炎の画家と手紙
『僕の勝ちだな。青崎君。君は全くもって勝負にならなかった。残念だ。これを期に絵に慢心するよう願っているよ』
思わず、手紙を握る手に力がこもる。怒りで脳みそが煮えてしまうのではないかと思うほど熱い。同時に自分が情けなくて、腹の底が冷んやりと冷たくなってゆくのが分かる。
「ごめんね。学」
悲しげな胡十子の声に学は思わず顔を向ける。胡十子は心底、悔いているかのような悲痛な顔で学を真っ直ぐ見つめている。
「―ーいや、俺の方こそ、ごめん」
この中で一番悔しい思いをしているのは自分じゃない。胡十子だ。
信頼していた仲間である桐谷龍二に利用されたあげく裏切られたのだから。
それをあと一歩というところで取り逃がしたうえに自分の予言が外れたために仲間を危険に晒してしまったという事態になってしまい、悔やんでも悔やみきれないだろうと……。
それなのに自分の事しか考えていない自分はクズではないか。心優しい胡十子の心中を察した学は自分を恥じた。
「今回の件の責任は俺にある」
田口が重々しく口を開いた。
最初の調査で地下の隠れ家を探せなかった事に加え、桐谷龍二を取り逃がし、あまつさえ、見習いである学と旭を危険に晒した事に責任を感じ悔いていた。
「だが、三度目は無い。次は必ず捕らえる」
いつも飄々としている田口の意外な一面を見た学は、ほんの少しだけ見直した。
「本部には俺から報告しておく。今回は二人とも本当に良くやった」
そう言って田口は学と旭を労うと、西島智子と胡十子に挨拶を済ませ、部屋を後にした。
扉を開けた際、一瞬だけ胡十子に目を向けたがその視線には誰も気がつかなかった。
「お二人ともお疲れでしょう。今日のところは早く帰ってゆっくりお休みください」
西島智子がいつもどうりの仏頂面で言った。
だが、気のせいだろうか?いつもより、口調が柔らかく感じた学だった、が、まさか……鉄仮面、西島智子にそんな一端の優しさがあるはず無いと思い直した。
「それではお言葉に甘えて本日は失礼させていただきます」
旭が深々と頭を下げた。それにならい、学も頭を下げる。
「二人ともまたね。気をつけて帰ってね」
胡十子が微笑み、手を振る。学と旭は頭をあげると、別れの挨拶を交わし、部屋から出た。




