲んでいた。
私はただ泣くことしかできなかった。
「はい、そろそろ面会終了です。」
「また来るから。」
二人はそう言って部屋を出た。私はまだ机に突っ伏して泣いていた。
警察は優しく部屋を出るように言ってくれた。私は顔を覆いながら席を立った。
それから私は殺人予備罪と言う罪で起訴された。しかし私が正直に全てを話したのか執行猶予がついた。牢屋に入ることは無くなったが前科がついてしまい全国的にも報道されてしまったので事務の仕事はもちろんグビになった。
佐々木も私に入館カードを渡したからなのか仕事をクビになってしまった。
「佐々木くん。本当に申し訳ございません。僕のせいで、」
「気にすんなよ。俺とお前の仲だろ。あの時救えなかったから救いたかったんだよ。お陰で伊藤もクビになったし、それにあいつ横領罪の他にも何かしていたらしいし。」
「これからどうするの?僕はもう仕事にも就けないし。」
「決まってるだろ。」
あの事件から10年近くが経った。結局伊藤は横領罪や強制性交で有罪判決を受けた。昔のこともあり執行猶予はつかなかったらしい。
優奈の両親は静かに暮らしているらしい。私はあの事件以来会っていない。会わない方がいいだろう。
私は何をしているのかと言うととある離島で佐々木と一緒に農家をやっている。人口減少が止まらない島だ。来た時は事件のこともありかなり警戒されたが今は島の住民とも仲良くやっている。
「俺はこういう仕事をずっとやりたかったんだ。」
「あぁ、僕も今が一番楽しいかも。」
「そうだな。今日は仕事早めに終わらせてみんなで飲みに行くか。飯島さんも来るらしい。」
飯島さんは近所の自治会長だ。私たちが来た時も差別せずに接してくれた。
私は今の生活がかなり楽しい。優奈は居なくなってしまったが今は優奈の分長生きすることが一番だと考えている。優奈がいつも私を見守ってくれているだろう。
飲み会から帰ると私はあの時捨てなかった卒業アルバムを開いた。私は五十嵐優奈を眺め、アルバムを閉じた。明日も頑張って生きなきゃ。
この度は私の作品を拝読していただき誠にありがとうございます。私が初めて執筆した作品なので少し読みにくい部分もあったと思われます。これから沢山の作品に触れながら勉強してまいりますので私にアドバイスがありましたお願い致します。これからも作品を出すので宜しければご覧ください。