炎の画家と手がかり探し
やる気を感じさせない声だ。余裕たっぷりだったり、くだらない冗談を言っておどけたり、時には、こんな風にやる気が無かったりと、いつもの田口明雅の読めない態度に学は戸惑い、居心地の悪い不安感に包まれた。やはり、苦手だと。
「そういう事だから、二人共、適当に頑張れよ」
田口はそう言うと、手持ち無沙汰ですと言わんばかりに窓の外を眺め始めた。
(同じ組織の人間でもこうも違うとはな。まあ、当たり前といっちゃ、当たり前なんだが)
先月、一緒に仕事をした笹野という田口の後輩は、随分と胡十子を尊敬しているようだった。
初めのうちは、気にならなかったが、話を聞いているうちに、(こいつ、気持ち悪いな)と、次第に思い始め、仕事が終わる頃には、完全にドン引きしていた。
狂信的に胡十子を心酔する笹野より田口のほうがまだマシだと学は思った。田口は苦手だし、嫌いだが、笹野は生理的に受け付けなかった。
(――琴音胡十子)
初めて会った日を学は今でも鮮明に憶えている。時々、その日の夢を見ては、うなされるぐらいに……。
「青崎、ここは手分けして探そう」
「――ああ、そうだな」
半分、物思いにふけりつつ、返事をする。広い屋敷だ。一緒になって探すよりも、その方が効率がいいだろう。それに三日月旭と長時間、同じ部屋にいるというだけで気まずい。そのうえ、真面目な三日月旭のことだ田口の言うとおり本当に適当にやっていると、色々、言ってくるに違いない。
「俺は手始めに、この部屋を調べてみるよ」
「それなら、僕は桐谷龍二の部屋を調べてみるかな」
田口に桐谷龍二の部屋の場所をたずねると、抑揚のない声で事務的に答えた。
学は田口に礼を言い、リビングを出て桐谷龍二の部屋に向かう。
リビングから一番、離れた場所に桐谷龍二の部屋はあった。
木製のシンプルなドアだ。鍵はついていない。以外だと学は思った。
裕福な家庭に育ち、用心深い性格であろう桐谷龍二は部屋に鍵をつけていると思っていたからだ。記憶の中の桐谷龍二を思い出し、学は身震いする。たった一度だけ会っただけだが、異常な男だというのは一目で分かった。
一大事件を起こした桐谷龍二は依然として逃亡中だ。指名手配されているが、いまだに有力な情報は殆んど無い。
学はこの件を引き受けた時の事を思い浮かべていた。
――事の始まりは、三時間前に遡る。