炎の画家とティータイム
学と旭を見送った胡十子と西島智子は向かい合ってソファーに座り、紅茶を飲んでいる。
「胡十子様。どうして、たいした事は起こらないと嘘をおっしゃられたのですか?」
西島智子が表情を変えず、真っ直ぐ胡十子を見据えて言った。
桐谷龍二が現れたことに疑問を感じたんだろ。胡十子が可笑しそうに笑う。
「嘘じゃないわ。実際、たいした事には、ならなかったじゃない。桐谷龍二は学に危害は加えたけど、ケガはさせなかったでしょ」
胡十子は皿からピンク色のマカロンを一つ摘み、力を込める。パリッという音を立てマカロンの両面が割れた。胡十子は口の中に放り込み、咀嚼すると、それを紅茶で流し込んだ。
「トモちゃん、私ね。幸せになりたいの。好きな人のお嫁さんになる。それが私の小さい頃からの夢」
西島智子は何も言わず、ティーカップに口をつける。
胡十子がティーポットの取っ手を掴んで、自分のティーカップに紅茶を注ぐ。波紋が静まり琥珀色の液体の表面に胡十子の顔が映る。
「学は私と幸せにならなきゃならないの。その為の試練だと思って学には頑張って貰わなきゃね」
「戦闘向きの能力では無いのにですか?」
西島智子の表情が少しだけ曇る。
それを見た胡十子が面白そうにクスクスと笑い声をあげる。
「戦闘向きの能力じゃないからこそだよ。その為に戦闘向きの能力者を学と組ませているんでしょ。戦闘向きの能力じゃ無くても十分役に立つんだって、学には自信を持って欲しいんだけど、まだまだ先かなぁ」
素敵な力なのにね、と胡十子が独り言のように呟く。
西島智子が僅かに微笑を浮かべ頷いた。
二人は同時にティーカップを手に取り紅茶を飲んだ。




