寒い季節は嫌いでも寒い季節に出逢った彼女は好きになりました
もうすぐ俺の嫌いな季節がやってくる。
世間が浮き足立つ寒い季節だ。
俺は冬が大嫌いだ。
寒いのが嫌いとかではない。
俺の周りが彼女を作ろうとするからだ。
この季節に好きな人を見つけ、彼女にするというこいつらの考えが嫌いなんだ。
「お前は今年も一人なのか?」
友達の一人が俺に言う。
「当たり前だ。好きな人なんてそんな簡単にできねぇよ」
「今年も寂しく冬を過ごせよ」
「寂しくねぇよ」
「俺は可愛い彼女をつくって暖かい冬にするからな」
「勝手にどうぞ」
本当にこいつはバカだな。
俺は呆れながら見ていた。
俺は学校の帰り道にコンビニへ寄った。
「いらっしゃいませ。あっ、学校終わったの?」
俺がコンビニへ入ると店員の女の人が声をかけてきた。
「ちょっと友達と話していて遅くなりました」
「そうなんだね。今日は寒いね」
「そうですね。寒くなると友達が彼女を作ろうと気合いを入れ出すんですよね」
「その友達、可愛いね」
俺は君のほうが可愛いよと言いたいのを我慢して彼女を見つめた。
彼女はこのコンビニの店員で俺はこのコンビニの常連客だ。
彼女と出逢ったのは今から一年前になる。
あの日も今日みたいに寒い日だった。
◇◇◇◇
「ちょっと姉ちゃん。このおにぎり開いてんだけど」
「あっ、すみません」
コンビニで暇つぶしをしているとレジで大きな声がした。
新人の店員に客が怒鳴っている。
「どうしてくれるの?」
「今、店長を呼んできますので少々お待ち下さい」
「あ? 姉ちゃんがこのおにぎりを開けたんだろう?」
「わっ、私がですか? そんなことは絶対にしません」
「でも俺がレジを通す前は開いていなかったんだよ」
俺は新人の店員さんが可哀想で見ていた。
彼女は謝っているがちゃんと自分はしていないと主張していた。
彼女は間違っていない。
俺はちゃんと見ていた。
彼女がこの言いがかりをつける男には何もしていないことを。
だから彼女を助けたくなった。
「俺、見てましたよ」
俺は二人の近くに行き言った。
「俺は店員さんがあなたのおにぎりをレジに通さないのを見てました」
「は?」
言いがかりをつける男は怒っている。
「このレシートを見てみろよ。この店員の名前が載ってるだろう?」
「それは彼女がレジに自分の番号を打ち込んだ後に店長と変わったからです」
「え? あっあの時の」
彼女は思い出したように言った。
「それなら店長がやったんだよ。店長を出せ」
「それも違います」
「は?」
「あなたはそのおにぎりを自分で開けてましたよね?」
「そんな証拠がどこにあんだよ」
「防犯カメラですよ」
「あなたの行動は全部、カメラに残っていますよ」
「そっ、そうかよ」
そう言って男はコンビニから出て行った。
「ありがとうございます」
彼女は俺に頭を下げお礼を言った。
それから彼女と話すようになり今に至る。
「もうすぐクリスマスが来るね」
「今年ももうすぐ終わると思うと早いですね」
「今年もクリスマスケーキは自分の為に買うのかな?」
「えっ、彼氏と食べないんですか?」
「彼氏? いないよ」
「俺と一緒ですね」
「そうなの? モテそうなのにね」
「誉めても何も出ませんよ」
「本当のことを言ったの。お客さんの女子高生とか君を見て格好いいって言ってるよ」
「俺は恋愛なんて興味はありません」
「何で?」
「俺には必要ないものですから」
「もったいない」
「えっ」
「せっかく若いんだから色んな恋愛しなくちゃ」
「あなたも若いですよ」
「私はそんなに若くないわよ。もうすぐ大学卒業だし」
「それでも若いです」
「あなたよりは若くないわよ」
「あなたは頑固ですよね?」
「頑固?」
「初めて会ったときも自分はやっていないと意見を曲げなかったし、今もあなたは若くないと言ってるのはあなたが頑固だからです」
「そうかもね」
彼女はそう言ってニッコリ笑った。
「今年のケーキは俺が買って二人で食べませんか?」
「えっ、私なんかでいいの?」
「あなたがいいんです」
「それなら喜んで」
彼女のふんわり笑う笑顔は何度見ても可愛い。
この笑顔をみられるのならケーキを何個買ってもいいと思った。
それから俺は彼女が食べたいと言ったチョコレートタルトのクリスマスケーキを注文した。
