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炎の画家と白

「それではゲームスタートだ」


そう言い、桐谷龍二が学を縛っているロープを解いた途端、学の視界が真っ白になる。


一瞬、なにが起こったのか分からず、パニックになった学は反射的に手で払いのける。

柔らかい感触が肌に触れ、それの正体が分かった。白衣だ。

桐谷龍二が目くらましの為に脱ぎ捨てた物だ。


「うあ、汚ねッ!」


思わず白衣を投げる。なんて嫌な奴だ!あの野郎!新たな怒りが沸いてきた。

学は立ち上がる。

まだ頭も痛むうえに体もふらつくが文句を言っている暇は無い。

早く桐谷龍二を追いかけなければ。部屋の中を改めて見回す。

部屋には窓も無く、出入り口らしきドアは一つだけだ。

視界は遮られていたが、扉を開閉する音を聞いた気がする。


学はリュックサックを右肩にかけると、その唯一のドアから部屋の外に出た。

既に桐谷龍二の姿は無くコンクリート打ちっぱなしの無機質な壁に囲まれた廊下が真っ直ぐ続いている。

学はリュックサックから筆箱とスケッチブックを取り出し、鉛筆で廊下を描く。描き終えると、そのページを破り、折りたたんでポケットにしまった。


他にも以前、描いた絵を破き、ポケットにしまう。廊下にまで嫌な匂いが漂っており、複数の匂いが混じり合って吐き気をもよおす。

むしろ廊下の方が臭い。

少しマシなった頭の痛みが再び強くなる。


けれど進まなければ、早く奴に追いつかなければ、捕まえなければ、田口さんと三日月に知らせなければ、胡十子を誘拐し、苦しめた犯人を必ず捕まえなければならないと、そう強く思い学は進む。体が怠く、足が重い。それでも進む。


しかし、しばらく進むと、壁にぶち当たった。

行き止まりだ。


右を見る。木で出来たドア。


左を見る。金属で出来たドア。


さて、どちらに行く?学は己れに問いかける。

リュックサックからセロテープを取り出すと、さっき描いた廊下のスケッチの裏面の四隅に付けた。


(大事な物は丈夫な扉で守るよな、普通は……)


そう思い、学は左の金属で出来たドアノフを回し、力一杯、押し開ける。

しかし、そこは出口ではなく、同じような廊下が続いているだけであった。

がっかりすると同時にほんのちょっぴり安心した。

なにか恐ろしいものが出て来なくて良かったと。

一旦、廊下のスケッチはポケットにしまい、中に入る。

ポケットスから絵を一枚取り出すと、セロテープで壁に貼りつける。まずは奥まで進もう。

そう決心し、歩き出す。


(―ー一体、出口はどこだよ!)


学は毒つく。先が見えない長い廊下は曲がりくねり、歩いても歩いても終わりが見えない。

さっきのようにドアが現れることも無く、ひたすら同じ廊下が続いている。それに臭い。

奥に進めば進むほど臭いは強くなってゆく一方だった。

それに伴い、頭の痛みも増していく。

妙な臭いだ。なんの臭いだ。薬品とハーブと機械油と、それと……そうだ!

獣の臭いだ。

獣の臭いが強くなってきてるのか!

学の背筋に冷たいものが走る。嫌な感じがする。もっと早く気がつくべきだったと学は悔いた。

とにかく引き返そうと背を向ける。


「ヲォォォォォォォ‼︎」


けたたましい獣の咆哮が響く。

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