お山の杉の子
お山の杉の子
村に残る言い伝えをお話ししたいと思います。 私はもう長くはありませんので、あなた様が、次の世代にこの言い伝えを残して頂ければ幸いにございます。
昔々、
そのころは村のはずれを出ますと、椎の林が広がっておりました。
その椎の林のそばには、小いさなお山がありまして、
ふもとは、椎の木でおおわれていましたが、そのお山には一本の木どころか草さえも生えておらず、全くのはげ山。
これを不憫と思った神様が、こうおっしゃいました。
「杉の木よ起きなさい。」と。
神様のお声に答え、一斉に杉の木がお山に生えてきました。それはもうにょきにょきと。
にょきにょき、にょきにょき。 どんどん杉の木が増えていき、気付けばそこら中が杉林。今では椎の木を見ることもありません。
そのころからでしょうか。 春先になると、村で、盛んにくしゃみをするもの、目をかゆがるもの、鼻をすするもの、のどを悪くするもの、そういった人たちが数多く出るようになったそうでございます。
それでも、梅雨のころになると、自然と直ってしまうので、それほど困る人もいなかったのでしょう。
ただ困ったのは、昔、椎の林のあったころには、たくさんの山菜や茸が取れ、椎の実を食べる鳥や動物たちもたくさんいて、そういった山の幸を村の者たちは頂いていたのですが、杉の林になってからは、山の幸を頂くことが大変難儀なことになったそうでございます。
私の名前ですか? 私は堀口明日香と申します。
むやみに、感情だけで生態系に手を加えてはいけないというお話でした。 世の中、微妙なバランスで成り立っているんですね。