クリスマスイブに注文するはずが間違ってその前の日付けになっていた。
俺達はクリスマスイブの前の日にケーキを食べることになった。
俺は彼女のバイトが終わるのを待っていた。
「あの」
俺は知らない女子高生に声をかけられた。
「これから遊びませんか?」
「俺、人を待ってるから」
「そうですよね? すみません」
そう女子高生は言って逃げるように去って行った。
「さっきの言い方は冷たいよ」
後ろからいきなり彼女が言ってきた。
「みっ、見てたんですか?」
「彼女が可哀想」
「言ったでしょう? 俺は興味はないんです」
「分かったから。さあ、行こうか?」
「どこへ?」
「私の家」
「えっ」
「行くよ」
俺は彼女に手をひかれ歩き出す。
彼女の手はひんやり冷たかった。
彼女の家は小さなアパートだった。
大学生の一人暮らしには丁度いい広さだ。
「お邪魔します」
俺はそう言って彼女の部屋へ入る。
「飲み物はジュースでいい?」
「はい」
「どうぞ」
「ありがとうございます」
「私はお酒を飲むよ」
彼女はそう言って缶チューハイをテーブルの上に置いた。
「サンドイッチと唐揚げとか作ったから食べて」
「えっ、作ったんですか?」
「そうだよ。買うのは高いから私が作ったの」
「すごい」
「誰でもできるよ」
彼女は照れながら言った。
ご飯を食べた後、クリスマスケーキを切り分ける。
彼女は美味しいと言いながら嬉しそうに食べていた。
まるで子供のようだった。
「今日はあなたのことを聞きたいな」
「えっ?」
彼女の甘えるような声に俺は驚く。
彼女は確実に酔っ払っている。
明日になれば今日の記憶はなくなっているのかもしれない。
それなら本当のことを言おう。
「あなたの年齢は?」
「十六歳です」
「あなたの好きな色は?」
「青です」
「あなたの好きな食べ物は?」
「唐揚げです」
「あなたの好きな女の子のタイプは?」
「年上で、可愛いくて、たまに子供みたいにはしゃいだり、それなのに大人っぽくなったりする人です」
「好きな人はいるの?」
「います」
「どんな人?」
「頑固な人です」
「頑固?」
「自分の意見を曲げない芯の強い人です」
「私だったらいいのになあ」
彼女は呟くように言った。
「あなたですよ」
「えっ?」
「あなたのことですよ」
「でも、君は恋愛には興味ないって言ってたでしょう?」
「あれはあなた以外の人との恋愛は興味ないって意味ですよ」
「何それ。分かりにくいよ」
「だから、今ちゃんと言ってるんです」
「私は年上だよ?」
「俺のタイプです」
「私はワガママだよ?」
「あなたのワガママを聞いてみたいです」
「私は束縛がすごいよ?」
「俺もです」
「私は頑固だよ?」
「知ってます」
「私は…………」
「もう口を閉じて下さい」
俺は彼女が話そうとしている口に人差し指を当てた。
「あなたにキスをしたいので」
そう言って俺は彼女にキスをした。
彼女は嬉しそうに笑い、俺のキスを受け入れた。
◇◇◇◇
「えっ」
この言葉は彼女が起きて最初に言った言葉だった。
「どうしたの?」
俺は彼女の横に寝ながら聞く。
「何で君が私の横で寝てるの?」
「あなたが俺を離さないから」
「えっ、私ったら何かやらかしたの?」
「俺から離れたくないなんて言うから」
ただ朝まで添い寝をしただけなのに、俺は彼女を困らせたくて、嘘を言った。
「私、気を付けてたのに」
「気を付ける?」
「君は年下だから私が諦めなくちゃいけなかったの」
「年齢のこと気にし過ぎだと思う」
「でも君は未成年だよ」
「それなら俺達のことは秘密にすればいいじゃん」
「秘密?」
「俺が未成年じゃなくなるまで誰にも秘密にすればいいじゃん」
「それって四年はあるよ」
「だから後、四年は一緒にいようよ」
「四年後は?」
「結婚」
「えっ」
彼女は目を見開いて俺を見た。
「返事がないんだけど?」
「あっ、えっと、お願いします?」
「何で疑問形な訳?」
「だって、君の気持ちが変わるかもしれないし」
「俺は変わらないよ。俺もあなたと同じで頑固だからね」
「それなら。お願いします」
彼女は満面の笑顔で答えた。
俺と彼女の恋愛は今、始まったばかり。
どうなるかは分からないけれど俺も彼女もこの寒い季節を好きになったのは確かだ。
読んで頂きありがとうございます。
心暖まるストーリーを楽しんで読んで頂けると幸いです。