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みそびっちょ じょけじょけ  作者: 雨野 鉱
4/31

第一部 公現祭篇 その四

ぼくはひとりで部屋にいなければならない。

床の上に寝ていればベッドからおちることがないように、

ひとりでいれば何事も起こらない。

                             フランツ・カフカ

挿絵(By みてみん)


4. 姫と魔女「書」


 アルビジョワ迷宮(めいきゅう)でナガツマソラが行方(ゆくえ)不明(ふめい)になる一か月前のこと。

「これより召喚者(しょうかんしゃ)同士のチーム戦サーリュを実施(じっし)する!」

 アントピウス聖皇国(せいおうこく)ゼデギエル城。

「チームは既に四つに分けてある。今回は総当たり戦だ」

 実技(じつぎ)訓練(くんれん)の場所として設けられた円形(えんけい)闘技(とうぎ)(じょう)内で同じタイミングで召喚された三十六名が訓練教官から説明を受けている。

「サーリュは1セット15分間の3セットマッチだ!」

(私は最強であることを示し続けないといけない)

 自分の力を誇示(こじ)したくてうずうずする者。勝ち負けにこだわる者。


 沼田(ぬまた)千尋(ちひろ) Lv22(召喚者)

 生命力:1100/1100 魔力:3000/3000 

 攻撃力:900 防御力:400 敏捷性:700 幸運値:45

 魔法攻撃力:2000 魔法防御力:1400 耐性:火属性、風属性

 特殊スキル:信仰剣(グリーム)


「1チームで出場できるのは最大9名!」

(アイツガチでムカつく。今日こそ(あし)の骨を折ってやる)

 恨みをここで晴らしたい者。


 竹越沙友磨(たけこしさゆま):Lv17(召喚者)

 生命力:850/850 魔力:110/110

 攻撃力:500 防御力:180 敏捷性:90 幸運値:28

 魔法攻撃力:45 魔法防御力:50 耐性:火属性


攻撃(こうげき)前衛(ぜんえい)が5名、守備(しゅび)後衛(こうえい)が4名。これが目安だが、自分たちの戦略(せんりゃく)に応じて変えて構わない!」

(もっとレベルが上がれば強い魔法とか使えるんだよね。楽しみ楽しみ)

 高みに至ることを目指す者。


 吉澤(よしざわ)(はる)() Lv23(召喚者)

 生命力:2000/2000 魔力:1400/1400 

 攻撃力:2200 防御力:900 敏捷性:500 幸運値:40

 魔法攻撃力:1500 魔法防御力:700 耐性:光属性、風属性

 特殊スキル:戦秒鞭(エントランス)


「自陣と相手陣地にフラッグがある!」

(勇者の僕はここで力を発揮して全員を引っ張っていかなければならないんだ)

 使命感に燃える者。


 山野井冬愛(やまのいとあ) Lv19(召喚者)

 生命力:1300/1300 魔力:900/900 

 攻撃力:1100 防御力:400 敏捷性:300 幸運値:40

 魔法攻撃力:900 魔法防御力:700 耐性:光属性

 特殊スキル:自己暗示(リゾルバー)


「相手チームのフラッグを抜き取るか……」

(負けたらリーダーとして、チームの一人一人に何て言葉かけようかなぁ)

 勝ち負けのあとを心配する者。


 岡安(おかやす)(りゅう)() Lv18(召喚者)

 生命力:700/700 魔力:1000/1000

 攻撃力:400  防御力:500 敏捷性:200 幸運値:100

 魔法攻撃力:500 魔法防御力:400 耐性:水属性

 特殊スキル:地獄耳(ローレス)


 そして、

「攻撃を相手に命中させて、相手チームのプレイヤーをおどれだけ戦闘(せんとう)不能(ふのう)にさせたかで勝敗(しょうはい)が決まる!」

(今日はマソラ君何食べるんだろう?ハルネ的にはマソラ君の作ったイノシシカレーが超絶(ちょうぜつ)食べたい気分なんだけど、でもマソラ君が作らなくてもマソラ君がお店で選んだ料理を一緒に食べられるならなんでもいいもん!)

 チーム戦などどうでもいい者。


 赤荻晴音(あかおぎはるね):Lv14(召喚者)

 生命力:420/420 魔力:550/550

 攻撃力:130 防御力:170 敏捷性:35 幸運値:80

 魔法攻撃力:700 魔法防御力:630 耐性:光属性


(むむ!?マソラ君センサーに反応あり!)

 チーム竹越の一人、赤荻(あかおぎ)晴音(はるね)はサッと後ろをふりかえる。

「ん?どうした赤荻?」

「あ、いや、なんでもないよ」

(あ~もう!なんでマソラ君の前に大羽君がいるの!見えないからどいてよ!)

