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明石陽の備忘録  作者: N
1/2

〜手紙〜

私は人間である。

名前は明石(あかし) (みなみ)


上田台(うえだだい)中学校の3年生。役職は特にない。


とまぁ、某有名小説のように冒頭を始めてみたが、私にはお姉ちゃんのように文才がある訳でもない。


だがそんな私が何故このように文章を書き始めたかと言うと、

自分の身の回りで起こっている“不思議な出来事”を忘れたくなくて、

個人的にまとめておこうと思った次第である。


不思議な出来事の中心にいるのは私の親友の闇野(やみの) (てる)こと照ちゃん。

女の子にしては少し低い声で、色素の薄いセミロングの髪を流し、中学生の平均よりは明らかに高い身長の彼女は男勝りな性格で口調も男っぽい。

私のお姉ちゃんとも仲良く、しょっちゅう授業をサボってはお姉ちゃんの通っている高校_八城(やしろ)学園へと出向いている。

中学行かずに高校行ってどうするんだか。


だが、そんな彼女はその不思議な出来事を解決するために奔走している。

1人だと大変だと思うから、完全にお節介だけど私も情報は彼女へと伝えるようにしている。



これはそんな不思議な出来事をまとめた日誌のようなものである。

名付けるならば…【明石陽(あかしみなみ)の備忘録】とでも名付けようか。



〜手紙〜



「どうしたの?照ちゃん」


珍しく朝から登校してきた親友を前に、しかめっ面の彼女へと話しかける。

彼女の手には一通の手紙が握られていた。


「あ?なんだ陽か。いや…今朝俺の下駄箱に手紙が入っててよ」


「もしかしてラブレター!?」


「だったら良かったんだけどな」


そう言って彼女は1度封を切った封筒から便箋を取り出して、私に見せてきた。


だが、渡された便箋を見ると、そこには何も書かれておらず、ただの真っ白な便箋だった。


「何も書かれてないね」


「あぁ」


「差出人は?」


「ほらよ」


彼女は持っていた封筒も私へ渡してきた。

表裏両方見たが、宛名も差出人も何も記載されてはいない。


「何も書かれてないね。なんでこんなものが?」


「分かったら俺だってこんな顔してねぇよ」


「それもそっか」


そんな会話をしていると、ホームルームの開始を知らせる鐘が鳴り会話が強制終了された。

彼女の鋭い目付きに更に磨きがかかり、周りのクラスメイトに少し同情した。


ホームルームが終わり、1時間目の準備にとりかかる。

1時間目から移動教室のため、机の中から教科書とノートを取り出し彼女を呼びに行く。

別に一緒である必要はないのだけど、私がいたいから一緒にいるだけなんだけど。


「照ちゃん行くよ」


「1時間目は…理科室かよ」


「一緒に行こうよ」


「あぁ、ちょっと待ってな」


机の中に手を伸ばすと、照ちゃんの表情は眉間に皺を寄せ、朝と同じ表情になった。

教科書と一緒に出てきたのはまた同じ封筒だった。


「えっ、これって…」


「ちっ。………今は時間がねぇだろ。とりあえず移動してから見ようぜ」


「そうだ…ね」


彼女は理科室に着くまでずっと不機嫌で、険しい表情をしていた。

すれ違った下級生がヒッ…と声を出し避けて行く程に。

まぁ、それも彼女の不機嫌になる原因へと繋がるのだが今は関係ない。

とりあえず理科室まで行くのが先決だ。

幸い同じ班なので授業中に軽く話すことは出来る。


「で、結局また差出人は書かれていないわけ?」


「みてぇだな」


実験課題の顕微鏡を覗きレポートをまとめながら小声で会話する。


「てか照ちゃんも真面目に授業受けるんだね」


「……俺の事なんだと思ってんだよ」


「だってサボり魔じゃん」


「………八城に進学するなら真面目に受けておこうと思ったんだよ」


実験レポート用紙に顕微鏡で見た内容を書き留めながら小声で言う。

確かに彼女の成績は今の時点でオール2なので八城に進学するには少し難しい。

