願い
思い出す。
1年間、色々あったな…と。
とまぁ、思い出しながら色々書き始めた書き散らしのようなこの備忘録。
今回は、前回の話にでてきた晶ちゃんの話を書こうと思う。
そう、それは前回の話の1ヶ月ほど前に遡る。
*****
色付いた葉が風に揺れ、ひらひらと舞い落ちる頃
窓から入る風に心地良さを感じ落ち着いていた。
「ねぇ、陽?知ってる?」
「どうしたの?三田ちゃん」
声をかけてきたのは同じクラスにいる、三田だ。
ショートカットが特徴の元気いっぱい女子である。
尚、コミュ力が異常な為クラスの中では中心的な存在となっている。
そんな彼女は持ち前のコミュ力を使ってあらゆる噂を聞きつけては広めてくれる。
「……山の噂」
「山ァ?」
「静かに!」
小声でひっそりと教えてくれるが、突拍子もない話に大きなことを出してしまった。すまん。
上田台の生徒が刺す山というのは学校の近くにある、あの裏山だ。
そんなに高い山ではなく普通に歩いて行ける軽い山である。
「なんかね、私も人づてに聞いたんだけど、裏山のてっぺんにある祠にタッチすると、何でも願いが叶うんだって!」
「そんなうまい話あるの……?」
そう、そして山の頂上には祠がある。
「まぁ、噂だから………あ、でもね、願いが叶うのはひと握りの人なんだって!どういう条件かは知らないけど、叶えられなかった人は下山途中に倒れちゃう人もいるみたい」
「え、やばいじゃん」
「だから、肝試しみたいな感じで行く生徒が多いんだってさ〜 ま、詳しくは知らんけど!」
*****
「で、俺を呼び出して肝試しって……どういう事だよ。陽」
「肝試しっていうのは建前です。いやぁ、最近学校で話題になってるからどうなのかなって」
日も落ちるか落ちないか、空が橙に色づき始めた時間。
照ちゃんを呼び出し、私たちは裏山の麓にいた。
「なんかね山の中にある祠へタッチすると願いが叶うって噂」
「噂って……」
「でも1人だとさなんかあった時にどうしようもないから照ちゃんを連れてきたワケ!」
「…………というのは表向きの話で、出るのはアレです。照ちゃんが得意なやつ」
「………影か」
そう、こういった案件は大体“影”のせいと見ている。
そのため怪しい噂なんて聞いた日には即照ちゃんを呼び出す。
「うーん…確証は持てないけど…9割型影のせいとみて間違いないと思う」
「まーそういうことなら俺だわな」
「でしょ?」
「…無害なら別にいいじゃねぇかよ」
「それが、最近そうも言ってられなくなってきたんだよね…なんでも願いを叶える代わりに下山途中で倒れる人続出。
その人たちの特徴を調べてみたら、まぁこれがちょっと心の弱い人間たちだったワケ。
私の予想だけど、自身の"ナニカ"を代償として持ってかれるみたい。噂が校外へ広がる前に何とかしないとって思って」
「……光達には伝えたのか?」
「うーん、お姉ちゃんたちに相談しようにも、調べたところターゲットはウチの中学の生徒なのよね。だからまず照ちゃんに」
「なるほどな、じゃあ被害が広がる前に行くか」
「お願いしまーす!」
*****
山は人が割と遊びに来るために山道が出来ており、頂上付近までは比較的楽に行けるようになっている。
2人で談笑している間に日は暮れ、山の中に入ると草木のおかげで暗く、肝試しをするにはとても良い雰囲気となっていた。
「真相がわかっていてもさすがにこの暗さと雰囲気……怖くない?」
「夜の学校とどっちが怖いんだよ…てかくっつくなよ!動きづらいんだよ!!」
「だってぇ…怖いんだもん」
「もん…とか言うな!!」
山と言っても、そんなに大きな山ではなく数十分ほど歩くと頂上までたどり着いた。
頂上手前に見える、あの祠が件の祠なのだろう。
「ん?なんだ………人?」
祠の前に人影が見え私たちは足を止めた。
「人影が見えるね」
「あれ……うちの制服じゃねぇか?」
「よく見えるね…私、夜目が効かないからなぁ」
祠の前には同じ制服を着た1人の女生徒が立っていた。
「誰」
声の元を辿ると、長い白銀の髪を揺らし、今にも吸い込まれそうなアクアマリンブルーの瞳は少し吊り上がったアイラインで縁取られている女生徒が立っていた。