 晴音の後ろにはチーム竹越最大の物理(ぶつり)障壁(しょうへき)大羽(おおば)(つよし)がいる。

 長身で筋骨たくましい大羽の後ろに、晴音の気になるナガツマソラがいる。

(なぬ!?)

 その時、異世界召喚されたことよりも強烈な衝撃が晴音を襲う。

 大羽が体を揺らしたその瞬間、彼の背後にナガツマソラが見える。

 しかもそのナガツマソラは、隣の岡安チームの女子とコソコソ話している。

(誰ダレ誰だれ誰ダレ誰なの!?)

 晴音の中で〝マソラ君警報(けいほう)〟がけたたましく鳴り響く。

 叫びそうになるのを必死にこらえているうちに、訓練教官の説明は終わり、召喚者は各々(おのおの)用意(ようい)された控場所(ダッグアウト)に散っていく。

「ねぇねぇマソラ君」

「どったの?」

 晴音刑事(はるねデカ)、さっそく被害者(マルガイ)から職務質問(バンガケ)を開始。

「さっき誰かと話していなかった?」

「さっき?」

「うん、ほら今試合の説明があったでしょ?その時に話してなかったかなぁって」

「ああ。ちょっとね」

 晴音刑事、犯人(ホシ)の名前を()かせるまであと一歩と確信する。

「彼女は二年九組のし……」

「おいマソラ!」

 ちょうどその時、チーム竹越のリーダー竹越沙友磨(たけこしさゆま)宮良(みやよし)(しょう)(へい)がナガツマソラのところにやってくる。

「話がある。ついて来い」

 こうしてナガツマソラは二人に連れていかれる。大切な場面で邪魔された晴音は(くや)しさと苛立(いらだ)たしさを必死にこらえる。

 同時に、ナガツマソラに話しかけていた女子を探す。

(いた。こっちを見て……ない。あの目、あの表情、絶対マソラ君を追ってる)

 茶髪のロング。

 三つ編みとカジュアルなねじりを加えた綱編込(タイトロープ)

 その同級生が竹越と宮良に連れられて出て行ったナガツマソラの通った扉をうすぼんやりと見ていた。

「負けない」

「ん?どうしたの晴音(はるね)ちゃん?」

 化粧(けしょう)をみっともなく直していた古舘に問われる晴音は闘志を燃やし始める。

「負けられない戦いがここにあるの」

「へぇ、珍しく燃えてんねぇ」

(特に女には)

 女刑事は黒髪セミロングを改めて結びなおし、召喚者赤荻晴音に戻った。


 試合が始まり、二ゲーム目になる。

 チーム竹越とぶつかるのは、チーム岡安。

「よお。てめぇは前から気に入らねぇと思ってたんだ。負けたら俺の靴をなめろ」

 ぼんやりとした風貌のリーダー岡安(おかやす)(りゅう)()に挑発をかます竹越。だが、

「ぼ、僕が代わりに舐めます!な、舐め舐めさせてください!!」

 ()Mの曽根義宗(そねよしむね)が空気を読まず、性癖をエンジン全開にする。

「んだよこいつ!?」

「はっはっは。わりぃ。こいつは曽根義宗。曽根。今は止めといた方がいい」

「ご、ごめんよリーダー!僕はただのブタです!ブタと呼んでください!」

「おい。調子こいて(さわ)いでっとぶっ殺すぞ」

 近づいて曽根の(えり)をつかもうとする宮良を大羽が慌てて止める。

「アンタらさ、チンピラ臭が半端ないんだよ。それにつけてる香水もセンスゼロ」

「うん!お前、ニオイも顔もキショイぞ!!」

 その宮良に対し、岡安の女房役(にょうぼうやく)深堀(ふかほり)(あや)()と、大羽を女にしたように筋骨隆々の石原野々(いしはらののか)が挑発で返す。

 もっとも、石原の場合は思ったことを素直に口にしただけだったが、宮良の殺意が曽根から石原に移るには十分すぎた。

 試合が始まるまでの数分間、互いに罵り合ったり仲間をかばったりの応酬が続く。そんな中、もはや仲間も敵もどうでもよくなっている召喚者が一人。また刑事に戻る。

(ちょっとなんで!?なんでマソラ君いないの!?)

 デカ、さっきまでいたはずのガイシャがいないことに(あせ)りまくる。

「てめぇのところは八人で大丈夫なのか?」

「まぁな。お前さんのところが八人だっていうもんだからこっちも数を合わせた」

 チーム竹越は最初から八人しかいない。つまりナガツマソラがいない。

 その申告をあらかじめ聞かされたチーム岡安は相手に合わせ、八人で出撃(しゅつげき)することにした。

「バカかてめぇ。これはハンデに決まってんだろうが」

「先ほど裏で「役立たずは()せろ」とあのテクニシャンに抜かしていた口が、よくほざく」

 チーム岡安で「参謀(さんぼう)やってくんね?」と岡安に頼まれている室野井創(むろのいはじめ)(ふち)なし眼鏡(めがね)を左中指でずり上げながら鋭く指摘する。

(へ?)

