炎の画家と黄色い色
今、目の前に立っている男はまるで憑き物が落ちたかのようにサッパリとしている。だが目の奥は笑っていない。
(前と同じだ。変わってない)
まるで地を這う蟻でも見ているかのような目で人を見るのだ。
――違う。蟻じゃない。――蛙だ。コイツは蛇で僕は……
(――蛙じゃない!)
このままパクッと喰われるなんて絶対に嫌だ!己を奮い立たせ、目の前の男を睨む。
「よお、あんたも元気そうだな。とっくに野たれ死んでるかと思ったのによぉ」
腹の底から声を絞り出す。
声が裏返ったり、うわずったりし無かったことに学は若干、ホッとする。それを聞いた桐谷龍二は声をあげて笑う。
「心配してくれたのかい? 嬉しいよ。見ての通り元気さ。そんなことよりも僕を見て何か気がつかないかい?」
そう言い、わざとらしく髪をかきあげる。黄色の髪が指の間をするりとすべり落ちてゆく。ここまで芝居じみた仕草をする人間を見たのは初めてだ。と、学は思った
そして疑惑が確信へと変わる。
(――こいつ、かなりのナルシストだ!)
でなければ、こんな派手な髪に染めるはずがない。学は桐谷龍二が逃亡する直前まで一緒にいた唯一の人間だ。あの時、取り逃がさなければ。自分が戦闘向きの能力ならば。と、何度、思ったことか。
何度、後悔したことか。
学は奥歯を噛み締める。
一方、桐谷龍二は、どこ吹く風といった様子で髪を自分の指に巻きつけて遊んでいる。
自分で聞いておきながら、この態度。
なんて奴なんだ!
学は心底、腹を立てていた。
(お前の髪の感想なんて“派手“以外になんの感想があるって言うんだよ)
学はそう思いながら、改めて桐谷龍二の姿を頭のてっぺんからつま先まで眺める。
少し長めのド派手な黄色の髪、痩せすぎているせいか、少しこけた頰に、鷲鼻、薄紫色した薄い唇、異様な眼光を宿した目、血色が悪いせいなのか、肌が青白い。白と水色のストラップのシャツの上に白衣を羽織っており、紺色のジーンズを穿いている。靴は茶色の革靴だ。
とにかく派手だ。街で見かけたらさぞかし目立つであろうと、学は思った。逃亡者のくせによくそんな格好、出来るな。ある意味感心するよ。と、思い、睨み続けていると、桐谷龍二がクスクスと笑い出した。
「なにが可笑しい」
映画やドラマでありがちな陳腐な台詞を発したことに自分で言っておきながら、ちょっと気恥ずかしくなった。しかし今更だ。どうせ自分の心境なんて桐谷龍二には分からないのだから、素知らぬ顔でやり過ごせばいい。学は開き直った。するとなぜだか桐谷龍二は笑うのをピタッと止めた。口が弓なりに大きく歪む。




