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炎の画家と幻

 突然、ガン!ガンッ!という金属の板を蹴る音が響く。

 学は慌てて廊下の曲がり角まで走り、壁に張り付いて身を隠す。

 次の瞬間、轟音と共に扉が破られた。

 その勢いで猪の体が吹っ飛んだ。


 だが、猪は壁に激突する直前、空中でくるりと一回転し、体勢を変えると四肢で壁を蹴ってそのまま廊下に着地した。


 猪は着地するやいなや猛スピードで扉を蹴り破った人物、旭の元へ突っ込んで行く。

 旭は鞘をつけたままの刀を大きく振り被った。

 すると爆風が巻き起こった。

 風の塊が猪に襲いかかる。

 衝撃で猪は体をよじる。


 まるで目に見えない鞭で打たれているかのようだ。

 旭は部活で素振りの練習をするかのように慣れた様子で刀を振る。

 風がいくえもの束となって次々と猪に襲いかかる。

 猪は滅多打ちになりながらもこれ以上、後退する訳にはいかないと言わんばかりに四肢に力を込め、踏ん張ろうとするが、努力、虚しく、後ろへ後ろへと退がって行く。


「ウォォーーー!」


 突然、猪が雄叫びをあげると、気が触れたかの如く、頭を左右を振り始めた。

 頭を振るたびに穴という穴から蔓が飛び出る。

 ウネウネと動く蔓は猪の頭部を完全に覆った。

 そしてもう一度雄叫びをあげると、どこにそんな体力があったのか、物凄い勢いで旭に向かって突っ込んで行く。

 旭が刀を振るう。

 生み出されたばかりの風が何重にも襲いかかるが、猪は諸共せず向かって来る。

 複数の緑色の蔓が触手のように伸ばし、旭に襲いかかる。旭がそれをかわす。


 だが、猪は怯まず、再び蔓を伸ばす。


 数十の蔓を空中で絡まり合わせ、太い縄のような形状に変化させる。

 一本、二本、三本と増えた蔓の束は鞭のようにしなり、旭を襲う。

 一本目が旭の頭上をめがけ振り下ろされ、旭はそれを鞘をつけたままの刀で叩き落した。

 弾かれた蔓の束は空中で大きくうねり、再び旭に襲いかかる。


 それに続けと言わんばかりに、二本目、三本目と、間髪入れず襲いかかる。

 一本目を弾き、二本目も同じように叩き落とそうとした瞬間、二本目の蔓が刀の鞘に巻きついた。これは幸いとばかりに、一本目と三本目の蔓が三日月旭の頭蓋、めがけて振り下ろされる。

 しかし、旭の頭上に降り注いだのは、蔓の鞭の打撃では無く、バラバラになった蔓の残骸であった。

 輝かんばかりに美しい直刀。

 それが三日月旭の右手にあった。

 左手には蔓が絡んだ鞘をしっかりと掴んでいる。旭が力一杯、鞘を引っ張ると、猪の耳や鼻や口から長い蔓の束が引っ張り出された。

 耳の穴からピンポン玉ぐらいの大きさの植物の種らしきものが勢いよく飛び出す。

 弾丸と見まごう勢いで旭に向かって突進する。


 だが、旭は慌てるそぶりも見せず、実に落ち着いた様子で素早く刀を振るう。


 鋭い刃で蔓の塊を真っ二つにしたかと思うと、あっという間にバラバラに切り刻んだ。

 切り刻まれた蔓と種子の残骸が床に散らばる。

 ピクリとも動かない蔓と種の残骸。

 旭は刀を構えたまま動かない。

 その様子を学は固唾を飲んで見守る。

 すると、旭が真一文字に刀を振るった途端、突風が吹き荒れた。

 床に散らばる蔓の残骸を一欠片も残さず巻き上げ、廊下の突き当たりまで押し込めてしまった。蔓の残骸は壁に叩きつけられ、床に落ちて行く。今まで動いていたのが嘘のようだ。

 学は隠れていた曲がり角から飛び出し、旭に詰め寄る。


「三日月!桐谷龍二が近くにいるんだ!早くしないと逃げられる!」


 そう言うと、学は旭が蹴破った扉に向かおうとした時だった。右腕をガッチリと掴まれ、学はつんのめる。


「何するんだよ!」


  カッと頭に血がのぼる。と、同時にズキリと痛みが走る。

 慌てる学とは対照的に旭は眉ひとつ動かさず、落ち着き払っていた。


「この草原は青崎の能力の所為なのか?」


「ハァ?」


 学は一瞬、旭の言っている意味が分から無かったが、じっと廊下を見続けている旭の視線の先に気づき、ようやくピンときた。


「ああ、そうだ。解除する」


 そう言うと、旭の目の前から広々とした草原が消えた。

 かわりに曲がり角のある廊下が現われた。

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