 事情を知った晴音刑事が愕然(がくぜん)とする。しかしそれは、事件の始まりに過ぎなかった。

(ちょい待ち!よりによってあの女を(はず)すってどういうこと――っ!!!)

 チーム岡安の中で、数合わせのために外れた一人。

 それは先ほどから晴音刑事が追い続けていた茶髪タイトロープの同級生(ホンボシ)だった。


 円形闘技場から五キロほど離れた場所にある街はずれ。

 (せい)()アスクレピオスに近い低山から()き出した水は集まり渓流(けいりゅう)となり、聖都に引き込まれている。引き込まれた水は生活用水として都市の水路を血管(けっかん)のように流れる。

「お姉ちゃんは、あの人のガールフレンド?」

「え?」

 その水路の一つに、茶髪タイトロープの少女はいた。


 雫石(しずくいし)(ひとみ):Lv12(召喚者)

 生命力:60/60 魔力:1729/1729

 攻撃力:10 防御力:20 敏捷性:10 幸運値:0

 魔法攻撃力:20 魔法防御力:90 耐性:闇属性

 特殊スキル:不解書(ブンイップ)


「それともあの人の(おく)さん?」「フィアンセ~?」「セフレ?」「奴隷(どれい)?」

「どれも全部(ぜんぶ)(ちが)います」

「じゃあお姉ちゃんは本物のお姉ちゃん?」「妹とか~?」

「いいえ。それも違います」

 奴隷の鬼人族(オーガ)(まき)に火をおこし、その上に(えん)柱状(ちゅうじょう)の寸動鍋を()えてガラガラと湯を()かしている。その湯はこれから羊毛を洗うのに使われる。

 奴隷の主人の子どもたちのベビーシッターもしなければならない鬼人族たちはけれど束の間、ベビーシッター役をタイトロープの召喚者に任せている。

 おかげでタイトロープと裕福な子どもたちが見ているのと同じ光景をじっくり観察することができた。

「じゃあなんでずっとあの人を見てるの?」

「そういうあなたたちはどうしてあの人を見ているのですか?」

「え?だってすごいじゃん!」「超スゴイ」「怖いけどなんか凄ぇ」

「そうですね。それと一緒です。だからじっと見ている」

 タイトロープが視線を子どもたちから元に戻す。

 すると子どもたちも鬼人族(オーガ)が用意してくれた椅子(いす)用の切り(かぶ)に座りなおし、同じ方を見る。

 シュッ。ズズ。ズッズッズッズッ……


 永津(ながつ)真天(まそら):Lv5(召喚者)

 生命力:240/240 魔力:1719/1729

 攻撃力:120 防御力:156 敏捷性:144 幸運値:12

 魔法攻撃力:12 魔法防御力:96 耐性:土属性

 特殊スキル:収納魔法(ベクター)


 全員の視線の先にはナガツマソラがいる。

 革エプロンに皮手袋をつけた彼は額に汗を浮かせながら魔物の解体を行っている。

 そしてその隣では鬼人族たちと同じく、焚火と寸動鍋がいくつも設けられている。ただ鬼人族たちの鍋とは異なり、グツグツブクブク音と泡を立てる寸動鍋からはどれもこれも、鼻が曲がるような異臭(いしゅう)が上がっている。

(この人が役立たずだったら、私なんてゴミ以下の能無しじゃないか)

 その異臭を嗅ぎながら、タイトロープはナガツマソラと自分を比較する。


 雫石(しずくいし)(ひとみ):Lv12(召喚者)

 生命力:60/60 魔力:1729/1729

 攻撃力:10 防御力:20 敏捷性:10 幸運値:0

 魔法攻撃力:20 魔法防御力:90 耐性:闇属性

 特殊スキル:不解書(ブンイップ)


 永津(ながつ)真天(まそら):Lv5(召喚者)

 生命力:240/240 魔力:1711/1729

 攻撃力:120 防御力:156 敏捷性:144 幸運値:12

 魔法攻撃力:12 魔法防御力:96 耐性:土属性

 特殊スキル:収納魔法(ベクター)


 タイトロープの召喚者の名前は、雫石(しずくいし)(ひとみ)といった。

 雫石は尋常ではない速さと正確さで魔物を解体していくナガツマソラを、まばたきせずに見入っている。

(職人ギルドから聞いた。……召喚者ナガツマソラの持ち込む(けもの)皮膚(ひふ)内臓(ないぞう)の血の()り方がおかしいって。獲物が死んでから解体したら絶対に起きない血の寄り方が、肉全体に起きている。そのおかげで鮮度(せんど)異常(いじょう)()い肉が市場(しじょう)に出回って、街の商人ギルドがびっくりしているって。……まさか、生きたまま獣を丁寧(ていねい)(かい)(たい)している?殺しながら丁寧に解体している?何をしているの?というか、なんでそんなに手際(てぎわ)がいいの?あなたは一体、何?)

