すてられた目覚まし時計
近所のゴミ庫から聞こえる目覚まし時計の音を、何日も聞くうちにいじらしく思い書いた話。
いじらしさに切なくなるので、言われたことを忠実に守るモノが苦手です。(犬とか)
僕は目覚まし時計。
僕のご主人は朝起きるのが苦手で、ケイタイさんと僕の二段構えでやっと起きる。
ご主人は最近結婚し、引っ越しをした。
僕は引っ越しには付いていけなかった。
捨てられてしまったのだ。
まぁしかたがない。
僕は朝の7:30と夜の19:30を区別できないアナログの古い時計で、ベルの音もおしゃれじゃない。
きっとご主人は、朝と夜を違う数字で表現できてベルの音も選べる、デジタルの時計を新しく買ったのだろう。
以前ケイタイさんが「私にはスヌーズ機能も付いているし、アラームだって2度でも3度でも設定できるのよ」と言っていたから、ケイタイさんだけで充分だと思ったのかもしれない。
もしかしたら結婚相手が起こしてくれるのかもしれない。
理由は分からないけれど、とにかく僕は捨てられた。
集合住宅のごみ置き場に。
問題はご主人が目覚ましをOFFにしていなかったことと、乾電池を分別しなかったことだ。
僕は朝と夜、毎日7:30から1分間なり続ける。
アナログのベルの大きな音で。
誰も僕がなることを期待していないのに。
僕は鳴り続ける。
毎日毎日。
収集車はまだ来ない。
近くの戸建ての人がうるさいと話しているのが聞こえた。
通勤中の人が、僕がいるゴミ庫を忌々し気に一瞥して、足早に去っていく。
僕だって鳴りやみたい。
でもまだ電池は切れない。収集車も来ない。
電池が切れないだろうか
収集車が来てくれないだろうか
僕は毎日そればかり考える。