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第六話



木造の家屋が家事で倒壊したところを見たことがある。


虫も蛙も土から出てくるくらい暖かなあの日、近所の一軒家が火事になったのだ。


そこに住んでいた老夫婦は亡くなったらしい。


床鳴りとは比べ物にならないほどの大きな音で、ぎしぎしと軋みながら最後はどすんと崩れ落ち、黒い煤を撒き散らしていた。


ユキはそんな記憶を思い起こしながら、目の前の光景に口をぽかんとさせていた。


木だ。木が生えている。


ぐねぐねとした太い幹と枝が、ユキ達を囲むように伸びている。


自然に成長すればそうはならないであろう。


元は我々を乗せていたであろう荷台は、粉々に砕けて小さな火種が僅かに残るばかりだ。




「な、何……これ……」


誰が発したか分からない声に皆共感する。


一体何が起こったのか、誰にも分からない。


月影に包まれながら唖然としていると、遠くから蹄が土を蹴る音が聞こえてくる。警備隊が助けに来てくれたのだろうか。


その音が脳に届くか届かないかのうちに、ユキはどさりと倒れ込み意識を手放した。









「は?なんだあれは……」


誰に尋ねるでもなくそう呟き、銀髪翠眼の大男―――サイロンはその顔に驚愕の色を浮かべた。




サイロンは、ここ最近で多発している若い男女の行方不明事件を追っていた。


航海の食糧を仕入れた後も何かを待つように動かない船に警備隊を向かわせ、彼にしかできない特殊な方法でその船の乗組員から事情聴取を行ったのだ。


案の定、奴らは人身売買に手を染めていたらしい。


あの固く不味そうな雑穀は恐らく、攫ってきた者達の食事になる予定だったのだろう。


そしてその犯罪者達の仲間が通ってくる手筈の雑木林を駆け抜け、襲い来る獰猛な牙狼を鮮血と肉塊にしながらここまで辿り着いたのであった。



そんな彼の目には、うごめく触手が燃える木片をバキバキと砕いているという、異様な光景が映し出されていた。


手網を引っ掴み、馬の腹を蹴る。


近付くと、それが触手ではなくなにかの植物だということが分かった。


だとしてもおかしな事が起きている事実に変わりはないのだが。


先程まで少しずつ成長していたその植物も、すでにその動きを止めている。


中央には五人の若い男女が折り重なるように倒れていた。




「おい、大丈夫か!しっかりしろ!」


耳元で声を掛けても反応はない。

しかし全員小さく息をしている。


死んではいないことにほっと肩を撫で下ろし、一人ずつ楽な姿勢を取らせてやる。

皆全身が煤で真っ黒だ。



「遅くなってすまなかった。怖かったろう」


そうぽつりと呟き、その男女の中でも最も幼い少年少女らの頬を骨張ってカサついた大きな手で撫でる。



そうして辺りを見渡すと、不思議なものがサイロンの視界に入った。

どこの国の民族衣装か分からない衣服を身にまとった女だ。

年齢はよく分からない。

子どものような顔つきだが、成人していると言われれば納得できるくらいの中途半端な容姿だ。

他の者達と同様、煤で真っ黒になっている。


その女の肩と袖口から、みずみずしく萌える新芽が生えているのだ。


ふとある考えが過ぎる。

突如目の前に現れたこのうごめく植物は、もしかしたらこの娘が?



(まさかな)


そう心のなかで自分の考えを否定しながら、その新芽を軽くつまみ上げる。


しかしそれが取れることはない。しっかりと女の衣服の繊維とくっついているのだ。




「サイロン様!」


サイロンは自らを呼ぶその声に振り返る。警備隊の者達が追いついたのだ。


「お前ら遅いぞ!」


きっと睨みつけてくる大男に、警備隊の先頭にいた年配の隊員が申し訳なさそうに謝罪する。


「俺は奴らを追う。誰かこの物達を保護しろ!他の奴らは俺についてこい。今度は遅れるなよ!」


ハッと馬の尻に鞭を打つと、警備隊の返事も待たずに駆け出していく。


「おい、行くぞ!あの方の手を煩わせるな!」


「はい!」


年配の隊員は身なりから推察するに隊長なのだろう。


年若い数名の部下に被害者の介抱を指示すると、先に向かったサイロンを他の隊員と共に追いかけた。



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