 表皮(ひょうひ)切開(せっかい)胸骨(きょうこつ)切断(せつだん)食道(しょくどう)結束(けっそく)骨盤(こつばん)切断(せつだん)肛門(こうもん)結束(けっそく)内臓(ないぞう)摘出(てきしゅつ)洗浄(せんじょう)

 動物のイノシシですら人間族が行えばこの内臓出しまで三十分以上かかるものが、ナガツマソラの手にかかるとイノシシは無論、魔物ですら十分と経ずに終わる。

 しかもナガツマソラは急いでいるふうでもない。

 (ひたい)(あせ)しているがその動作(どうさ)は流れるように滑らかかつ涼やかで、見苦しくない。

 解体には慣れている鬼人族はもちろん、解体に関して素人(しろうと)の子どもや雫石ですら、ナガツマソラの手捌(さば)きがハイレベルであることを直感的に理解する。

(まるで、最初からバラバラだったものを取り出しているみたい)

 荷運び(ベクター)としてチームからこき使われることで筋力もあるナガツマソラは、洗浄を終えた120キログラムもある重い魔物を一人でハンガーに()るす。剝皮(はくひ)開始。

 皮を()き、頭部を切断(せつだん)し、洗浄(せんじょう)を行う。手際の良さに感動した鬼人族(オーガ)我慢(がまん)できなくなり、羊毛(ようもう)の洗浄などそっちのけでナガツマソラの仕事を手伝い始める。

 ノミやダニがつくから解体途中の毛皮には決して(さわ)るなと親からきつく言われている子どもたちも鬼人族を見て我慢できなくなり、切り株から立ち上がってナガツマソラのところに()け寄る。

 鬼人族が素早く捕まえて取り除いたノミやダニを、キャッキャ言いながら子どもたちが踏みつけて殺していく。

「……」

 みんなでわいわい解体と剝皮を行っている様子を、下草(したくさ)の上に座っている雫石瞳は平静を(よそお)って見つめ続ける。けれどやはりジリジリしてきて、(かばん)から羊皮紙(ようひし)黒炭(こくたん)を取り出す。ナガツマソラを見て思いつく漢字(かんじ)を次々に書き始める。

(永津君をいつも追いかけている同級生のあの子みたいに私も永津君を好きなのかな。でもちょっと違う気がする。単純に)

「スー、フゥー」

(あこが)れているだけだ。おばあちゃんが昔言ってた。女は尊敬(そんけい)恋愛(れんあい)の区別がつかないって。きっとそれだ。私はこの人に憧れているんだ。だからこうやって、近くにいようとする。……でも少し、可笑(おか)しい。あの赤荻晴音さんがこの状況を今どう思っているか考えたら、ちょっぴり楽しい)

「スー、フゥー」

 雫石は深呼吸をゆっくりとくりかえす。自分を笑うのをやめる。

永津君(あなた)価値(かち)にどうか、彼のチームメイトがいつまでも気づきませんように)

 ナガツマソラによる魔物の上半身の処理が始まる。

 ナイフが(きら)めく。

 第五肋骨(ろっこつ)と第六肋骨の間を切断。

 胸椎(きょうつい)(はず)し。胸膜(きょうまく)外し。肋骨(ろっこつ)外し。前足骨外し。(きん)(まく)外し。リンパ(せつ)除去(じょきょ)

(そうすればこうやって、()け者にされた永津君の仕事をずっと見ていられる。頼まれたら嫌な顔一つせず引き受けてくれる永津君の仕事をすぐ(そば)で見ていられる)

 続いて下半身の処理。

 ハンガーから下ろし、腎臓(じんぞう)とヒレ肉を外す。腰椎(ようつい)を切断。脊椎(せきつい)外し。肋骨外し。()関節(かんせつ)外し。後ろ足の骨外し。

 そして切り分け。

 刃に付着した体液をしっかりふき取る。再び刃面に鋭い光が戻る。

(でも室野(むろの)()君の話だと、これが見納(みおさ)めかもしれない。……レアモンスターをいくら狩れたとしても、永津君がその場に一緒にいて解体処理しなければ価値を引き出せないことに、あの竹越とかいう馬鹿(ばか)幼稚(ようち)なリーダーも今回の件でさすがに気づいただろう、か。換金所(かんきんじょ)のスタッフさん、ついに本当のこと言っちゃったんだ……でもそれも、仕方ないこと。永津君の価値が認められるのはうれしいけれど、この大切な時間を(うば)われるのは……)

