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The strange dragon fruits  作者: RK
南方より来る異邦の風
5/8

5

「ジーク入るぞ」

「おう」



 ノックの音に一拍遅れてアレックスが入室の許可を取ってきたので返事をする。

 普段であればお互いにノックも返事もしないのでムズ痒い心境になった。

 部屋に入ってきたのは三人。

 我らがギルドマスター、普段はラフな格好なのに今回は正装をしているせいで服に着られている筋骨隆々で禿頭の偉丈夫、アレックス。特に語ることはない。

 二人目は典型的なウィクトーリア人だ。服装は侍女が来ている黒を基調とした服装で形式ばったものの中に動きやすさを取り入れている、所謂使用人の服装だ。金髪翠眼は典型的なウィクトーリア人の特徴だ。

 美人といえる整った顔をしているがこちらを見下した目をしているし態度もウィクトーリア人の典型だ。名前はわからないがこの人物がアイギナお嬢様ではないはずだ。

 であれば三人目、触れたら壊れそうな儚げな少女。服装はウィクトーリアの女性らしいフリルなどをふんだんに使った動きにくく重そうなものだ。肌は日に焼けていないせいか陶磁器のように白い。

 銀髪碧眼は今まできたどのウィクトーリア人にもいなかった。



「こちらのかたが?」

「ああ、あんたの指定した腕の立つ狩人だ。実績も十分でしかも頭に血の上りやすい狩人連中のなかでは理性的だ。名前はジークだ」

「ジーク様、よろしくお願いしますね。わたくしはアイギナ・ヴィグナ・アルトヴァイスですわ。こちらはわたくしの侍女のマリアリアです」



 銀髪碧眼のほうがそう名乗った。その際にアレックスを見る。

 あの意外と体面を気にするハゲが言葉を崩していた時点で疑問に思っていたがこの少女、どうやら変わった人間のようだ。

 普通のウィクトーリア人はアーヴェイロンの人間に『お願い』などしない。



「ジークだ。今後はただジークと呼んでくれ。様はいらない、背中がかゆくなる」

「まあ、アレックスさんと同じことを言うのですね」



 アレックスと同じといわれて思わず嫌な顔をしてしまう。アイギナ嬢の後ろに視線を向ければあちらも嫌そうな顔をしていた。なるほど、こういうところが似ているのだなとさらに気分が悪くなった。



「ふふ、ではジークさんと」

「そうしてくれ。……それで本題だ。あんたどうしてここにきたんだ?」



 そう、腑に落ちないのはこんな少女がどうしてわざわざ人類の最前線にまで足を運んできたか、ということだ。



「わたくしはウィクトーリアではこれでも優秀な研究員でした。簡単に言えばわたくしもここに研究をしに来た、でおおむね間違いはありません」



 自分で優秀と言う。それは実力を知らない馬鹿か、自己評価がしっかりとできた人間か、アイギナ嬢は後者だろう。

 アイギナ嬢はさきほど部屋に運ばれてきた荷物に歩み寄る。



「さきほど運んでもらった荷物はわたくしの研究に関わるものです。これをご覧ください」



 そうして取り出されたのは一本の杖だ。

 だが、わかる。これは俺たちが扱うものと思想としては同じだ。



「これをわたくしは竜杖と名付けました」



 あれは武器だ。人を相手としていない。ジャイアントキリングを行うための得物。

 アイギナ嬢の眼を見る。深い碧色は強い意志を湛えている。

 マリアリアを見る。おそらくこの侍女はわかっていない。

 この竜杖がどういう意味をしているのか。なぜ彼女が扱えるような大きさなのか。

 それを理解していない。この場で一人だけ、彼女の付き人だけが彼女を理解していなかった。



「わたくしも、これで竜と戦えるか。それを実証したいのです」



 だからここで叫ぶ。



「お嬢様っ!? 聞いていた話と違います!!」

「いいえ、話していた通りですわ。わたくしは研究のためにきました。これもまた研究なのですよ」

「わたくしはここでしか手に入らないような素材を用いて研究するのだと思っていました。実際にお嬢様が野蛮人と肩を並べて戦うなど許容できません!」



 マリアリアは「それに」と続ける。



「このような者が本当に役に立つのか私には疑わしいです。狩りを専門にした野蛮人だと聞いていたからどれほどかと思っていましたが、……正直に言えば私のほうがよっぽど役に立つでしょう」



 言ってはいけないことを言った。

 それにいち早く気づいたアイギナ嬢のほうがよっぽどセンスがある。



「おい、弱虫野郎(ウィーカー)。随分と吠えるじゃねえか。キャンキャンキャンキャン飼い主に構ってもらえない犬みてーだな?」

「臭い息を吐くな。耳が腐る。それに私は事実を言ったまでだ」

「事実? はは、お前自分が優秀だと思い込んでるバカなんだな」

「マリアリア、やめなさい。ジークさん申し訳ありません」

「お嬢様、野蛮人に謝罪など不要です。私は事実を言ったまで。それに私はお嬢様が危険に晒されるのだけは許容できません。このような弱輩に任せるのであれば私が一緒に行ったほうがいいです」



 本当に馬鹿だ。己のプライドや自尊心、それに視野の狭さが大事なお嬢様を危険にさらしているのに気が付かない。

 広い世界を知らないのだろう。本当の理不尽を知らないのだろう。

 ウィクトーリアは安全な国だ。海に面した土地でラインと接しておらず安全な場所。今までと変わりない生活を送れる楽園なんだろう。

 だからこそ、こんな言葉が出てしまうのだろう。

 地獄を味わったことがないゆえに。


「なあ、お前がさっきから垂れ流してたそよ風、もしかしてあれに気が付かないから俺らが弱い、なんて思ってるなら間違いだ」



 そのプライド、へし折ってやる。



「アイギナお嬢サマ、お話は終わったあとで詳しく聞きせてもらう。俺たちの実力を見せておくいい機会だ」

「ジーク、処理が面倒だからできる限り殺すなよ」

「自分たちの心配をしたらどうだ? 女だからと舐めているなら後から後悔しても遅い」



 アイギナ嬢もここまでくると額に手を当てている。

 おそらく彼女は優秀だろう。そして自分が普通ではないことを知っている。

 だが、彼女とて人の子なのだ。感情が目を曇らせることもある。

 彼女自身がそれを今やっと悟ったはずだ。



「マリアリア……。わかりました。貴女の力がここで通用するというのならここでの研究の随伴は貴女に任せましょう。そして、お二人にはご迷惑をおかけしますがご()()いただけないでしょうか」

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