が、彼女の仲良しな人達が八城にいるので彼女も彼女なりに努力しようとしているのであろう。

いや、内申は手遅れなんだけれども、それは言わないようにしておこう。


実験レポートをまとめていると時計の針がそろそろ授業の終了時刻へと近づいてきた。

班員が全員のレポート用紙をまとめて先生に提出した頃に終わりの鐘が鳴る。


「さて、教室に戻るか」


教科書を取ろうと理科室の机の中に手を伸ばしてみると、先程とは違う色の、だが同じデザインの封筒が教科書の上に鎮座していた。


「………違う色だね」


「あぁ」


この短時間に机の中に誰かが入れている所など見なかった。

ずっと隣に座っていた自分が見ていないのだ。


いよいよ怪しくなってきた。


「コイツも差出人無しか」


「みたい…だね」


照ちゃんは本格的に“何かある”と確信したのか教科書を置いて、ただ手紙だけは持って理科室から出た後、そのまま教室に戻ることはなかった。


「誰が教科書戻すと思っているのよ……」


*****


彼女が再び教室に戻ってきたのは放課後だった。


「1時間目だけ出てサボって放課後に戻るってどういうことですか闇野さん」


彼女が座っている机にバンと手をつき彼女へと言う。


「なっ…陽…なんでそんなよそよそしいんだよ」


そりゃそうだ八城に進学する!ってちゃんと授業に出て関心していたのに、それは1時間目だけだった。

すぐお姉ちゃんにチャットでチクった。確認のためもあるけれど。

八城に行っているのかと思ったのだが、そうではなかった。


「で、どうしたのよ」


「……あの後に家へ行ったら家にも届いていたんだよ」


「は?」


彼女はそう言いながら鞄の中からドサッと封筒を取り出した。

それは一通だけではなく、4〜5通…いやもっとあるかもしれない。束になって出てきた。


「……多いね」


「あぁ」


「もしかして…」


「まぁ、陽の予想通りだろうな」


照ちゃんは腕を組み、手紙を睨みつける。


「珍しいね。照ちゃんが“(かげ)”の標的になるなんて」


「……まぁ俺をよく思ってないやつなんかこの学校にはごまんといるからな」


“影”というのがこの“不思議な出来事”の原因である。

どういった仕組みで“影”が発生するのか知ってはいるけど、何がきっかけなのかは人によって違う。

そういった存在は照ちゃんの方が詳しく、彼女はそういった“影”を浄化するための能力を持っている。

私も何度か目にした事があるため、怪しそうな情報は彼女へとリークするのだ。


「今回の問題はこの差出人が一切分からないということと、今回のような不審な出来事が俺以外にいないかの検証が出来ねぇって事だよ」


「というと?」


「陽、得意だろ?情報集めてくれ」


「私一人だと限界はあるけど……照ちゃんの頼みなら仕方ない。頑張るか」


「何日でできる?」


「うーん、1日あればいけるんじゃないかな」


「嘘つけ。すぐできるだろ」


「バレたか」


そう。自分の得意なことのひとつに情報収集がある。

といっても、SNSやチャットツールなど、その辺を駆使して情報収集する。


さっそくスマホを取り出し、SNSを開いて個人用にまとめてあるリストなどを漁り“不審な手紙”が照ちゃんの他に届いていないか探してみる。


しばらくして結果が出たが、彼女の求める結果ではないだろう。


「全校生徒のアカウントとか色々探してみたけれど、SNS上では該当者はいないね。ちなみに、怪しそうな人には個人的に連絡したけれど答えはNo。あとは返信が無いね」


「なるほどなぁ」


照ちゃんは真剣な顔をして考えている。

授業もこれくらい真剣に受けてくれればいいんだけれど。


そんなことを考えていると彼女自身の結論が出てきた。


「多分、この“能力”の持ち主が、影の力を暴走させているんだろうな」


「はぁ」


影の悪さには様々なケースがあるらしく、彼女の経験からどういったケースなのかの予想ができているのであろう。