「けっこう(こた)えるかも」

 解体が完了した肉が石の上に並べられる。

 ナガツマソラはその肉の一つをよく洗い、異臭を上げる鍋の方へ移動する。

 無性に話しかけたくなった雫石は胸に手を当てるのをやめ、思い切って立ち上がり、ナガツマソラの傍へ行く。

「それが、良い香りの素ですか?」

(同じ質問を何度もして、私ってバカみたい)

 血のニオイに交じる、ナガツマソラの汗の匂いをたっぷり吸い込みながら、雫石は思う。

「そう。解体をしている最中にたまたま見つけた〝匂い器官〟だね」

 ナガツマソラの手には、魔物アロガリアビーバーの肛門(こうもん)付近の肉がある。

 アロガリアビーバー一匹から生涯(しょうがい)で一度しか採取(さいしゅ)できない香料(こうりょう)を、ナガツマソラは繰り返す解体の過程で偶然見つけた。

 ただしその市場価値は皆無(かいむ)で、解体(かいたい)業者(ぎょうしゃ)はみな捨てていた。

 魔物アロガリアビーバー。

 野外に出没し、平均レベルは2と低い。


 アロガリアビーバー Lv2(魔物(まもの)

 生命力:9/9 魔力:5/5

 攻撃力:10 防御力:10 敏捷性:40 幸運値:2

 魔法攻撃力:0 魔法防御力:10 耐性:土属性

 特殊スキル:疾哮嗅(ラホール)


 ただし嗅覚(きゅうかく)が鋭くそれなりに知性(ちせい)敏捷性(びんしょうせい)が高いため、なかなか(つか)まえることができない。

 捕まえられるのは獲物を(むさぼ)ることに夢中になっている所を急襲(きゅうしゅう)できた時か、罠猟(わなりょう)のプロフェッショナルの(わな)にかかった時にほぼ限られていたが、ナガツマソラの場合、後者(こうしゃ)だった。

 魔物が体を洗う蒐場(ぬたば)、休む()場所(ばしょ)、好きな餌場(えさば)獣道(けものみち)……。

 チーム竹越(たけこし)から仲間外れにされて一人でいる間、ナガツマソラはアロガリアビーバーの生活圏(せいかつけん)と彼らの習性を分析(ぶんせき)し、自作の(くく)り罠で次々にアロガリアビーバーを捕獲して市場(いちば)(おろ)している。

 このため聖都アスクレピオスの青空(あおぞら)市場(いちば)では「アロガリアハンターが異世界(いせかい)から召喚された」として、ナガツマソラの名前はそこそこ知られていた。

 なお魔物アロガリアビーバー一匹あたりの取引(とりひき)価格(かかく)は決して高くないが、安くもない。

 アロガリアビーバーには一定の需要がある。

 この魔物に需要(じゅよう)が一定量あるのは、その頭蓋骨(スカル)工芸品(こうげいひん)として人気があり、またその肉の栄養価(えいようか)が高いことに理由があった。

 ただし味はブタやニワトリなどの普通の養殖(ようしょく)(にく)に比べて落ちる。そういうわけで、骨は金持ちに、肉は貧乏人(びんぼうにん)に求められた。

「オッフオフ!オフ!フオッフ!オッ!」

 鬼人族(オーガ)たちの声がする。

 ナガツマソラと雫石瞳が振り返ると、彼らは銅貨(どうか)を一枚手に取り、ナガツマソラに見えるように(かか)げ、汚れていない石の上に置く。

「分かった!どうぞ!」

 オーガに返事をするナガツマソラ。

 オーガはナガツマソラが切りとったばかりの肉の(かたまり)を手に取り、それを清流(せいりゅう)でジャバジャバと洗った後、生のままムシャムシャと魔物の肉を食べ始める。強靭(きょうじん)(あご)をもつ鬼人族が美味そうに肉を咀嚼(そしゃく)する。他の鬼人族もそれに続く。

 子供たちは魔物肉の(せい)()いを親にきつく止められているので(うら)めしそうに鬼人族たちを見る。

 食いたいものを食う奴隷(どれい)

 食いたいのに食えない主人(しゅじん)

 主従(しゅじゅう)がひっくり返る瞬間(しゅんかん)

 ナガツマソラと雫石(しずくいし)(ひとみ)はそれらを眺め、(つか)の間見つめあい、互いに微笑(ほほえ)む。


 雫石(しずくいし)(ひとみ):Lv12(召喚者)

 生命力:60/60 魔力:1729/1729

 攻撃力:10 防御力:20 敏捷性:10 幸運値:0

 魔法攻撃力:20 魔法防御力:90 耐性:闇属性

 特殊スキル:不解書(ブンイップ)


 永津(ながつ)真天(まそら):Lv5(召喚者)

 生命力:240/240 魔力:1694/1729

 攻撃力:120 防御力:156 敏捷性:144 幸運値:12

 魔法攻撃力:12 魔法防御力:96 耐性:土属性

 特殊スキル:収納魔法(ベクター)


