炎の画家と回想
すると、轟音と共に瓦礫の山の一部が吹き飛んだ。次に爆風が大量の埃を巻き上げながら、体を叩き通り過ぎて行く。舞い上がった大量の埃やチリが煙幕のように周囲を覆い隠している。
息苦しくて、咳き込む。目も痛いが、泣き言は言っていられない。目を細め、シャツの袖を口元にあてて、前へと進む。前へと進むうちに次第に粉じんが治まってきた。
ふんわりと舞い上がった粉じん越しに二つの影が映る。
心臓が大きく飛び跳ねたのが分かった。鼓動が速い。どくどく煩くて気持ちが悪い。喉の奥さんから酸っぱいものがせり上がってくるのを必死で飲み込む。
粉じんは完全におさまり、二人の姿がはっきりと現れた。
横たわる彼女を彼が抱き抱え、片方の手でしっかりとその手を握り締めている。
――ああ、そうなんだ。
美しい光景だった。今まで生きてきて綺麗だと思う光景や景色を見た事は何度かあった。
けど心の底から美しいと思ったのはこの時だけだった。
――僕はヒーローになんてなれない。
別に世界を救うヒーローになりたいわけじゃ無い。只々、些細なことでもいいから誰かの役に立ちたかっただけ、なのに……。ガクッと自分の身長が縮んだ。さして、気にも止めず、しばらく茫然としていたが、何気なく下を見ると、膝をついているのが分かった。
立ち上がろうするが、足に力が入らない。それも、そのはずだと笑みが溢れる。
傷だらけだった。ズボンはズタズタに切り裂かれ、血が流れている。
体が重い。まぶたが重すぎて、これ以上、目を開けていられない。意識が朦朧とする。
ヤバい。フラフラする。これ以上、体を支えられない。もう、ダメだ……。