炎の画家と生物学者
キーーンとした音で学は目を覚ました。と、いっても意識はまだ朦朧としている。
体が鉛のように重い。
それに苦しい。頭すら重く感じる。
――駄目だ。耐え切れず、うつむく学の目に飛び込んできたのは、太い蔓だった。
再び、キーーンとした音が頭蓋に響く。
思わず顔をしかめ、歯をくいしばる。
脂汗が額に滲む。息苦しく、呼吸が乱れ、涙で視界が歪む。
(ダメだ! ダメだ! しっかりしろ! 気を失うな! )
力を振り絞って、顔を上げる。
額の汗がするりと輪郭をなぞり、下へと落ちる。それと一緒に涙の粒も数滴、落ちた。
おかげで視界が若干クリアになった。
学はゆっくり息を吸い、そして吐く。
やけに鼓動がうるさい、落ち着け、落ち着け。
そう自分に言い聞かせ、まわりを見回す。
部屋の中は薄暗く、薬品と薬草の匂いが充満している。
鼻の奥にツーンとくる刺激臭に学は吐き気を催す。ひとりでに目に涙が滲む。
これではいけないと、学は顔を左右に振り、涙を振り払う。
きちんとまわりを見なければ……。
そう思い、目を凝らす。
部屋の中央に置かれた学校の理科室にありそうな大きなテーブルの上にフラスコやビーカーなどの実験器具、土の入ったプランターに太陽光代わりのLEDライト、冷蔵庫、顕微鏡、パソコン等、様々な物が乱雑されている。
明らかに飲みかけの紅茶らしい液が入ったティーカップの横には黒い表紙の本が広げたまま伏せられている。
――明らかに誰かいる。
その時、背後からドアが開く音が聞こえた。
振り向こうにも、柱にがっしりと括り付けられている為、身動きがとれない。
ドアを開けた人物は靴音を鳴らしながら、段々とこちらへと近づいて来る。
小気味良い靴音が目の前で停止した。
度肝を抜かれるとは、まさにこの事だと学はふたつ意味で驚愕していた。
一つは桐谷龍二がこの場に現れた事。
もう一つは、その姿だった。黄色だ。
ひまわりの花を思わせる鮮やかな黄色だ。
久しぶりに再会した桐谷龍二は髪を真っ黄色に染めていた。
学は一度、会っただけだが、その時は確か黒髪だったはずだ。
桐谷龍二。
忘れるはず無い。
あの日。胡十子が誘拐され、自分が能力に目覚めた日。
そして――。
「やあ、青崎君。久しぶりだね。元気そうでなによりだ」
桐谷龍二が笑う。実に晴れ晴れとした笑顔だ。
前はもっと陰険でねっとりとねばつくような笑顔だった。