 そして寸胴(ずんどう)(なべ)に向き直る。

「じゃあ始めようか」

「はい。お願いします」

 ナガツマソラは悪臭(あくしゅう)の絶えない鍋の中に、アロガリアビーバーの香り肉をボトボトと入れていく。鍋には水以外に予めウシの骨や皮が投入されていて、そこから(にかわ)が溶けだしている。その膠の悪臭が徐々にアロガリアビーバーの香りに(かく)れていく。

「そうでした、はい。これ」

「ん?ああ。おおきに」

 雫石瞳は手間賃(てまちん)として、銅貨(どうか)二十枚の入ったズタ袋をナガツマソラに渡す。

 ナガツマソラは袋を小さく一度だけ振ってジャラリと鳴らした後、受け取った中身を確認もせず、ズタ袋を収納用の亜空間にしまい込み、かわりに亜空間からウシの胃袋を使って作った大きめの袋を取り出す。

 中には(すす)が大量に入っている。

 煤は雫石が植木店で買ってナガツマソラに渡したものだった。

 その煤を、ナガツマソラが寸胴鍋に投入していく。

 彼は雫石瞳に頼まれて、墨汁(ぼくじゅう)を作っていた。


 字を、書きたいんです――。


 異世界に来て二週間が経つ。

 もともと書道が得意で、字を書くことで自分の気持ちを整理して生きてきた雫石瞳は墨を欲した。「召喚者の中で一番器用な男」と(かげ)(うわさ)のあったナガツマソラを尋ねた最初は、彼にさして期待などしていなかった。ところが、

(すす)を君が買ってくれるなら作ってもいい。それとタダじゃないよ」

 意外な返事と手間賃の銅貨二十枚の要求が、雫石を喜ばせた。

 墨汁は(すす)(にかわ)があればできる。

 ただしそれだけでは悪臭がするため、香料(こうりょう)()る。

 その香料を、ナガツマソラは買わずに手に入れる手段を見つけた。しかもついでに高額のスカルまで作れる手段。

 こうして出来上がった魔物アロガリアビーバーの尻肉の匂いのする墨汁は、雫石瞳をひっそりと(なぐさ)めた。

 以来、雫石は城からの給金(きゅうきん)の三分の一を、ナガツマソラの作る墨汁を買うために使っている。残りは墨汁で書きつける呼紙(こくし)費用(ひよう)()てている。

 呼紙(こくし)

 異世界(パイガ)に召喚される前の日本の和紙(わし)と同じ製法でつくられ、羊皮紙(ようひし)の三倍もの値段がする呼紙を雫石は()しげもなく買い求めては、書きたい文字をそこに一心不乱(いっしんふらん)に書き連ねていた。ナガツマソラが作り、彼から買った動物(どうぶつ)(もう)(ふで)で。

 衣食住のすべてを、武器防具も何もかもきりつめて、雫石瞳は書いていた。

「あれ、どうしたの?」

 だから〝それ〟を満たすナガツマソラの存在が、

「書きたくなったんです。この場で、今すぐ」

 彼女の中で小さいわけがなかった。

「そっか。じゃあ(むしろ)()すよ」

「おいくらですか?」

「ひどいな。いくら俺だってそこまでがめつくないよ」

「知っています。言ってみたかっただけです。……うふ」

 ナガツマソラの隣で墨汁作(ぼくじゅうづく)りを見ているうちに、「これが最後かもしれない」と考えた雫石瞳はナガツマソラの用意した植物性の敷物の上に正座(せいざ)し、(かばん)から書道用の道具を全部取り出して並べる。

 文鎮(ぶんちん)(すずり)は自ら河原を散策(さんさく)して拾ったもの。それを使い、取り出した呼紙(こくし)を固定する。

(十三種の動物の毛を使った筆と、瓶に入れた墨汁は……私の一生の宝物(たからもの)

 宝物の液体を硯に注ぎ、宝物の筆を(にぎ)る。

「……」

(何を、書こうか……)

 書きたい文字はいくらでもある。

 でも、この瞬間のために、この場面のために、この聖域のために、何を書けばいいのか、雫石は迷った。

「何を書くの?」

 男が問う。

「……何を書いたらいいですか?」

 女が返す。

「書きたい文字があったんじゃないの?」

 男が笑って問い返す。

「たくさん、あります。でも、どれがいいのか分からなくなってしまって」

「そもそも何を書こうとしたの?」

「あなたを、書きたいと思いました」

「俺を書いてくれるの?」

「はい」

「そっか。雫石さんは書道の達人だったよね。俺はどんな文字になりそう?」

「……」

 女は男にそう言われて、男を改めてじっくり見る。


 永津(ながつ)真天(まそら):L v5(召カ ン者)