「と、いってもその持ち主が分からないとどうにもいかねぇ」


「じゃあどうするの?」


彼女は椅子から立ち上がりドアに手をかけ、ニヤリと笑みを浮かべて言った。


「適任がいるだろ?」


*****


「……なるほどね」


照ちゃんに連れられて訪れた場所はオカルト部の部室の前だった。


「あいつ以外に探しもののエキスパートはいねぇだろ」


そう言ってオカルト部の部室のドアを思いっきり開けた。


「たのもー!!!」


「いや違うでしょ!!!」


部室の中には彼女を見てヒッと声を上げ後ずさる女子生徒が数名、明らかに警戒心を抱いた男子生徒が、数名。


そして嫌そうな顔をして照ちゃんを見つめる女子生徒が1名。

この子が、照ちゃんの目的の生徒である。


「なんの用、闇野さん」


「…頼みがある」


目の前にいる、頭からつま先まで真っ白でアクアマリンブルーの瞳を持つ彼女___水瀬(みずせ)(しょう)は真っ白な長い髪を揺らして照ちゃんへと近づいた。


彼女も所謂“能力者”であり、彼女のもつ“能力”が今回必要なんだろう。


「………」


照ちゃんの真剣な表情を感じ取ったのか、晶ちゃんは立ち上がった。


「部長、奥の部屋、借りますね」


「あ、あぁ」


「こっちに来て」


そう言って奥の部屋へと私たちを誘ってくれた。


部室の中をかき分けた奥の部屋には椅子と机が鎮座していた。

晶ちゃんは椅子へ座り、私たちにも座るよう促した。


「で、貴女の今回の願いはなに?」


「わかってんのか」


「悪名高き闇野 照がいきなりオカ部の扉を叩いたんだもの。私くらいしか目当てはいないでしょう?」


「…お見通しって訳か」


中学生とは思えない気を放っている2人を他所に私は照ちゃんの隣でちょこんと座っていることしか出来なかった。


照ちゃんは先程の手紙の束を晶ちゃんへと渡した。


「………なにこれ」


「これの差出人を探してくれ」


晶ちゃんは手紙をざっと見ると、ため息をつきながら一言言った。


「………まーためんどくさいものに目をつけられたわね」


「るせぇ…」


「……見たところこれは貴女をよく思わない生徒の思念体ね。影とよく似ているけど」


「思念体?」


「影なのは間違いないのだけどどちらかと残滓のような感じ」


「なるほどな。で、分かるのか?」


「…分からないことはないけれど貴女の“ソレ”出来れば触りたくないわ」


「でも、“コイツ”を対価に出さないとお前能力使えないだろ」


晶ちゃんの能力は対象者の願いをなんでも叶える能力である。

但し代償として対象相手の能力の何割かを貰ってしまう。


以前彼女の持つ能力が暴走したのだけども、照ちゃんがその暴走を止めたのだ。


それはまた別の機会に書き留めることにしよう。


その後から少しずつ交流があるようでたまに照ちゃんが、一方的にちょっかいをかけに赴くことがあるようだ。


「………はぁ仕方ないわね。今回の貴女の願いは“この手紙の差出人を知りたい”でいいのね」


「あぁ」


『では、貴女のその願い叶えましょう』


晶ちゃんが唱えると手紙が浮き上がり、その手紙を見据えた。

きっと、照ちゃんの願いを叶えるための儀式なのだろう。

横にいる照ちゃんは身体から青白い炎が溢れ出ているのが見える。


照ちゃんの能力は高純度の青い炎なのだ。

炎を用いて影を浄化する。


水瀬晶の能力の対価は対象者の能力を貰うこと。

貰うと言うよりは、対象者の求めるものを導き出すために対象者自身の能力を使うというものだ。


しばらくすると浮いていた手紙が重力のままに床へと落ちた。


「わかったか?」


晶ちゃんは手を組むと一言呟いた。


「えぇ






貴女と同じクラスの男子生徒、黒田(くろだ) (まもる)ね」



*****


「黒田 守。誕生日は2月7日。血液型はA型。我がクラス3年B組の学級委員で、責任感は人一倍強い。彼の所属している文芸部でも、部長を勤めており、人望も厚い。前回の私の情報収集では引っかからなかった男子生徒だね」