「そりゃこっちの台詞だ。てめぇこそ誰だよ」
「……水瀬晶。うちの学校3年C組の生徒」
「陽よく知ってんな」
冷静な照ちゃんの質問へ女生徒より先に答えたのは私だった。
彼女の情報も手元の端末にもちろん入っている。
「いや…去年同じクラスだったから」
「………あぁ貴女が不良と言われてる闇野照ね」
目の前にいる晶ちゃんも顔と名前が一致したのか、成程といった感じで口を開いた。
「だから、なんだって言うんだよ。あ、そうだ、最近流行ってる噂についてなんか知らねぇか?」
「…………さあね」
「あ゛?」
「照ちゃん。落ち着いて」
「ちっ」
「……噂通りやってみればいいじゃない『祠に触り、自分の願いを唱える』」
「っつっても俺特に願いなんてねぇからなぁ……陽は?」
「私は噂の震源地を確かめに来たただの野次馬だから」
「…………そう」
別になにかする訳でもない自分たちへ向かって目の前にいた晶ちゃんは歩き出した。
「……あるはずよ。ここに来たということは…必ず」
ざわ…と胸騒ぎがした。
だが、それにいち早く気づいたのは照ちゃんだった。
「なっっっ、陽逃げとけ!!!やな予感がする!」
「……厄介ね」
晶ちゃんか照ちゃんの方へと急接近してきたと思えば、何かを感じ取ったのか、すぐ離れた。
「……なにそれ」
「ふぅん?……わかるのか」
「質問に答えて」
「……仕方ねぇな…出血大サービスだ!あまり自分の手の内は明かしたくないが、見せてやるよ」
彼女はニヒルに笑うと自身の能力――炎を出して見せた。
「………やっぱり」
「…………てめぇ、手遅れじゃねぇか。影に呑まれてやがる。さては能力つかってやってたな」
「そう…この力のことをヒトはそう呼ぶのね………」
そういうと晶ちゃんは黙った。
「……おい陽、念の為光に連絡して悠呼んどけ」
照ちゃんは小声で指示を出す。
「う、うん」
光というのは私の姉で、悠さんはお姉ちゃんのクラスメイト、そして同じ生徒会に所属する生徒であり、照ちゃんの一番弟子(謎)(私は詳しく知らない)である。
もちろん2人も“能力”を使うことが出来る。
この2人を呼ぶ…ということは晶ちゃんの力は強大だと言うことがわかる。それほどの相手なんだろう。
「で、実際能力はつかってたのか?」
「……………………そうよ」
長い沈黙を終えて、晶ちゃんはようやく呟いた。
「じゃあ早いところ自分と向き合ってもらうか、俺に強制浄化して貰うかのどっちか選んでもらわねぇと」
照ちゃんは彼女の様子を見て強行手段に出ることを決めたのだろう。
「嫌ね。アナタのチカラ、いただくわ」
晶ちゃんが宣言すると彼女の周りを風が纏う。
彼女の圧が私たちを襲う。
「ふむ。さて……どうしたもんか…こうなるとあまり俺も能力は使いたくねぇんだが…」
晶ちゃんの様子を見ただけで大体を把握したのか、頭を書きながら照ちゃんは呟く。
「……貴女は私をどうにかしてこのチカラを使えなくするつもりでしょう?」
お互いが睨み合い両者1歩も譲らない状態だ。
そんな中会話は続く。
もちろん、お姉ちゃんには連絡をした。
近くにいたようで、数分で到着すると返信が来た。救急車かよ。
「いや、それは誤解だな。いいか、能力っつうもんは自身の願いや本当の想い…まぁ他にも色々条件はあるが……それが具現化したもんだ。まぁ、人によってそれがどういう形で現れるかは違うがな。話を聞く限りだと、てめぇの能力は人の願いを叶える代わりにそいつ自身の何かを対価として持っていく……と。その対価が問題になった………ということだな」
「………」
「意固地になってずっとその力を行使しているとそのうち自身の影と一体化して大変なことになるぜ」
「大変なことって………」
「あ?そんな詳しく喋ってられっかよ。とにかくやべーんだよ」
「照ちゃん、バカ丸出しだよ」
「陽はだまらっしゃい!!」
大事なところで締まらない。それが照ちゃんの良さでもあるんだけど。
「………そもそも、自分がなぜこんな能力を持ったのかも分からないのに…」