 生 命リョク:240/240 魔力:16 94/1729

 攻撃力:120 防御力:156 ビン捷性:1 4 4 幸 運値:12

 マホウ攻撃 力:12 魔法防ギョ力:96 耐性:土属性

 特殊スキ ル:収納魔法(ベクター)


 黒髪ショートで、前髪は長め。瞳は女の好きな漆黒(しっこく)。髪も瞳も、見えないけれど多くのことを語り出してきそうな(よる)(やみ)(いろ)

 そんな髪と瞳を持つ、血のこびりついたエプロン姿の男は首を(かたむ)けて、微笑んでいる。その手には再び解体用ナイフがあり、新たに(かわ)砥石(といし)がある。

 男が目線を落とし、研磨剤(けんまざい)塗布(とふ)された牛革張りの棒に刃が当てられるたび、ナイフは不気味(ぶきみ)な輝きを取り戻していく。

「…………………そっか」

 女も目線を落とす。

 口を半開きにさせて、思いついた文字を書き始める。

 女の意識が、女の体全体にいきわたる。

 唇の端からよだれが零れ落ちて呼紙を(けが)す。けれど女はもう気づかない。


 シ ズク イ

 シ

 ヒトミ:Lv12(召

 カンシャ)

 セイ命

 力:60/60 

 魔力:1 72 9/172 9

 コウゲキリョク:10 防御リョク:20 敏捷 性:10

 幸運値:0

 魔法攻

 撃 力:20 魔法防御

 力:90 耐性:闇 属性

 特 殊スキル:不解書(ブンイップ)


 男は(やいば)()ぐのを止め、肉食獣のように息をひそめ、その一部(いちぶ)始終(しじゅう)凝視(ぎょうし)する。

「できました」

 言って、女は筆を置く。文鎮を外す。それを男に向ける。

「よだれ付きでうれしいよ」

「?……あ、ぃや!」

 言われて女は我に返る。(くちびる)唾液(だえき)と紙についたシミに気づき、雫石の(ほお)が真っ赤に染まる。けれどもう遅い。「変わってるね、雫石さんは」と肩まで揺らして笑うナガツマソラに対し、半泣きになりながら必死に弁明する。

「冗談冗談。ところでさ、どうして俺は〝これ〟なの?」


 懐。


 呼紙の上には一文字、「(かい)」とだけあった。

立心偏(りっしんべん)じゃなくて土偏(つちへん)だったら妹に何回か言われたことがあるけれど、「(なつ)かしい」のは初めてだよ」

「そうですか?」

 雫石は透き通るような目をマソラに向ける。


 雫石(しずくいし)(ひとみ):Lv12(召喚者)

 生命力:60/60 魔力:1442/1729

 攻撃力:10 防御力:20 敏捷性:10 幸運値:0

 魔法攻撃力:20 魔法防御力:90 耐性:闇属性

 特殊スキル:不解書(ブンイップ)


 永津(ながつ)真天(まそら):Lv5(召喚者)

 生命力:240/240 魔力:1694/1729

 攻撃力:120 防御力:156 敏捷性:144 幸運値:12

 魔法攻撃力:12 魔法防御力:96 耐性:土属性

 特殊スキル:収納魔法(ベクター)


「うん。……えっと、あのさ。ここは笑うところなんだけれど」

「なぜですか?」

「なぜって、う~ん。君、やっぱり変わってるね」

「あなたほどではないと思います」

「言ってくれるじゃん」

 そう言われた雫石は目を閉じ、プイと顔をマソラから(そむ)ける。

「「(かい)」……「(ころも)」の間に(なみだ)(はさ)む字です。死者(ししゃ)の衣に(なみだ)(そそ)ぐ字です。哀惜(あいせき)(ねん)()まる字です。「壊れる」の「(かい)」と音が同じでよく似ていますが、そこが(こと)なる文字です」

 遠くを見ながら雫石は「懐」を説く。

「へぇ」

 言われてマソラはもう一度「懐」の文字をちらりと見る。そして雫石にすぐ目線を戻した時、突き刺すようにまっすぐな彼女の視線と巡り合う。

(いた)い。(いた)い。(かな)しい。(つら)い。()い。……いろいろと見えたんですけれど、この字が一番、弱くて、人らしくて、美しくて、あなたに重なると感じました」

「………そ。ありがとう」

 ナイフを鞘に戻したナガツマソラは呼紙(こくし)に書かれた文字を最後しげしげと(なが)め、それを大切に折りたたむ。(かわ)砥石(といし)とともに亜空間にしまう。

「マソラく~んっ!!!!!!!」

 ちょうどその時、二人のもとに爆走してくる召喚者の声がした。


 赤荻晴音(あかおぎはるね):Lv14(召喚者)