「…………いつも思うんだけどよ、お前よくそんな個人情報を集められるな」


帰り道、歩きながら晶ちゃんから貰った情報を元に己で情報収集をした結果を照ちゃんに伝える。


「今更でしょ?なんなら、照ちゃんのあんなことやこんなことまで調べあげてもいいんだよ?」


「やめろ」


「冗談だって、別に調べなくても分かるけどね。で、どうするの?黒田くんのこと」


「………あのままあいつが無意識に能力を使ってしまうとマズイからな。今日はだいぶ遅せぇし、明日にでも問い詰めてやるよ」


「そっか。照ちゃんさ、見た目とか言動とか諸々含めて相手に恐怖心抱かせるんだから気をつけてね」


「るせぇ」


なんだかんだ言いつつ照ちゃんは私の家の前まで送ってくれた。


「あれ、照さん」


玄関の前で別れようと思った所で反対側の奥の方から男性の声がした。


「あ? (はる)(ひかり)か」


声の主はお姉ちゃんの友達の(はる)さん。

伸ばしっぱなしの明るい髪と生まれつきの鋭い目付きで八城の不良と恐れられている男だ。

実際そんなことはなく、ただ単に見た目が怖いだけの優しい人である。


お姉ちゃんと同じクラス、同じ生徒会役員である彼も照ちゃんと同様にお姉ちゃんを家まで送ってくれたみたいだった。


「じゃあな、(ひかり)

「はい、(はる)くんまた明日」


お姉ちゃんを玄関先まで送ると来た方向へと踵を返して去っていった。


「じゃあ、俺もそろそろお暇するかな。またな陽」

「うん、また明日」


私も照ちゃんと別れ、そのまま玄関をくぐる。


「今日は何かあった?」

「まーいろいろ」


他愛のない話をしながらお姉ちゃんと一緒に家へ入ると、照ちゃんの(はる)さんを呼ぶ声が聞こえた。きっと一緒に帰るのだろう。


*****


翌日


2日連続 ちゃんと登校してくるとは珍しいこともあったものだ…

と、感心していたが照ちゃんの表情は昨日と同じく険しいものとなっていた。


「おはよう」


「ん、おはよ」


彼女の机の上には例のごとく昨日と同じ手紙が何通もあり、彼女はその手紙を睨みつけていた。


「おい、陽。コレ見ろ」


照ちゃんは一通手に取り、封筒から便箋を取り出した。


便箋には乱雑な字で


“ふざけるな”


