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マリアリアがギルドの救護室に運ばれて行ってから幾ばくかの時間が経過した。
アイギナは一人でギルドマスターの部屋に来ていた。
ジークとアレックスの対面に座るアイギナとの間には彼女がウィクトーリアから持ってきた『竜杖』が置かれている。
「さて、依頼書には具体的には書かれていなかったが研究に関して詳しく聞きたい」
「わかりました」
アイギナが持ってきた竜杖。これはDg資源と呼ばれるものを用いた武器だと説明した。
Dg素材。それはアーヴェイロンからもたらされた竜の素材のことを指している。
「こんなんでぶったたいたらすぐにぶっ壊れそうだなあ」
「狩人が使う得物は頑強さが大事なのはアイギナ嬢もわかっていると思う。それに見たところ複雑な構造をしている上に刃もついていない。重量もないこれが武器というのはにわかに信じられないな」
「ええ、そう思われるのも無理はないですわ。これは物理的になにかをするためのものではないのですから」
「どういうこった?」
ジークもアレックスもアイギナの言うことを飲みこめていない表情を浮かべる。
アイギナはそれを当然だという様子で受け入れる。
「言葉で説明するよりも、実際に見ていただいたほうがわかりやすいと思います」
アイギナは竜杖を手に持ち目をつむる。
そして一言、呟く。
「起動」
その言葉と同時に竜杖が形を変えていく。
先端にあった複雑な構造物はまるで花が咲いたかのように。
展開して露出した中心部には琥珀色の石がはめ込まれており、淡い光を放っていた。
「これは……」
「……どうなってんだ?」
その光景を見たアレックスとジークは言葉を失う。
それもそのはずだ。花のように展開したパーツはどことも接していない。
完全に浮遊しているのだ。
「これが竜杖の起動状態です。では少し眩しいので気を付けてください……入力、発光、実行!」
アイギナが言葉を発するや否や竜杖は眩い光を解き放つ。
一瞬の輝き。二人は一瞬で瞼を閉ざし身を守った。
「なるほど……これ以外にも?」
「ええ、あとは爆発する炎を放ったり、物を切断する風を放ったりできます」
「くそ、目がくらむ。ッ先に言えよな……。んで、あんたはこれを使って竜と戦いたいってことで間違ってねえか?」
「はい。この竜杖が本当に竜に有効かどうか。それを確認したいのです」
これは確かに便利だろうとアレックスもジークも理解してる。
弓や槍が聞かない竜という化け物。だからこそ狩人は重く頑丈な武器を使うのだ。
鱗をはがすためのノコギリ。硬い肉を貫くための杭。
だが、そのためには近づかなくてはならない。
これは狩人の生存率を上げる革新的な武器であった。
「でもよ、あんたがこれをもっていかなきゃいけない理由はあんのか?」
「これを扱えるのがわたくしだけなのです」
「……アイギナ嬢にしかつかえない?」
「はい、ウィクトーリアで実験を行っていた際に起動できたのはわたくしだけなのです。その理由まではわからないのですが……」
「なるほど……」
アイギナの話を聞いた二人は落胆した。
ですが、とアイギナが続けた言葉に二人は希望を抱く。
「これはウィクトーリアに送られてくるDg資源で構成されているものです。おそらくですが、アーヴェイロンから送られてくる資源の質はよくないでしょう? こちらにある良質なDg資源を用いれば出力も上がるでしょうしわたくし以外にも利用できるかもしれません」
「……アイギナ嬢は俺たちが出し惜しみをしているといいたいのか?」
少しだけ視線を鋭くしたアレックスにアイギナは首を横に振って否定する。
「いいえ、そのようなことは言いません。わたくしが見たところ、先ほどジークが使っていたあの武器。あれはこの竜杖よりも上質なDg資源を用いて作られているでしょう? 資金繰りとはいえ安全地帯であるウィクトーリアの研究のためにそのようなものを送るとは到底思えません」
「……勘ぐったことを言うのはあやまろう」
「わたくしこそ誤解を招くことを言って申し訳ありません。ですが、この試作品を試してその力を実証すればわたくしが先ほど申し上げた可能性に賭けてくれるでしょう?」
「あんたが言っていることが実現できれば助かる。だったらその実験は早いほうがいいよな?」
ジークが急かすようにたずねる。
その瞳の輝きは期待に満ちている。それはアレックスも同様だ。
「ええ、わたくしはそのためにここに来たのです」