 生命力:192/420 魔力:174/550

 攻撃力:130 防御力:170 敏捷性:35 幸運値:80

 魔法攻撃力:700 魔法防御力:630 耐性:光属性


「なんでしょうアレ。……魔物かと思ったらギリギリ同級生のようですね」

 新たに呼紙(こくし)を一枚セットしながら真顔(まがお)で言う雫石(しずくいし)(ひとみ)

「ひどいことを言うね、まったく」

 頭をポリポリかきながら苦笑(くしょう)しつつ、墨汁の出来のチェックに戻ろうとするナガツマソラ。

「マソラ君!!その子誰なの――!!!!!」

「ボッチ仲間だよ――!!」

「ボ、ボッチ!?……くっ、否定(ひてい)できません」

 精神的ダメージを食らい一度だけ筆を止めた雫石だったが、その後はナガツマソラのように苦笑し、そして一気に書き上げる。

「はあっ!はあっ!はあっ!はあっ!」

「おつかれさま。模擬試合(サーリュ)はどうだった?」

 全力(ぜんりょく)疾走(しっそう)してきた赤荻晴音をナガツマソラがねぎらう。

「負けたよ!でもそんなことどうだっていいの!それより、マソラ君こんなところで何してるの!?」

痴話(ちわ)ケンカだ~」「修羅場(しゅらば)ナウ」と外野(がいや)の子どもたちが騒がしい。

 羊毛の処理に戻った鬼人族たちも三人を見てグフグフ笑っている。

「アロガリアビーバーのヘッドスカルを作ってるんだ。俺の召喚者(しょうかんしゃ)手当(てあて)って竹越たちにカツアゲされて飛んじゃうんだ。だからこうして売り物を作って売って、生計(せいけい)を立ててるの」

「そうだったの!?あの人たち、ほんっとに嫌い!…………あの、それでその、失礼な質問ですみません。お名前をもう一度聞いてもいいですか?」

 マソラにプリプリ怒った後、雫石の方へ向き直り態度を改める晴音。

雫石(しずくいし)(ひとみ)です。永津君と同じただのボッチなので、お気になさらないでください」

「絶対気になります!」

 顔を真っ赤にして主張する乙女(ハルネ)

「それはまたどうしてですか?」

 上品かつ(しと)やかに返す乙女(ヒトミ)

「それはえっと、その……」

「永津君にはヘッドスカルのついでに墨汁を作ってもらっていました。その墨のおかげで私は異世界に来ても好きな書道ができます。ところで拙筆(せっぴつ)ですが一つどうぞ」

「そんないきなり………」

「ん?どったの?……」

 呼紙(こくし)を渡された途端(とたん)フリーズする晴音の顔を見、持っている紙を見るナガツマソラ。


「♡晴天♡」


 目を(うる)ませ耳まで赤くし震える「晴」音。

 (あき)れたようにため息をつく真「天」。


 赤荻晴音(あかおぎはるね):Lv14(召喚者)

 生命力:420/420 魔力:550/550

 攻撃力:130 防御力:170 敏捷性:35 幸運値:80

 魔法攻撃力:700 魔法防御力:630 耐性:光属性


雫石(しずくいし)先生(せんせい)。二つ質問があります。一つ。なぜ絵文字が入っているのか。二つ。なぜ二文字で、そこに込めた意味はなにか、です」

「全部で三つも質問をしたので答えません。日本男児らしくお(さっ)しください」

 道具をてきぱき片付けながら雫石瞳は表情を変えずにナガツマソラに返す。

「では先に失礼(しつれい)します。永津君。墨汁ができたら連絡(れんらく)をください」

了解(りょうかい)。さっきはボッチって言ってごめんね」

「いいえ、気にしないでください。私は正真(しょうしん)正銘(しょうめい)のボッチです。どこかのアロガリアハンターなどよりもずっと」

「アロガリアハンター?」

「「知らぬは本人ばかりなり」。やはりさっきの一文字よりもこの言葉の方がよさそうですね」

「よく分からないけれどありがとう」

「では本当に失礼します。たった二文字で全回復できる赤荻(あかおぎ)さんもお元気で」

「あっ、はい!これほんとに、ほんとにありがとうございます!一生の宝物にします!」

 その時、一陣(いちじん)の強い風が三人を襲う。焚火(たきび)の炎が(はげ)しく()らめく。

「あっ!」

 晴音の持っていた「♡晴天(せいてん)♡」が彼女の手を離れ、空に舞い上がる。

「待って!待って待って!!」

 赤荻晴音。再び爆走開始。

 子どもたちと鬼人族にゲラゲラ笑われながら、その場から消える。

 肉の解体に使用した後出しっぱなしだったハンガーが吹っ飛んだせいでマソラは(あわ)て、雫石は舞い上がる一枚の呼紙を目で追う。

(一生の宝物……そっか。私にもそんなことができるのか)

 雫石瞳は鞄を肩にかけると、微笑んでいた口を結び、ゼデキエル城へと先に戻っていった。





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