便箋いっぱいにそう一言書かれていた。


「遂に文章が…」


「こんなん文章じゃねぇだろ。他にも書かれてたんだけどよ、“消えろ”とか“馬鹿”とか書かれてたぜ?」


「なんて言う誹謗中傷……いや、馬鹿は間違いないんだけど……

というか彼、そんなことするタイプじゃないでしょ」


「おい陽、今俺の事馬鹿って言ったか?」


「間違いないじゃんオール2め」


「なっ……どこからその情報を………」


「で、どうするの」


「あ?あぁ。あいつが沢山くれた便箋に放課後裏庭なって書いて下駄箱にいれてやったよ。来なかったらシメる」


悪どい表情で彼女はそういった。

結局どちらにしてもシメるんじゃん。


今日は珍しく朝から1日ちゃんと授業に出ていた。


*****


放課後の裏庭

照ちゃんは彼が来るのを腕を組んで仁王立ちで待っていた。

見た目はめっちゃ怖い。これからタイマンはるんじゃないかと思われるくらいの圧はあった。

矛先は自分じゃないから気にしないけど。


そんな圧力を撒き散らしている照ちゃんの目の前に1人の男子生徒が現れた。


黒髪ショートの、メガネが特徴的な男子。

クラスの学級委員の黒田 守だ。


よく来れたな


まぁ、彼も彼で照ちゃんに思うところはあるみたいだった。

だから照ちゃんの呼び出しに応じたのだろう。


「お前にひとつ聞きたいことがある」


裏庭に現れた黒田くんにハッキリと意志を伝える。


「この手紙見覚えがあるか?」


照ちゃんの手には束になった、彼からの手紙が掴まれていた。


「………なっ、んで、」


照ちゃんの手にある手紙を見た黒田くんは目を見開き固まった。


「………いや、驚きすぎだろ」


「なんで、それがあんたの手に…」


「ん?俺の机や、下駄箱。終いには家まで届いていたぜ?差出人不明、中身は白紙の手紙がな」


「……………」


「なんでわかったのか?という質問は、まぁ、ツテがあってな。“願いを叶える祠”の主に、探してもらったのさ」


黒田くんは黙ったまま俯いている。

彼自身思い当たる節があるのだろう。


「………それは間違いなく“僕の手紙”だ。で、なんだ?それが迷惑だと?別に学校に来てないんだから問題ないだろう??」


「いや、俺が登校した日の授業中にもお前手紙送ってきたよな」


「うるさい!!!!!」


黒田くんの足元から、黒い影が広がった。

影はそのまま彼の背後へと拡大していった。


「………やべ」


「いや、照ちゃん何煽ってるの!!」


「煽ってねぇよ!!あいつが勝手にキレたんだろ!!くそっ、下手すりゃ“一体化”する!陽離れてろ!!!!!」


「わ、わかったよ」



影は自分自身だ。


自分自身の闇の部分だ。


それが許容量を超える(キャパオーバーする)とこうやって悪さをする。


悪さの挙句 制御出来ずに使い続けると影に飲み込まれる。

これを彼女は一体化と言っている。

他にも一体化の要因はあるみたいだけど。


お姉ちゃんに聞いたが照ちゃんも過去に一体化しそうになったことがあるそうだ。


自分自身の感情など制御できないと一体化のリスクが上がる。

彼女曰く一体化を放置するとそのまま自身の影に飲み込まれて死ぬそうだ。


それを止めるのが彼女の役目。


「くっそ」


黒田くんからは大量の紙切れが吹き出しており、照ちゃんを襲う。

照ちゃんは持ち前の能力の青い炎で燃やしているが、彼からの攻撃は荒くなっていく一方である。


「小賢しい攻撃なんてめんどくせぇ!!!!!


