2歳 -1-
乙女ゲーム『月にこゐして、我が君よ』の六条薫子、通称『香の君』は、悪女である。
この『月にこゐして、我が君よ』、通称、月コイは竹取物語をベースに考えられた乙女ゲームである。
つまり、ヒロインはかぐや姫であり、攻略対象として五人の公達と帝が出てくる。
そして、ヒロインある所に悪役姫あり、それこそが香の君である。
左大臣を父に持つ彼女は気に食わない身分の下の者には、権力と財力の限りを尽くし、ある時は虐めて自害に追い込み、ある時はならず者に襲わせ、ある時は嬲り殺す。また彼女は相手が自分より身分が上でもあきらめない。相手を呪い、妖術により妖怪をけしかけ、狂わせる。この世の我が儘、傲慢、悪を舐りつくしたのがこの香の君である。
さて、なぜこんな話をしたかって皆様不思議であろう。
なぜなら、私が香の君だからだよっっっ!
思い出したのは、つい先程、2歳にもなり、安定して歩けるようになったため、調子に乗った私は母に会いたくてこっそり母の部屋に向かった。
そこで初めて見たのだ、自分の顔を。
銅鏡に映った私はカラスの濡れ羽色の艶やかな髪、紫にも青にも見えるタンザナイトのような不思議で大きな瞳にそれを縁どる漆黒の長い睫毛。雪のように真っ白な肌に紅を刺したように赤い唇。それらが作り物のように綺麗に収まっている自分の顔を見て思った。
いやまじ、ファンタジーすぎん?
そのまま私は気を失ったのである。