炎の画家と堂々巡り
彼女は二人は絶対に気が合うとか、良いチームメイトになれるとか、極め付けは二人は良いライバルになれるとのたまったが学は絶対に無理だし、嫌だと思った。
(僕と三日月旭がライバルだって?冗談じゃない!僕と三日月旭のスペックを考えれば比べるまでもない!)
月とスッポンどころの話しではない。ありとあらゆる理由で冗談だとしても成立しない。
そう何度も彼女に説明しているのだが……。
『えっ〜、そうかなぁ。私から見ると二人は仲良しに見えるんだけどなぁ』
んンな訳、あるか。君はひきこもりの上に世間知らずだから、そんなズレた認識なんだろう。
『それなら、学も一緒じゃない!同じひきこもりなんだから!』
彼女は拗ねたように唇を尖らせ、そっぷを向く。それから自分は怒っていますよと、アピールするためか腕と足を組んだ。
その際に、彼女の短いスカートからチラリッと太ももが見えた。慌てて目をそらし、テーブルの上に置かれたティーカップに視線を移す。バレてないだろうか……。
平常心を装っているが内心、ヒヤヒヤ、ドキドキ、不安と焦りが腹の底に渦巻く。
チラッと目線を上げ、彼女のようすを伺う。組んだ足の片方をユラユラ揺らし、腕を胸のあたりで組んだまま、窓の外を眺めている。
その横顔が少し寂しげに見えたのは気のせいではないのだろう。胸がぎゅっと締めつけられ、痛い。
『ねぇ、学!』
彼女が急にこっちを向く。テーブルから身を乗り出し、瞳を覗き込むような上目遣いで、じっと見つめてきた。
『お願いしてたアレ、持って来てくれた?』
――近い。自分の顔が彼女の大きな瞳に映っている。
カッと顔が熱くなり思わず彼女から大きく体を反らし、『ああ、アレだよな。ちゃんと持って来たぞ』とか言いながら、隣に置いていたリュックサックを掴み、中から頼まれていた物を取りだして彼女に差し出す。
早口で言っていたうえに思いっきり挙動不審だったので、尚の事、恥ずかしくなったが後の祭りだ。いくらバレバレとはいえ、とりあえず何事も無かったかのように平常心を装う。
取り繕った顔が引きつっているのが自分でも分かったがこのまま乗り切るしかない。
彼女は嬉しそうにニッコリと微笑むと、両手で受け取った。自分が座っていたソファに腰を下ろすと、まるで宝物を扱うがごとく、慎重にページをめくる。
『――素敵。やっぱり、すごくいいよ。学』
大げさだ。こんなの少し練習すれば、誰にだって出来る。それこそ君がやればいい。ひきこもりの趣味としては丁度いい。そう言うと、彼女は首を横に振る。
『ダメよ。全然、ダメ。学みたいに出来ないもの。学は誰にだって出来るって、言うけど、絵って特に個性が出来るでしょ。これは学しか描けない。学しか出来ないものだよ』
それは君がくれた力のおかげだ。自分の実力じゃない。そう言うと、彼女はまたかぶりを振る。
『前にも言ったけど、私は個人に眠っている能力を引き出すだけ。学の力は正真正銘、学の才能だよ。なんで分かってくれないの』
彼女は悲しげに俯く。
彼女を傷つけてしまった事に罪悪感を覚えるが、適切な言葉が見つからず、思考が混乱する。
何か言わなければとか、どうすれば挽回、出来るのかとか、嫌われてしまったのではないかとか、自分自身の保身ばかり考える己れがつくづく嫌になる。
彼女の背後に立つ西島智子の冷ややかな視線が尚更、痛かった。