正面からぶつかって来やがれ!!!!!」


照ちゃんは完全に啖呵を切り黒田くんへ叫ぶ。

黒田くんは多分わけも分かってないだろう。

売り言葉に買い言葉で彼は影で大きな黒い濁流を作り出し照ちゃんへと襲いかかった。


「ふざけんなよ、炎だからって安直に水にしやがって」


照ちゃんは濁流を間一髪で避け、彼女の近くには朱い炎の鳥が現れていた。


「すまんな朱雀頼むぞ」


炎の鳥が彼女の奥の手。必殺技。


照ちゃんが呟くと朱雀と呼ばれた炎の鳥は大きくなり背後へそびえ立つ。

2発目の濁流に備え鳥の炎はだんだんと大きくなっていく。


黒い濁流はまっすぐ照ちゃんに向かってきたが、彼女の背後にある朱雀がそれ以上の質量で濁流を覆う。


水は強大な炎の前には勝つことが出来なかった。


濁流ごと黒田くんは大きな炎に包まれた。


*****


「この手紙は知らんうちにコイツの気持ちが具現化してしまったパターンだろうな」


全てが終わり、裏庭のベンチに彼を寝かせ照ちゃんはいわゆるヤンキー座りをしながら己の分析結果を口に出した。片手に例の手紙を持ちながら。


「そうなの?」


「あぁ。見たところ紙以外も出せるみてぇな。イメージしたものを具現化するんじゃねぇか?」


結局、あの後全てを覆っていた影は照ちゃんの炎に燃やし尽くされ黒田くんはそのまま意識を失った。

地面に転がしておくのはさすがにどうかと思い裏庭に設置されているベンチに寝かせたのだった。


「ん………」


「お?目が覚めたか?」


「うわっ」


目を覚ました黒田くんを覗き込むと驚いてそのまま起き上がった。


「僕は一体………」


「自分の影に飲み込まれて俺に襲いかかってきたんでぶっ飛ばした」


「は?」


「いや、照ちゃんざっくりしすぎでしょ」


「間違ってねぇだろ!」


「………というか、なに?影って」


彼は信じられないという目でこちらを見ていた。そりゃそうだ。

と、同時に“影”とはなんだ?という疑問もあるようで彼は口を開いた。


「……この現象について、闇野は何か知っているのか?」


「あぁ。今回の現象について別にお前を責める気は無いし、お前がお前自身を責める必要は無いよ。

始めは気持ちが爆発してお前が何かの行動をしたら、俺に手紙として現れた。そういうことだろ?」


図星だったのか彼の動揺っぷりが見て取れる。

しばらく無言が続いた後、気まずくなったのか黒田くんは口を開く。


「………確かに僕は君に対する不満を1冊のノートに書き溜めていた」


「1冊!?」


「それで?」


照ちゃんはいつもとは声色が違い、優しい口調で話の続きを促した。


「だが、君に対する不満が溜まり始めたのはついこの間だ。体育祭でろくに授業にも出ていない君が競技の選手に抜擢された。別に僕は運動ができるわけでもない。

ただ、そういう行事の時だけ来て、その時だけ良い成績をおさめ、また登校しない日々が続く。不公平じゃないか」


「まぁ、これは黒田くんの言う通りだね。照ちゃん」


「要約するとお前は俺の学校での態度が気に食わないと」


「……あぁ、そうだ。HRの時もいない。肝心な話し合いの時もおらず、終いには明石さんに色々と世話されているじゃないか」


「私は好きでやってるけどね」


「明石さんは良くても、それを見て悪く思う人間がいるんだよ」


「OKOK。つまり、あんたは俺が少しでも真っ当な人間になってほしいんだな」


「端的に言えばそういうことだな」


「努力はしよう。俺たち今年受験だしな」


「まあ、今更頑張っても内申は手遅れだけどね」


「なっ……そうなのか陽」


「あっやべ」


心の声が漏れ私は口を押さえるが、照ちゃんからは動揺がみてとれた。

動揺を見られるのが恥ずかしいのか照ちゃんはすぐ話を逸らした。


「お、おい黒田!…お前、お前のその手紙について自分でどこまで理解してる?」


「………僕のノートに書いた気持ちが君の前に現れたということじゃないのか?ただ、にわかに信じ難いけど……。闇野さんは“これ”について何か知ってるのか?」


「知ってるも何も照ちゃんはそういった不思議な事の専門家だよ。だからサボりがちっていうのもあるんだけど」


「………今回の手紙は心の“影”が具現化したものだ。こいつらは自分自身と向き合うことで自分の力になってくれる。さっき自分の気持ちを吐き出しただろ?暴走したから強制的に浄化させてもらったけど。その力はきっとてめぇの力になってくれるよ」


「黒田くんはノートに書いたものが手紙として現れたって言ってたよね」


「うん。ただ、正確にはこの書き殴った文章を手紙にでもなって届けられたらな…とは思った。だから今回、手紙として闇野さんの元に現れたのだろう」


「なんだ、自己分析できてるじゃねぇか………言うならば“書いたものを具現化する”能力だろうな。あの水も自分で書いたんだろ?」


「あぁ」


「じゃあそういうことだよ。……自分と向き合い続けてたらそのうちそいつがちゃんと使い方教えてくれるさ。じゃあまた明日な」


「え、そんなアッサリでいいの!ちょっと待って照ちゃん!!!」


裏庭には黒田くんだけを残し、照ちゃんは颯爽と去っていった。

私は照ちゃんの背中を追うのだった。


「良かったの?照ちゃん」


「あ?あぁ、別に俺は使い方とか教えるの得意じゃねぇし」


「ふぅーん。どの口が」


(はる)のことか?あいつは別」


日も沈みかけた帰り道。

2人でいつもの通学路を歩いていく。


*****


後日

照ちゃんはこの前と比べると学校にちゃんと登校するようになった。

指摘されたのが彼女の中で相当響いたんだろう。

まぁ、この後受験シーズンで照ちゃんの知り合いの先輩方にコッテリ絞られるんだけど。それはそれとして。


黒田くんも以前より明るくなった気がする。

彼自身 ちゃんと向き合って己の影と付き合っているようだ。



と、まぁ今回の話はこれでおしまい。


また思い出しがてら書いていこうと思う。


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