炎の画家と獣
音は徐々に大きくなってゆく。
学はハッとし、後ろを振り返る。
こっちに向かって来ている!
学は走った。スケッチブックを握りしめ、ひたすら走る。
しかし体調不良に加えて、日頃の運動不足もたたり、思うように進めない。
音の音源らしきものの荒い息づかいが耳に届く。徐々に音の根源らしきものとの距離が縮まってゆく。唸り声と足音が迫る。
近い!
学はひたすら走る。
走って走ってやっとの思いで入って来たドアの近くまでたどり着いた。ドアまで直進だ。
(今だ!)
学は右側の壁に飛び退き、背中をぴったりとくっつけて壁に張りつく。
その刹那、学の目の前を茶色の物体が物凄い速さで通り過ぎて行った。
それは猪だった。
猪は学に全く気づかず、猛スピードでドアに突っ込んで行く。
ドォーンという音が響いた。
猪がドアに激突したのだ。
猪は脳震盪を起こしたのか、口から泡を吹いて倒れ、そのまま気を失ってしまった。
ひっくり返った猪の四肢がピクピクと痙攣している。
まさか死んでしまったのではないかと思い、恐る恐る近づき、猪の顔を覗き込んだ途端、四肢だけではなく、全身が大きく痙攣し始めた。
驚いた学が慌てて飛び退く。
猪の頭が上下左右に激しく痙攣し、やがてピタリと動きが止まった。
次の瞬間、猪の耳から緑色の蔓が飛び出した。
蔓は耳だけではなく、口や鼻の穴からも次々と飛び出、蛇のようにうねっている。
学は見ているだけで卒倒しそうだった。
虫だけではなく、爬虫類も苦手だったからだ。
今すぐここか逃げ出したいが、不気味な植物を生やした猪を横切るのは恐ろしすぎる。
扉は目の前だというのに。
学は唇を噛み締める。




