炎の画家と誰もいない家
オレンジ色の夕日が家の中に満ちる。それを埃が反射させ一層、光って見えた。長い間、締め切った部屋独特の埃っぽい匂いに学は顔をしかめる。部屋の中に立ち込める埃やカビのせいで喉の奥がむず痒い気がした。学は少しだけ躊躇した。
(――汚い)
それに、いくら空き家とはいえ、土足のまま、よその家に上がり込むのは、あまりいい気分では無い。しかし、床の上にはフローリングの木目が見えない程、白い埃が積もっている。靴を脱いで歩いたとしたら、どうなるか、想像に難くない。
(――仕方ない)
背に腹はかえられぬと、スニーカーのまま部屋の中へと上り込む。
「――お邪魔します」
誰もいないとはいえ、他人の家だ。学は二人に聞こえないよう、小さな声で挨拶した。前を歩く二人の様子を伺う。少し離れているおかげか、幸い、聞こえなかったようだ。学はホッと胸を撫で下ろす。もし聞かれれば、いい子ちゃんだと、からかわれるのが目に見えているからだ。
しばらく長い廊下を歩くと、突きあたりの部屋の前で田口が立ち止まる。振り向くと、「この部屋だ」と言い、ゆっくりとドアを開け、部屋の中へと入る。二人もそれに続く。
その部屋は広いリビングだった。大きな出窓には陶器で出来た女神を思わせる風貌の人形に高級そうな花瓶が飾られている。
中央には巨木をくり抜いて作られたと思われる立派なテーブルが鎮座しており、そのテーブルを囲むように黒い革張りのソファーが備え付けられている。
飾り棚には沢山のトロフィーやメダル、賞状が所狭しと並んでいる。
その隣に細かな装飾を施した大きな鉢が置かれ、中には枯れた観葉植物の残骸と乾いた土が入っていた。
鉢の周りは枯れた葉っぱが散乱している。学にはそれがやけに無惨に見えた。
田口は部屋の奥にある出窓の前で立ち止まると、縁に寄りかかり、二人を見据える。
「さてと、胡十子ちゃんから聞いていると思うが、今回、二人には桐谷龍二の生家の調査をしてもらう」
田口が感情のこもっていない淡々とした声で説明する。
(――桐谷龍二)
その名が出た瞬間、場の空気に緊張感が走る。
「そう硬くなるなよ。俺達が散々、調べ尽くした後だ。大したものは出ねーよ」
田口が面倒くさそうに部屋の中を見回しながら言った。自分を落ち着かせるかのように小さなため息をつく。
学と旭の顔を交互に見た後、自分の中で一区切りついたらしく、もう一度、小さく息を吐く。そして話を続ける。
「我らが深淵の巫女様のありがたい予知夢によると、お前達が調べれば、桐谷龍二の新たな手がかりが発見出来るそうだ」