「きっかけがある筈だろ?自分自身の」
「……きっかけ」
目の前の女生徒…水瀬晶はなんか考え込むように黙り込んだ。
「ふふっ…なるほどね…そういうこと」
彼女自身で答えが出たのか笑顔で呟いた。
「それが私の想いにちゃんと答えてれたと…そういう事ね。………では貴女達の願いも叶えましょう」
晶ちゃんは自分自身で選択し、影に覆われ始めた。
真っ白の彼女の周りは漆黒で覆われ始めた。
「おいおいおいおいふざけんなよ。納得が言った上で一体化とか……」
照ちゃんの様子から焦っていることが伺える。
その時だった
「照さん!!いきなり呼び出しって……何!?どういう状況!?」
「陽…どういうことですか?」
頂上へと辿り着いた助っ人2人は現状を見て驚く。
「一体化…って照ちゃんは言ってたけど……。私に聞くよりは照ちゃんに聞いた方が詳しく聞けると思う!」
「おいお前ら!詳しい経緯はあと!」
照ちゃんは彼らの姿が見えると直ぐ戦闘態勢に入れと言わんばかりに言う。
「今言えるのは、彼女が自分と向き合った上で一体化が始まった!やるぞ!!!」
「えっ…そんなことって……」
信じられない、と言いたげに悠さんは驚く。
「イレギュラーだよ!!」
動揺している2人へと喝を入れる。
「とりあえず囲め!照らせ!隙ができたところで光が捕らえろ!」
「わ、わかりました!」
「月光!」
単純に、的確に2人へと指示を出す。
お姉ちゃんの能力は“影踏み”
“影”を踏み、身動きが取れなくすることができる。
悠さんの能力は照ちゃんと同じ“炎”
ただ、照ちゃんとは正反対の朱い色の炎だ。
そして、悠さんは己の能力を武器化する事ができ、その形は日本刀の様な武器へと変貌する。
彼の手に握られた刀身に自身の炎を纏わせる。
照ちゃんは己の能力で影の周りを炎で囲んでいく。
「光!今だ!」
「はい!」
「悠!斬れ!」
「だああああああっ」
逃げ道を塞いだ照ちゃんが合図を出し、お姉ちゃんが『影踏み』を行う。動きが拘束されたところで高いところから悠さんが斬りかかる。
だが、影は消える気配がない。
「悠、やったか?」
「……感触がない」
確かに斬った。斬った筈なのに
『ダメじゃない。そんないきなり。怖いわよ。……さぁ、赤髪の少年、貴方の願いはなぁに?』
「おい悠、答えるなよ。ヤツの能力は厄介だ。"願いを叶える代償に、多分精神力、生命力とかいった何かが持っていかれる"……絶対答えるなよ」
「そうか………それなら照さん」
悠さんは彼女の能力の詳細を聞いてピンと来たのか照ちゃんに耳打ちをした。
「ふん、さすが悠。その作戦、いっちょやってみますか」
『答えなさい!!!』
「そろそろ抑えがききません…!暴走し始めました!これ以上長引くとあの方にも影響が及びます」
光は“影踏み”を行使しながら叫ぶ。
「悠、光。よーく見とけよ。俺が滅多に出さねぇ、
本気だ」
照ちゃんはそう言うと1人で一体化した女生徒の前へと向かっていった。
『闇野さん……あなたの……願い………』
「あぁ、今出来たぜ。俺の願い」
『………』
「俺の願いは"テメェを正気に戻すこと"だ!!!」
照の叫びと同時に炎が身体を纏い始めた。
「願いの対価だよな?てめぇごときに受け取れるとは思えねぇがな……
いでよ!朱雀!!!!!!」
照ちゃんが叫ぶと身体から炎の鳥が出てきた。
いつもの彼女の炎は青い、だが、鳥は赤く、照の腕に鎮座している。
「ほらよ」
晶ちゃんの前へ立つと自身の能力――朱雀を半場強引に差し出した。
「えっ、照ちゃん!?いいの!?」
彼女の突拍子もない行動に全員が驚く。
「別に人んところに取り込んだところで相手の影自体のステータスが低けりゃあ俺の影に浄化されて終わりだよ。まぁ、ヤツが格上なら俺の影は飲み込まれ、俺は能力を失うがな」
「えっ、そんなことしていいのか!?」
「おい、悠、てめぇの提案だろ。何ビビってやがんだ」
「ま、まぁ、そうだけど……」
「よーく見とけ陽、悠、光。これが俺の必殺技……」
『なっっこの力……どういう………』
「まぁ、テメェを正気に戻すくらいならかるーく20%位しか渡してねぇんだが、どうだい?気持ちいいだろ?」
