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第四話



潮風に褐色の頬を撫でられながら、馬車の荷台へと商品を運び込む。


ここでの商売はもう終わった。

滞在した七日間のうち、どかんと売れたのは四日目だけであったが、それでも上々の売上げだ。


そんな自分を賞賛するように、水面で夕日がきらきらと遊んでいる。

最高の気分であった。

無意識に鼻歌まで歌ってしまう始末だ。



(わざわざここまで足を運んだ甲斐があった。これで家内に良いドレスが買ってやれる。そうだ、母さんにも新しい靴を買ってやろう。随分と擦れて今にも穴があきそうだったからなあ……)



そんな浮かれた男に真っ直ぐ近寄る影が一つあった。

そちらは随分と機嫌が悪そうである。


「おい、お前」


「悪いが今日は店仕舞い……ヒィッ!」


先程までうきうきと作業をしていた商人は、その気分に水を差す元凶を睨めつけようと上げた顔を一瞬で強ばらせた。


それも仕方のないことであった。


なぜならその声の主は人喰い熊ほどの巨体で筋骨隆々、己を見る目はまるで竜人族の伝説の大剣の如くするどく、一度姿を視界に入れたのならばその夜は悪夢にうなされるであろう凶悪な人相の大男であったからだ。


夜の雪原のような煌めく短髪をなびかせ、その深緑の眼差しでじっと見つめながら、大男は声を発した。



「お前の商品に興味はない。聞きたいことがある。」


「き、聞きたいこと……?自分は旦那に聞かせるような面白い話なんて……」


商人の戸惑う声に被せるように大男は再び口を開く。


「ここ数日羽振りがいいようじゃないか。お前の同業の奴らが教えてくれたぜ」


そう言ってにやりと笑う顔は、さながら鬼のようだ。


「羽振りがいいだなんてそんな!」


「謙遜するな。いいことじゃないか。なあいくら儲かったんだ?」


商人はサッと顔を青くする。


冗談じゃない。


せっかくの売上をさあ帰ろうとした時に奪われるだなんて。



そう思ったところでふと考えを巡らす。


目の前の大男は一見質素だが、よく見れば地の良さそうな上等な衣服を身にまとっている。


稼いだと言っても個人で出稼ぎに来ている自分にたかるほど金に困っているようには見えない。


大男は続けて言う。


「お前が売っているそいつ、随分不味そうだ。家畜の餌にしかならん雑穀じゃないか。この辺じゃ食い物は魚ばかりで飼料なんぞ買うやつはいないだろう。なんでそんなもの売りに来たんだ?買って行ったのはどんなやつだ?知り合いか?はなから売る相手が決まってまのか?」


大男は尋問するかのようにまくし立てる。


「そ、そんなことはない!自分の村ではみんなこれを季節の果物と煮て食っている。案外美味いもんだぞ。歯も丈夫になるしな。買ってくれたお客も、航路での飯に丁度いいと言っていた」


「本当か?また変わったやつらがいたもんだ。で?そいつらはどこに行くと言っていた」


先程から質問攻めにされさすがの商人もむっとした。


「自分は情報屋でもなんでもないんでね。誰かを探してるなら他のもんをあたってくれんか」


「まあそう言うな。ああ、悪かったよ。俺と話している間も働いてりゃ、このくらいは稼げたもんな」


そういって大男から小銭を握らされる。


「……まあそこまで言うなら無下にはできねぇな。お客はこの湾を渡ってカシンに行くつもりじゃねえか。カシン訛りがあったからな。自分も商人あきんどだ、そのくらいわかる」



カシンとは、ここキサラ王国の東に位置するカシン王領という一神教の国家である。


天地創造の神、カラソノ神を祀り、その末裔を名乗るカシン一族が統治している。


科学・化学を悪とし魔術に長けた者が多い。



「ありゃたぶん密航する気だな。ここ数日出港の準備をしてる様子もねぇ。ほら、あのツギハギのぼろ船だよ。」


それにやたらと臭いんだぜ。そう言って笑いながら一隻の船を指差す。


「船に商品を運んでやろうと言ったらどえらい剣幕で怒鳴られた。余計なことはするなとさ。せっかく親切にしてやろうと思ったのによ」


「よく売れたんでもっと売りつけてやろうと思ったんだろ?」


「へへへ、言うなよ旦那」


バレたか、と照れくさそうにする。



それにしてもこの大男、鬼かと思っていたが、話していると案外人懐こく、顔をくしゃっとさせて笑う癖があるようだ。


はじめのあの不機嫌そうな様子は一体何だったのだろうか。



「よし、ありがとよ!すまんな、怖がらせちまって」


「いいってことよ!旦那、悪いことは言わねえ、あんまり余計なことに関わらんほうが長生きできるぜ」


商人の言葉にくくくっと笑う。


「お人好しなやつだな。お前も危なそうな客に必要以上に絡むんじゃねえぞ。奥方と御母堂に土産持って帰るんだろ!」


じゃあな!と大きく左手を振り上げて返事も待たずに踵を返す。


そうだったそうだったと、暖かい家で待つ家族を思い浮かべて自然と顔がほころぶ。


はてしかし、いつあの大男にその話をしただろうか。


その疑問を忘れさせるように、滲む太陽は湾を挟んだカシンの山脈へと消えていった。




何年ぶりの投稿だ?

保存してあった設定集と国の配置やら特徴やら書き込んだ図が全部消えました。

これからは行き当たりばったりの不定期更新します。

……更新、しま……………す!したいです!できれば!

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