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炎の画家と切り花

(そういえば、アーモンドの花って桜に似てるな)


  なんとなく疑問に思い、『花咲くアーモンドの花の木の枝』とスマートフォンに打ちこみ、検索する。


  (なるほどな。弟、テオの子どもが産まれた記念に贈ったものなのか……。確かゴッホは生活費を弟に出して貰ってたんだよな)


  もう一度、スマートフォンの画面に目をやるそこにはアーモンドの花言葉が記載されており、『聖書には『命の復活の象徴』とされているとあった。


  (復活……。縁起でもない)


  再び絵画に目を移す。青、一色の空、桜に似たアーモンドの花、どことなく日本画を思わせる構図……。

 華やかで厳か、そしてどこか不安げな絵。

 ゴッホの絵は初期も後期もどうしようもない不安が練りこまれているように学は感じていた。

 隠し味のようにさりげなくという時もあれば、これでもか!と言わんばかりにぶちまけられているように学の目には映っていた。

 絵に近づき、真っ正面に立つ。

 手を伸ばすと、『花咲くアーモンドの木の枝』の複製画を壁から外し、裏返す。


『1985年4月9日 龍二 誕生』と記されていた。


 ここに書かれている龍二とはおそらく桐谷龍二のことであろう。複製画とはいえ、誕生祝いに絵画を贈るなんてなかなか趣味だと学は思った。

 ふと窓の外に目をやる。

 そこに広がる荒れ果てた日本庭園。

 伸び放題の杉の木が四本と、艶のある緑色の葉が茂る一本の桜――。

 いや、桜じゃないな。

 桃だろうか?と学は疑問に思い、もっとよく見ようと窓に近づく。


(――駄目だ。全然、分かんねー)


  窓に手をかけ、少し力を入れて引いた。

 キィーーっという金属が擦れる嫌な音を立てる。

 窓を開けると青々しい匂いが鼻腔を刺激した。

 鼻から肺へそして身体中へと巡っていくような感覚に学は底知れない恐怖と嫌悪を覚えた。

 植物の死んだ匂いだ。

 それは学がまだ小学生だった頃、母がひまわりの花束を貰ってきた事があった。

 黄色とチョコレート色のひまわりと白いかすみ草。

 立派な花瓶に入れてリビングのテーブルの上に飾っていた。

 綺麗な花だから一本だけ、この黄色いひまわりの花だけをと……文字通り、花の部分だけとハサミで切り落としてから、部屋に持って行こうと手の平にのせた。やっぱり綺麗だ。これでいい匂いだと完璧だと匂いを嗅ぐ。

 だが予想に反していい匂いなどしなかった。

 それどころかむしろ青臭い嫌な匂いだった。

 どこがどう匂うのかと根源を探ろうとひっくり返す。すぐに分かった。

 切り口だ。

 茎と花の境目。

 みずみずしいその切り口から死の匂いが漂っている。

 そう思った途端、急に気持ち悪くなってきた。

 これは切り花、根から切り離された時点で死に向かっており、その死はとても緩やかでなんだかとても怖い。

 学は振り返り、切り離した茎を見る。

 花瓶に刺さったそれはまるで頭を失った胴体のように学の目には映った。

 首無し死体のようだと……。

 それ以来、草が生い茂る原っぱの匂いや草刈りをしたばかりの土手の匂いが大の苦手だった。

 桐谷邸の庭園は木々も草花も好き放題伸びており、小さな羽虫が数匹、舞っている。

 学は意を決して地面に降り立つ。

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