晶ちゃんの周りにいた影が照ちゃんの[[rb:朱雀 > 能力]]に飲み込まれ黒かった影が段々と小さくなった。
『………どういうことなの』
「てめぇが願い願いって言ったんだろ。だから俺の願いを正気に戻すという条件にし、対価を俺の能力。だが、これはイレギュラーだ。多分普通なら持ってかれておしまいだが、対価が見合わずデカすぎた。…だからそのまんまてめぇの身体に取り込んだ俺の能力がてめぇの影をそのまま浄化してフィニッシュ」
「そう…………もう、いいわ…そうね私の負けね」
「負けもクソもねぇよ…てめぇが自分の気持ちとちゃんと向き合わねぇからこんな能力に飲み込まれんだろうが。自分の中でちゃんと対話しろ。できなきゃ聞いてやる。手伝ってやる」
「よっ、照ちゃん男前!」
「うるせぇ陽」
「…………明石さんは私の噂は知ってるわよね」
「もちろん。喋っていいの?」
晶ちゃんは頷いた。
*****
「水瀬晶、上田台中学校3年C組。オカルト研究部。
家族構成は母、父、晶ちゃんの3人暮らし。
お母さんが有名な占い師で娘にあたる晶ちゃんも見習い占い師。学校では小さい占いをちょくちょくやってくれると言うことで有名だったのよ」
「……光の妹…個人情報とかプライバシーとかいう言葉知ってる?」
「悠さんは無視して続けるね。彼女は占いをして一人一人にアドバイスをしていたわ。でも、最近外れるなんて噂も聞いていた。その後占いをしなくなったと思ったんだけど…晶ちゃんがやめた時期とこの山の祠にて願いを叶えるという噂が経つようになった時期がマッチするのよ。これが事の発端だねぇ」
「で、真相を暴いてみたら、闇堕ち寸前の水瀬が影の能力使って願いを叶えまくっていたと」
「照ちゃんと私が来てそれが暴走しちゃったワケですね」
「で、俺たちはなんで呼ばれたんだよ照さん」
「あ?そんなのこいつ見てすぐだよ。ほぼほぼ一体化してたから俺一人でどうにかなるとは思えなかったんだよ。まぁ、結局どうにかしたけど」
「まぁ、それは悠さんの作戦だったと」
「陽テメェそろそろ口塞いどけ」
「あはは」
「で、どうすんだ?水瀬。自分自身と向き合えそうか?大丈夫か?」
「…大丈夫。ありがとう闇野さん」
晶ちゃんはスッキリした顔で照ちゃんの方を向いた
「あ、この子返すわね」
晶は照の"朱雀"を渡した。
「この威力で照さん20%って言ってたよな…」
「言ってましたね…」
2人は照ちゃんの能力を見て少しドン引きしている。
私は能力が使えないから分からないけど、2人の反応を見るに相当強いことが伺える。
やっぱり照ちゃんは強いんだな。
「流石照ちゃん!まーた問題をすすすっと解決だね!」
「すみません…ご迷惑をお掛けしました……」
「あ?気にすんな」
「というか…光の妹、どこからあんな情報を……稲見もびっくりだぞ…」
「まぁ。昔から色々と調べるのが好きですからね…」
自分の情報収集能力は確かに胸を張って自慢できるけど、あまり良いものじゃないからね。ははは。
「さて、夜も遅いし帰るぞ。ありがとな、光、悠」
「大丈夫ですよ。どうせ陽と一緒に帰りますし」
「俺は一人暮らしだから……気にすんな」
日も暮れて山の上から街の明かりが綺麗に煌めいている。
そろそろ解散しようと歩き出そうとした時に晶ちゃんは口を開いた。
「あ……そこの貴方、これから色々と気をつけて。…視ようとした訳じゃないんだけど視えちゃったから」
「俺?」
「そう。聞く?」
「遠慮する。未来はどうなるか分かんねぇからな」
晶ちゃんは悠さんに一言言ったが、悠さんは前を向いていた。
「視えちゃった?」
「……私の占いは別に何かを使うとか調べるとかそういうのじゃないのよ。本当に視えるの」
「……霊視的な?」
「そう……かもね」
「晶ちゃんって凄いんだねぇ」
「……あんまり無茶すんなよ。だから今回みたいになったんじゃねぇか」
「……うん」
「はいはい!明日も学校だから帰るよー!照ちゃんなんて絶対1時間目サボるでしょ!」
「うるせー」
なんて、笑いながらみんなで仲良く帰ったのは良い思い出だ。